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Sa ra i ra  作者: 白先綾
「太陽と月が泣いたのは、どうしようもなく昼で」

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「青、静けさ」

 そこには、風の行方が無かった。停滞以外の何も、望まれていなかった。例えば花にはその花粉その種を媒介してくれる虫や鳥が無かったし、空には夕方や夜を連れて来てくれる闇の伝播が無く、常に青くまっさらな、雲も無い無表情を彼女の無表情に返した。彼女自身、その存在が停滞していた。何かを食べる、睡眠を取る、体を洗う、等生理現象の解消動作が全く要らなくなっていた。必要性への渇望に動く動物である事を失った彼女は生命の器としての人形の様な物だった。変化無い世界で変化無く動き続ける心音は彼女にとって唯一変化を期待出来そうな物だったがそれを思う事も大分前からしなくなった、彼女には、終わりと言う事への空想力が備わっていなかったからだ。彼女の頭には、永遠以外の何も分からない、この心音が変化すると言う事はそれが早くなるか遅くなるかと言うだけの事で停止する、なんて言う事はこの世界と矛盾していて一つの幻想として保持するに値しないと思った、揺れる事無い花、流れる事無い空、途切れる事無い無変化が彼女のこの世界以外と言う事へ続こうとする夢をいつも優しく粉々にした、壊れてしまった夢の欠片を彼女が集めてもう一度作り直そうと出来ない様に、完膚無きまで。彼女の中に有った夢の資源、希望、それはもうとうに尽きていた、だから彼女はこの絶望的な環境に置かれている事を絶望として認識していない、希望を忘れた人間は絶望を理解する事は無い、望みを絶つ、望みを持つ事以前に彼女にはもう望みと言う変化への方向性因子が概念として存在していないのだ、それは二次元空間が三次元空間になろうとするような物で、一度この変化、と言う一つの次元が欠落した世界に溶け込んでしまうとそこから出る事は至難だ、そこに属している自分以外の自分を思い描く事はもはや別の人間に思いを馳せるのと同義だ。望みを持ち、笑顔を作れ、何処か光の予感の方へ力強く走り出す事が出来、弱々しい手を同じ弱々しい手でしか無い手でちょっとだけその人の力より強く握り締める事で他人に優しさを感じさせる事が出来、空から昇る太陽が疲れ切って夜に帰ろうとする時、そんな愛しい人間の在り方を太陽に印象付けまた明日も新鮮な朝を届けたいと思わせる事が出来たのかも知れない彼女はもうここには居ない、居たとしても、永久の眠りに就いている、起きて居たらこんな状態に満足している彼女を許しては居ないだろう、必死に手を引っ張ってここから彼女を連れ出し、光の予感を信じて旅立つ事だろう。世界は、昼。だが、彼女と言う存在の暗さは、間違い無く彼女が夜の側の住人である事を物語っていた。

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