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忍者探偵・河童倫太郎  作者: まさひろ
case9 二つ島へようこそ
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case9 導入編

「テメェこら姫(ひめ)!お前は何時になったら加減を覚えるんだ!」

「にゃ~、儂の言う事を聞かないあの犬畜生が悪いにゃ」


 儂は高貴なる猫又の姫である。このガラの悪い声の主は、大変不本意ながら契約を交わしている飼い主の河童倫太郎(かわどう りんたろう)、まぁ呼ぶときは駄目男で十分である。


「まぁまぁ、姫さんも悪気はなかったわけですし」


 この声の主は、奇特な事に駄目男の下で丁稚奉公をしている緑川鈴子(みどりかわ すずこ)、こんな所で働いている割に少しは話の通じる人間である。


 これは、そんな玩具箱の様な探偵社で、肉球に汗を滲ませながらも甲斐甲斐しく働く、健気な猫又の物語である。





「やっとるかね」


 カランコロンと下駄の音を響かせて一人の女性が河童探偵社のドアを開いた。その女性は大正ロマンなハイカラな服装に、大きな目を銀縁丸メガネに収め、栗色のボリューミーな髪を葉っぱを象ったブローチで纏めていた。


「にゃ~ん」


 猫形態の姫が鳴いたのを倫太郎は手で制し。突然の客にソファーに対し顎で示しながらこう言った。


「見ての通り、開店中だ。用事があるんならそこに座りな」

「かっかっか、儂が言うのもなんじゃが、あまりにぶっきらぼうな対応じゃのう」


 その女性は笑いながら、来客用ソファーに腰掛ける。

 その時だ、窓辺で日向ぼっこをしていた姫がトコトコとその女性の方に歩いていき、彼女の目の前に立つと人型に変化した。


「ちょ!姫さん!!」


 鈴子が慌てて制するも、もう遅い。変化した姫は機嫌悪そうに腕を組みその女性を見下ろした後、倫太郎に振り返りこう言った。


「倫太郎、こやつの依頼なぞ受けることは無いにゃ。とっとと追い返してしまえ」

「ん?なんだ、お前そいつの知り合いか?」

「いーや、初対面だにゃ。だけど、こいつがとびっきりの厄であることは直ぐ分るにゃ」


 そのあまりにもな物言いに関わらず、その女性はニヤニヤと笑いながら、面白そうに事の顛末を見守っていた。


「そんなもんかい?俺としちゃ、ちゃんと依頼料を払ってくれれば誰でもいいんだがね」

「にゃーにを言っとるのかにゃ、この駄目男は!?この女の危険性がわかんにゃいのかにゃ!?」


 姫は、その女性を指さしこう続けた。


「このおんにゃは!儂とキャラが被ってるにゃ!!」

「喧しい、仕事の邪魔だ」





「さて。では、改めて、先ずは正体から晒した方がいいのかい?」


 簀巻きにした姫を事務所の片隅に放置した倫太郎は、改めてその女性の話を聞くことにした。


「好きにしな。人間の依頼者だって本音を隠して依頼してくる奴はごまんといる」

「かかか、はなっから見破られてるのはつまらんのう。まぁ察しの通り儂は人間じゃない有体に言えば狸妖怪、化け狸じゃな」

「ほえー、狸ですか」


 この中で唯一の一般人である鈴子は感嘆の声を出しつつ、お茶を振る舞う。


 ありがとうよ、嬢ちゃん。そう言って化け狸は麦茶を一すすりしてから話を続ける。


「先ずは自己紹介と行こうかのう。儂は二つ島と言う所で、狸どもを取りまとめている、岩屋マミ蔵(いわや まみぞう)と言う化け狸じゃ」

「へぇ、メスが親分とは珍しいな」

「かかか、人材難、いや狸材難と言うべきかの。まぁ妖怪には住みずらい世の中じゃからの、こっちにも色々とあっての」

「ふーん。御定まりの環境破壊でなんちゃらってやつか」

「まぁ、そんなもんじゃ。儂ら狸はそこの猫族の様に、人に取り入って暮らす器量が無かった故な」


 そう言い、マミ蔵は遠い目をする。その目が見ているのは嘗ての薄暗闇が支配していた世の中だろうか。


「もがーもがー!」

「あのー、倫太郎さん。姫さんが何か言ってますが」

「ほっとけ、どうせ大したことは言ってない」


 姫は猿轡をされた口で、何かを訴える。その目に愉悦の色が浮かんでいることから、おそらくは『狸ざまぁ(笑)』と言った内容だろう。


「それで、話を続けさせてもらうがの。先ほどの話と関係があるのじゃが、儂らの暮らす島にも本格的に開発の波がやってきての」

「へぇ、この不景気な時代に剛毅な話で」

「かかか、儂らの調べでは、景気は徐々に上向いてるようじゃがな、まぁその辺はどうでもよい。

 兎に角、そう言ったわけで、狭い住処がますます狭くなってきておるのじゃ」

「おいおい、開発の邪魔をしろって言うんじゃないだろうな、流石にそれは両手が後ろに回っちまうぞ」


 倫太郎の発言に、マミ蔵はカカカと笑ってこう続けた。


「そうなれば、最高じゃがの。流石にそれは求めちゃおらん、本題はここからじゃ。

 その開発のどさくさに置いて、儂らの所有する秘宝が紛失してしまったんじゃ」

「秘宝とは?」

「勾玉じゃ」


 そう言い、マミ蔵は懐から純白の勾玉を取り出す。


「それと対になってる奴ってことか」

「かかか、話が早くて助かるぞい。その通り、無くなったのは陰の勾玉。この陽の勾玉と対になっている品で、黒い色した勾玉じゃ」


 勾玉のサイズは掌に収まる程度、アクセサリーとしてはやや大振りだが、1から探すとなると小さすぎる品だった。


「で、お前らはそれを使って何を企んでたんだ?」

「かかか!ほんとに話が早すぎて、つまらんのう!」


 マミ蔵は言葉を聞いて大笑いする。


「阿保か、人間様を嘗めるんじゃねぇ。それが後生大事な物なら、真っ先にそれをもって非難するはずだ。

 だが、テメェは間抜けにもそいつを無くしちまったと言う。それはつまり、そいつを使って最後まで何かをしてたって事だ」

「正に、正に察しの通りよ。この勾玉は儂ら化け狸の妖力を増幅させる秘宝でな、二つ揃えば10倍にも100倍にも強くなる品物だったのじゃ」

「……おかしいな、そんな御大層な品物があっても妨害に失敗したってのか?」

「ふむ、それが不思議な事なのじゃがな。相手に特級の陰陽師でもおったのか定かではないが、儂らの掛けた術は通ぜんかった」

「…………、もしかすると、どっからどう見ても胡散臭い大柄な黒人男とか居なかったか?」

「そんなけったいな物はおらんかったがの。ともかく現場は儂らがさらっている所じゃがとんと見つからん。となれば」

「その工事会社にあるかもしれねぇってか」


 その通り、と言ってマミ蔵はニヤリと笑ったのだった。



新話開始


猫と狸の馬鹿試合、化かし合になるかもしれません。

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