ようこそBrave Rune Online の世界へ
テスト実施日の7月24日――
「待ちましたか?」
気持ちが良いほどに晴れ渡る青空、その中で白いワンピース姿の少女がこちらに息を切らしながら走ってきていた。
「いや今来たとこだ。それよりどうしたそんなに息切らしてまだ時間に余裕があるぞ」
付き合いたてのカップルのきまり文句のような返しをするが、軽く無視された。
「大変なんです! 先輩あの後メールが来て、時間変更で一時間早く開始することになったんですよ! なのであと三十分しか時間がないんです!」
それを早く言いなさい!
今は……スマホの時計を確認すると現在8時半過ぎといったところだ。
それに未開封のメールが大量に送られてきていた。
「陽菜大丈夫だ。まだ時間はある。それに何も開始が9時ってわけじゃないだろ? だからまだ間に合う」
「そうですね! では行きましょう先輩!」
悶々と二人で何もない道を歩く。
暑い……今の季節は夏。
今日は最高で30℃にまで気温が上がるそうだが、よく陽菜は走ってきたな。
横目で服を見ると汗でワンピースが濡れ肩が透けている。
それを隠すように俺は隣に立ち歩くことにした。
「なぁ陽菜、確認するけど俺が付いてきてよかったんだよな?」
「はい! 先輩以外に適任な人いないじゃないですか!」
「そ、そうか」
信頼が厚い。
俺ってここまで陽菜に慕われてたのか?
少々思うところがあるが暑さのせいかどうでも良くなる。
高層ビルが視界に映り込む。
この街では珍しくもないが、それでも滅多に見ることのないビルに目を奪われた。
「ここですね。入りましょうか」
「やけに高いビルだな。施設があるようには見えないが」
「地下にあるんじゃないですか?」
「なるほど」
ビルに入ってすぐのところに受付があった。
陽菜は名前を名乗ると関係者の人が奥からやってくる。
白髮で冷たそうな目をした男性が挨拶をする。
「こんにちは、私はBRO開発部門、部長の倉井 十三です。そちらのお嬢さんが間宮 陽菜様ですね。そのお隣の方は……」
「桐梨 宗一郎だ」
無愛想に名前を名乗る。
男性は特に表情を変えず、俺を見て、
「桐梨 宗一郎様、本日はテストにご参加ありがとうございます。ではこちらに」
男性は受付横の扉の奥に俺達を案内する。
そこは螺旋階段が地下へと伸び下が見えない。
まさかこれを降りるのか?
「こちらに――」
階段傍にエレベーターがありそれを使うようだ。
さすがに階段での移動ではないようだ。それに階段をよく見ると赤文字で『非常階段』と書かれていた。
俺は陽菜の後に続くようにエレベーターに乗り込む。
そしてテスト会場を思い出そうとしていると男性から説明が入った。
「これからお二人にテスト頂くのは新型の機材導入し稼働を可能にしたVRマシンです。
お二人はゲームをしていて思うことはありませんでしたか? この世界で実際にゲームをプレイしてみたいと。
我々はそれを実現可能にさせたのです。お二人は運がいいですよ数万と応募が合った中から選ばれたのですから、今日は存分にVRマシンでゲームをプレイしてくださいね」
VRマシンか開発している国があるとネットでも噂になっていたが日本でも開発をしていたのは初耳だ。
高い技術力を持った科学者が数百となって開発を試みていると聞いたことはあるが、ここにはそれだけの科学者がいるのだろうな。
これは楽しみだ。
「あの、VRマシンとはどんな機械なのですか? 私達の体がそのままゲームの世界に繋がるということですか?」
陽菜が男性に質問をしている。
確かに、イマイチ想像が出来ない。現実のこの肉体を、仮想世界に転送するのかどうか知りたい。
男性はそれに一から丁寧に説明をする。
「そうですね、VRマシンでは体は転送不可ですが、精神の転送が可能になります。
実際にプレイしている時にはお二人の体は、魂の抜けた抜け殻と言った感じで動かすことは出来ません。ですがゲームを終了すると精神は自然に肉体へと戻るので心配はいりませんよ」
「そうなんですか!」
陽菜は目を輝かせてプレイすることを楽しみにしている。
しかし精神だけの転送で実際にゲームの中に入れるとは驚きだ。
俺も少し楽しみになってきた。
そんなことを思っているとドアが開き長い廊下が見え始める。
鉄で囲まれた廊下を進み第六施設と書かれた扉の前で立ち止まる。
「今回のテスト会場はこちらになります」
案内され扉を開けるとそこには人が数人集まっていた。
見たところ男が少ない。男3女5である。
「なんか男が少ないな。こっちとしては肩身が狭くて居づらいな」
「先輩はあんまり人と会話しないので問題無いと思いますが?」
グハッ、たまに毒を吐く陽菜は自覚ないのだろうか、俺は精神に大ダメージを受けた。
横目で陽菜の顔を見るが首を傾げて俺を見ている。
本人的には当たり前のことをただ普通に言っただけみたいだ。
「それは、精神的にダメージが……ほらこれからテストだし精神攻撃はやめような」
「何のことですか? 精神攻撃? 何もしてませんよ先輩!」
ちょっとイラッとしたがいつもの事だ。
ここで切れても仕方がない。
すると、見知らぬ二人組がこちらに近づいてきた。
「あの、お二人もテスト参加者ですよね?」
陽菜に負けず劣らず可愛らしい女の子が話しかけて来た。
まず一つ言いたいが、テスト参加者じゃなかったらこんな場所にクソ暑い中こねぇよ!
本当、この部屋空調管理が行き届いてないのか? 地下なのに暑すぎる。
「そうですよ! あなたもですか? 私、間宮 陽菜です」
「はい私もです。よろしく私は、柊 若葉と言います」
「そちらの方は?」
若葉と名乗った女の子は恐る恐る俺に名前を聞こうとする。
俺が顔をしかめていたせいか、怯えていた。
「俺は桐梨 宗一郎だ」
「……よろしくお願いします」
若葉は足早に俺から離れていき陽菜のところで陽菜と何か話している。
トントン――誰かに肩を叩かれる。
振り向くとそこには髪を後ろで纏め上げた青年がこちらを見つめる。
「よろしくな俺は古都宮蓮だ」
「俺は……」
「宗一郎だろ?」
なんでこいつ俺の名前をと思ったがそれはすぐに判明した。
さっき話しかけてきた若葉とか言う奴の知り合いらしい。
口周りに僅かに髭を生やしている。
「そうだよろしく」
「なぁ宗一郎はこれまでにどんなゲームプレイしてきたんだ? これに参加するってことはそれなりにゲームをやってるんだよな?」
俺はこの手のタイプが苦手だ。
出会ってすぐに馴れ馴れしく話しかけて来る奴。
「MMOとか狩りゲー、恋愛ゲーとか音ゲーとかジャンルはバラバラだがそれなりにやってきた」
「すごいな。俺は狩りゲーメインだからさ、このテストみたいなMMO系は初なんだよな」
「そうか、だが大体は狩りゲーと変わんないな、簡単に言えばレベル上げが必要な狩りゲーだ。MMOにもジャンルはあるがほとんどは狩りがある奴が多い」
「なるほど、オススメのMMOとかある?」
「オススメは狩り要素の強めなハンタ―ファンタジーオンラインだな。運営は狩りゲーでも有名なレコールオンラインが制作した奴だ」
「レコオンの狩りゲーは割りと得意だから今度やってみるわ!」
「あぁ恐らくすぐに慣れるはずだ」
「そうか。でも良かった同士に会えて!」
蓮は俺の背中を軽く叩く。
ついゲームのことで語ってしまったがこいつと同士になるなんて人類が滅亡してもありえない。
「そうかそれはよかったな」
そう言って俺はその場を離れ陽菜の元に戻るとこっちはこっちで同士を作っていた。
見た限りこの部屋にいる女性陣とは仲良くなったみたいだ。
コンコン――
突然扉が開き複数人の男と共にさっきの案内した男性が現れる。
「ようこそテスターの皆さん、本日はテストに参加頂きありがとうございます。
ではこれよりテストを開始します。それぞれ番号札を渡しますので番号の書かれた壁の前に立ってください」
そういうと左右の男が札を配り出す。
俺は4か、不吉だな何か悪いことが起こるよな感じだな。
言われた通りそれぞれ番号の前に立つと壁が開き奥からカプセル型のマシンが前に出てきた。
形は日焼けマシンの少し機械が多めに付けられて感じだ。
「それではその中で普段寝るときの様にリラックスしてお休みください。頭に機械を装着しますので」
俺のところに強面もお兄さんがやってくる。
不安だな俺だけ失敗とかないよな?
強面のお兄さんは機械を持ち、俺の頭に装着させるが、上手く入らないのか「フゥン!」と力を入れて無理やり装着させられた。
痛いわ! もっと丁寧にやれよこの野郎。
そんなことは怖くて言えないので目で睨んでおいた。
「静かに目を閉じてください。……それでは転送開始」
自然に体から意識が離れていき暗い空間にたどり着いた。
ようこそBROへと書かれている。
すると目の前に電子パネルが表示され、キャラ選択と書かれていた。
「キャラ選択? なるほどキャラメイクが出来るのか」
項目が目の前に表示され手で触れると押すことが可能だ。
一応一通りキャラの説明には目を通すが、あるキャラだけステータス項目が???と表示されていた。
「なんだこれまだ開発途中だから不明なのか? まぁこれは選ばないからいいか」
と、油断したそのとき、慣れない操作のためステ不明キャラの上に表示されたキャラを選択したつもりが謎のキャラに決定されていた。
「おい! これキャラ選択戻んねぇぞ! どうなってんだこれ」
文句を漏らすが、仮想世界の中なので誰からも返事は返ってこない。
仕方なく髪型や瞳の色など顔の細かいパーツを設定し、すべての項目を終了させる。
「ゲーム開始――」
その項目を選択したと同時に視界が白く光始める。
「ん?……ここは?」
そこは何もない森の中だった。
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