case6 探索編 1
「いやー、凄いです。ダイヤモンドは永遠の輝きとはよく言ったものですね!」
手にしたダイヤと同じくらいに目を輝かせた鈴子は、溢れんばかりの笑顔でそう言う。
「ちょっと、これだけのブツを捌くには、特別なルートが必要だな、面倒くさいが翔子に紹介してもらうか」
倫太郎も、口元が緩むのを抑えきれない様子で、分かりもしないのにルーペで拡大しながらそう言った。
「えー、換金しちゃうんですかー、一個ぐらいわたしに下さいよー」
「大きく出たなお前さんも。まぁいいぜ、こんだけあるんだ。この小さい奴二つ、ピアスにでもしちまえ、特別ボーナスだ。
ただ、加工するのはもう少し待てよ、これは解決料こみのダイヤだからな」
二人が目の色を変えて、ダイヤにかじりついていると、姫も会話に混ざってくる。
「みゃあ、儂にはなにも無いのかの?」
「はぁ?それこそ猫に小判だろ。まぁ晩飯のグレードは上がるからそれで辛抱しろ」
「まったく猫使いが荒いご主人様だにゃ。
それで、これからどうするのかにゃ?」
「はっ、その点については、下調べは済ませてあるだろ」
倫太郎は、和孝が置いていったファイルに手を置いてそう答えた。
「しっかし、良く調べてあるぜ」
「そうですね、本職顔負けです」
二人は、改めてファイルの中身を吟味すると、そう感嘆の声を漏らした。ファイルにはピンクのカタツムリ、つまりはミ=ゴ星人の行動パターンについて事細かく記されていた。
中には監視カメラの画像ともみられる写真も添えられており、不自然にコートを被り、大きめの帽子を被ったミ=ゴ星人が映っている。
「……これで、人間様に変装したつもりだとすれば、随分とまぁ大胆不敵と言うか」
「まっ、まぁ夜ですし!遠目の薄目で見たら、人間に見えるかも知れませんよ!」
「いやぁ、良くて、コスプレさせられたカンガルーか何かが動物園から脱走したとかだろ」
倫太郎がそう言うのも無理はない、コートの裾から大きな尻尾をはみ出した、その奇妙なシルエットは明らかに人間の物とは異なっていた。
「まぁいい、取りあえず準備開始だ、ミ=ゴ次郎の話だと、こいつは冷凍ガス噴霧器を持ってるって話だったな。ホッカイロ持ってけばいいかな?」
「……そんな、雑な対応でいいんですか?」
「冗談だよ、しかし冷気ねぇ。俺とは多少相性が悪いか」
「へ?河童忍者って水属性なんでしょ?水と氷って相性悪いんですか?」
鈴子はそう疑問を呈する。彼女がそう言った通り河童忍法は水の専門家だ。
諸説はあるが、河童忍法の骨子となっている陰陽五行の中に氷は水のマイナスの極みとして位置づけられている。つまりは水を冷やせば氷となると言う事だ。しかし、それはすなわち、水の最大の特徴である柔軟性が失われると言う事を表している。
「剣の切れ味や打撃の重さは増す、一般的にはな。だが、氷の剣なんて芸術品、金槌でちょっと小突かれただけで粉々になっちまう、やっぱり俺的には水の自由度が損なわれちまうのは都合が悪い」
専門的で、どうでもいい話だがな、と倫太郎は注をつけて鈴子に解説した。
「じゃあ、冷気に強いのって何なんですか?」
「そりゃ火だ。寒けりゃ暖を取る、至極当然の話だ」
細かく考えることは無い、陰陽五行だなんだと、小難しく語ろうが、元はお婆ちゃんの知恵袋の集合体だ。肌感覚で判断すればよい。
こんな事話すなんて、柄にもなく浮かれ決まってたようだと、倫太郎はダイヤモンドを金庫に仕舞いながら、そう、呟いたのだった。
「作戦はシンプルだ、張り込んで、張り倒す、以上!」
そう言い残し、倫太郎は夜の街に消えていった。残された鈴子と姫はと言うと。
「お久しぶりです博士」
「にゃー」
猫状態の姫を連れ、賢者の石の生みの親である弥生ケ丘阿賀博士の元を訪れていた。
「なんじゃい、藪から棒に、さっきの電話の話かの?」
鈴子たちを案内した、博士はそう言ってお茶と羊羹を差し出す。先ほどの電話とは、午前中に和孝が訪れた後、博士に不審人物の注意を促した時の事だ。
そして、現在博士の元を訪れているのは、念のための護衛のためだ。鈴子に戦闘能力は無いものの、姫には並の忍者など遥かに上回る古き猫又の身体能力がある。
ただし、姫が猫又であると博士にばれてしまえば、研究対象に様変わりしてしまうため。姿隠しの護符ならぬ、尻尾隠しの首輪を付け。おまけに、博士の前での変身は厳禁とされている。
(まぁ、一般住宅にはあり得ない、過剰戦力が眠っている場所だから、返り討ちどころか、逆に研究対象にしかねちゃいませんけどねー)
と、鈴子は。理解不能な装備や装置が山と積まれた博士の研究所を見ながら、そう独り言ちる。
「しかし、賢者の石か、懐かしい話じゃの」
「あはははー、そうですね」
まだ、数か月と経ってないのだが、博士の中では最早過去の思いでとなっているらしい。この年になってまだ生き急ぐのかと鈴子はから笑いを返した。
「博士は今、何の研究をなされているんですか?」
「なんじゃ!お前科学に興味があるのか!」
取りあえず、間を持たせるためにした質問に、鈴子は一瞬で後悔をすることとなる。
「今儂が開発しているのは、霊界通信機でな――」
夜の街に、闇に溶け込むようにキュウリを咥えた河童が一匹電柱の下に佇んでいた。
それだけを聞くと、常人なら、半径100mは近づかず、警察や保健所への通報祭りが始まるところだが、生憎と、と言うべきか、幸いにと言うべきか、皆それに気づかずに通り過ぎてゆく。
それは、この町の住人が特別に鈍いのか、はたまた、警戒心が働いていないのだろうか。
否!それは否である!
倫太郎は河童忍術、水遁空気羽織を使い、文字通り闇と一体化しているのだ!
並の忍びなら、5分10分もすれば限界を迎える隠形の術だが、倫太郎なら一晩かけっぱなしでも平気の平左だ、彼はその様に鍛えられている。
だが、そんな彼を見つける者がいた!
それは、体長1.5m程で、ピンク色の甲殻類の様な姿の上にコートを羽織り、渦巻き状の楕円形の頭部には目深?に帽子を被り、カギ爪の付いた手足を多数コートの隙間から覗かせ、裾からは大きな尻尾を覗かせた生物だった!
「てめぇ、俺に気付いたな?
覚えときな、深淵を覗くものは深淵にまた覗かれているもんなんだよ!」
ミ=ゴの視線?に感づいた倫太郎は、キュウリを咥えた口をニヤリと歪めながら、その先に振り向きながらそう言ったのだった。
「――と言う訳じゃ」
「あはははは……はぁ……」
精神に不調をきたす博士の独演会を、小一時間ほど聞かされた鈴子は息も絶え絶えで、何とか返事を返した。
そして、自分の発明について好きなだけ語れて満足した博士は、奥から一つの装置を持ち出してきた。
「これが、その霊界通信機の試作品じゃ。先ほど言った通り、実験は上手くいっておってな。先日から霊波の受信には成功しておる」
博士がそう言い、電源を入れると、ブザー音やモールス信号の様な何かが断続的にその装置から聞こえて来た。
「……、これ何なんですか?普通の無線を受信してるんじゃないんですか?」
「かかか、儂がそんな初歩的なミスをするわけがなかろう。これは間違いなく、既存の電波以外の波長を捕えておる。
そしてここに発明したばかりの、翻訳装置を組み込んでみるぞい」
博士はそう言い、一旦電源を落とし、訳分からない装置との接続作業を開始した。
鈴子は死んだ目でその作業を眺める。
「出来たぞ」
元々、そう言った拡張能力は備えていたのだろう、作業は一瞬で完了した。そして博士はスイッチを入れる。
すると、さっきまでのブザー音が消え去り、合成音声が流れて来た。
「エサ、カカッタ」
「モクヒョウ、バショ、ドコ」
「ハッシンキ、サドウ、セイジョウ」
「ハンノウ、ダイ、イチ、タンテイシャ、
ショウ、二」
ぞわり、と鈴子の背筋を悪寒が走る。今確かに探偵社と言う単語がスピーカーから流れて来た。
「博士!警備態勢は!!」
「ん?勿論最大にしておるが――」
やっとメインフェイズ開始
河童忍者は狼狽えない!




