18話 俺と文月と・・・別れ
10話が消えていたので再投稿しました。
少し内容を変えたので、読み直してみてください。
文月を拾ってから、いろんなことがあった。
昔からの友達、乱川兄妹と話したり…
猫みたいな女の子、鈴鳴猫子と付き合い始めたり…
そして何より、俺自身、自然に笑えるようになった。
それが全て、文月との出会いから始まった。
親に捨てられて止った時間が、動き始めた。
文月は俺の歯車だ。無くした…家族と言う名の歯車。
あの、とても暑かった7月1日に、文月と出会っていなかったら、俺は笑わないまま…人が嫌いなまま…無関心なままでいたかもしれない。
だけど出会った…出会ってしまった。
そして、出会いもあれば当然…別れもやってくる。
文月を拾ってから2週間が過ぎた。
本当に早い2週間…出来事がありすぎて、あっという間だった。文月と楽しく遊んだり、文月と学校に行ったり、文月と一緒に寝たり。でも、今はそれを思い出すことができなかった。
思い出すのが辛い。
それは…
文月の前足の傷が、完全に塞がったからだ。
走ったり跳ねたりできるようになったときは嬉しかったが、それと同じくらい焦りもあった。
もうすぐ文月と別れなければならない。
そう思うと凄く怖かった。
足元にいきなり巨大な穴が開いたような不安に包まれた。
猫子の時にも感じたものだ。今ならわかる、心に穴が開いた感覚。
文月がいなくなって、俺は冷静でいられるだろうか…俺は頭の隅でずっとそんな事を思っていた。
だが…
文月は元々野生のキツネだ。
俺の所有物でなければペットでもない。
それに、文月自身だってきっと戻りたいはずだ。
そりゃそうだ…生まれ育ったところが良いはずだ。
7月15日:登校前
外は良い風が吹いていて涼しくなりそうな朝だった。
俺は文月と一緒に朝食を食べている。
文月と食べる…最後の朝食を。
食べ終わると、俺は文月を抱きしめた。
もう、離れなければならないから。
学校に行く準備を整えて、文月を抱き上げ、俺は家を出た。
文月はよくわからないような感じで、大人しくしている。
そして、文月を拾ったところから一番近い山に着いた。
山に入って、少し歩いたところで、文月をおろした。
地面に足をつけた文月は、キョロキョロと周りを見回してから、俺を見上げた。
俺はしゃがんで、文月に話しかけた。
「文月、お前は自然に帰らなきゃいけないんだ」
「きゅうん?」
「その方がお前は幸せなんだよ。皆、生きるべきところで生きるんだ。お前が生きるべきところは、自然の中が一番だ」
「きゅん」
文月は俺の膝に前足をおいて、顔を覗くように顔を近づけた。
「だから、もうお別れなんだよ、文月」
「きゅうぅぅん」
立ち上がると、文月は不安そうに鳴いた。
俺はもう一度しゃがんで、文月の頭を撫でた。
「じゃぁな、文月。さようなら…!」
「きゅ!?」
俺は駆け出した。文月から逃げるように。
「きゅううん!!」
文月は俺の後ろを追いかけてきた。
不安そうな声を上げながら必死になって。
「来るな!」
「(ビクッ!)」
「帰るんだ…山に…!!」
「きゅう…」
そして俺はまた駆け出した。
今度は文月はついてこなかった。
その代わりに、いつもと違う声で鳴いた。
「きゃああうん…きゃああうん…」
「!!」
知っている…これは子ギツネが親ギツネを探す時に出す声だ…。
だけど俺はそのまま走り続けた。
その声が聞こえなくなるまで走り続けた。
山から下りたところで足が止まった。
俺は声も上げずに、泣いた…。
青春の汗が…目から流れて止らなかった…。
続く
まだまだ続きます。