12話 私と嫉妬と勘違い
「俺と嫉妬と勘違い」の猫子ちゃん視点のお話です。
この話では、寝起きから登校までの猫子ちゃんがわかります。
『♪~♪~~♪』
「ん…ふわぁ…」
携帯電話から音楽が流れてるのがわかる。目覚ましにセットしておいたものだ。
私はそれを止めて時間を確認した。
……見えない…
棚に手を伸ばして眼鏡を取り、再び時間を確認した。
時刻は朝の7時00分。
起き上がると、猫の誘波が布団の上で丸くなって寝ているのがわかった。
「よいしょ…っと」
布団から出てカーテンを開けると、朝日の眩しさに少し目が眩んだ。
私は寝巻きのまま階段を下りて、居間に入った。
「おはよ~…」
「おはよう猫子」
「おはよう猫子ちゃん」
「おはよう姉ちゃん」
居間ではすでに、お父さんとお母さんと弟の学が朝食を取っていた。
テーブルに着くと、母さんがすぐに私の分の朝食を出してくれた。
メニューは焼き鮭と白米に味噌汁と、シンプルなものだった。
私が焼き鮭の骨を取っていると、お父さんが新聞を読みながら話し掛けてきた。
「猫子、最近学校はどうだ?」
「うん、いつも通りよ」
「そういえば猫子ちゃん、興味のあった男の子…どうなったの?」
「えぇ!?…そ…それはぁ…(アセアセ)」
「どうやら上手く行ったみたいだよ」
「ま…学!?何で分かったの!?」
「だって最近姉ちゃんうるさいから、何か進展あったんじゃないかって思って」
「あら~、そうなの~。お父さん、そんな悲しそうな顔しないでくださいよ~」
「そんな顔はしてないぞ」
そう言いながらもお父さんは私のほうをチラチラと見ていた。
お父さんなりに心配してくれてるんだと思う。
朝食を食べ終えた私は、洗顔と歯磨きもしっかりとして、制服に着替えた。
晴天高校女子生徒の制服は一般的なセーラーの制服で、夏服期間の今は薄手で半袖になっている。
ちなみに、男子生徒の制服は学ランで、今は半袖のワイシャツである。
特に暑い日は、ほとんどの男子生徒が第2ボタンや第3ボタンまで開いていることが多い。
特に丈君の第3ボタン開けは良い。
眉間にシワを寄せながら額に汗を浮かべ、そして第3ボタンまで開いたワイシャツを掴んで中に空気を入れるようにパタパタした時なんかもう…!!
「いけない…涎が…」
落ち着け、私。
少し興奮しながら制服を着た私は、髪を梳かしていた。
この前丈君が撫でてくれた時、心なしか丈君は自分の指に私の髪を絡ませていたような気がする。
それが凄く嬉しかったから、今日は一段と整えておく。
自意識過剰なだけかもしれないけど、ちゃんと梳かしておいて損は無いはず。
そして、髪を梳かしてる途中、頭に猫耳のカチューシャを付けた。
薄いフェルトの生地で、さわり心地は本物の猫の耳に似ている。耳の両側にはリボンの飾りがついていて凄く可愛い。私はこれが1番のお気に入りだ。
もっとも、気に入っているのにはもう1つ理由がある。丈君が可愛いと言ってくれたからだ。
丈君が似合ってると言ってくれたコレは私にとって凄く大切な物だ。
猫耳を着けていると、何だか丈君が見てくれている気がするから…だからずっと着けている。
そして、カチューシャを着けると、今度は髪の毛でカチューシャのプラスチックが見えないように隠した。
これは少し技術が必要だから、少し時間が掛かった。
この状態は、自分から見ても本当に頭から猫耳が生えているように見える。
鏡の前で、服にシワが無いか確認をして私は部屋を出た。
「おっと…その前に」
部屋を出かけた私は一旦部屋に戻り、机の上の写真立ての前に立った。
「行ってきます」
そしてその丈君の写真(盗撮)にキスをしてから部屋を出た。
1階に下りると学が家を出るところだった。
「行ってきま~す」
「わわわ!待って、私も行く。行ってきま~す」
私は学と一緒に家を出た。
学と並んで歩いていると思う。
(やっぱり学って小さいわよね)
15歳で160cmは少し小さいと思う。
「育ち盛りだから大丈夫」と言ってたが、最近少し心配になってきた。
(私とあんまり変わらないし…やっぱり牛乳を勧めるべきかしら?)
「どうしたの姉ちゃん?」
「ううん、なんでもない。ただ身長小さいなって思っただけ」
「失礼な!育ち盛りだから大丈夫だよ!」
「やっぱり牛乳飲むべきよ、そしたらすぐ大きくなるから」
「嫌だよ!あんな不味いもん!」
「それにカルシウムが少ないと怒りっぽくなるらしいし」
「僕が怒りっぽいって言うの!?」
「うん」
「どこがだよ!ムカツクなーもー!」
十分怒りっぽいと思うけど。
それとも反抗期なだけ?。
「まったく…それより姉ちゃん」
「何?」
「その猫耳やめたらどう?」
「嫌よ。これだけは絶対にやめないわよ」
「ったく…」
それから数分歩き、学は私と別れて他の友達と自分の通う中学校に行った。
「猫子ちゃ~ん、おはよう!」
晴天高校への通学路を歩いていると背中から声を掛けられた。
「あ、巳茶ちゃん。おはよう」
声を掛けてきたのは紅巳茶ちゃんだった。
ショートヘアーで活発な女の子だ。
巳茶ちゃんは同じクラスの友達で、私によく話かけてくれる。
「猫子ちゃん、川野君とどうなったの?」
「え!?えぇ…っと…それはぁ…」
「川野君、無口だし人ともあまり関わらないけど…上手く行ったの?」
「……う………うん」
「え~~!本当!?良かったじゃん!」
「や…やめてよ巳茶ちゃん…恥かしいよ…」
巳茶ちゃんは、まるで自分の事のように喜んでくれた。
「あ…でも、誰にも言わないで」
「え?何で?」
「川野君に…頼まれたの。学校ではあまり関わらないでくれ…って。だから、他の人にばれちゃうと、川野君に迷惑かかっちゃうから…」
「ふ~ん、そうなんだ。わかったよ、誰にも言わないわよ」
「ありがとう、巳茶ちゃん」
その後も巳茶ちゃんと雑談しながら、私は学校に向かった。
教室に着いてからも巳茶ちゃんとの雑談は終らず、話をしていると他の友達も来て、皆で笑い合った。
内容は、化粧品の話や昨日見たテレビの話や今流行りの服の話など、実に女の子らしい話でちっとも退屈しなかった。
そうして話していると、丈君が教室に入ってきた。
眠たそうな半目でチラリとコッチを見てきて、私は目をそらした。
『学校ではあまり関わらないでくれ』私はそれを忘れないように頭の中で繰り返した。
「川野君、今コッチ見てたよ…」「何考えてるかわかんないし、少し気味悪いわよね~」「噂では上級生に重たい本を投げつけたっていうし…怖いよね~」
私は思い当たることが見つかり、少し冷や汗が出てきた。
「……急な職員会議で、今日は4時間授業だ。よし、HRを終わりにするぞ」
4時間授業…って事はいつもより早く帰れて時間も余る…。
(お…思い切って丈君を家に誘ってみようかしら…)
振り返ると、丈君は外を見ていた。
(よ…よし、帰りに誘うわよ。頑張れ私)
私はその後の授業、丈君のことで頭が一杯で全く集中できなかった。
そして4時間目の授業が終り、今はHRをしていた。
振り返ると丈君は…
「Zzz…」
眠っていた。
見ているコッチまで眠くなりそうなほど眠っていた。
「それじゃ、あまり寄り道せず帰るんだぞ」
先生がHRを終らせ、教室から出ると、皆が一斉動いた。
これからどこに遊びに行くか、そんな会話が聞こえてきたり、足早に下校したり、教室内は一気に騒がしくなった。
そんな中でも丈君は…
「ZZZzzz」
爆睡していた。
口を開けて涎をたらしながら寝ているのを見てると…
「はぁ・・・はぁ…はぁはぁはぁ!」
凄く興奮する♪。
いけない、眼鏡が曇ってきた。
「何妖艶な笑みを浮かべてるの猫子ちゃん」
「にゃぁ!?巳茶ちゃんか…ビックリしたぁ~」
「それで、何エッチな顔してるの?」
「し…してないよ~!」
近づいてきた巳茶ちゃんの言葉に動揺してると、巳茶ちゃんは私の視線を追った。
「なるほど、川野君を見てたって訳ね」
「う……うん…」
「川野君が涎流してるの見てエッチな事考えてたって事ね」
「か…考えてないよ~!」
まぁ…ちっとも考えてないと言えば嘘になるんだけどね。
その後私は丈君を家に誘うために起きるまで待つことにした。
まだ周りにクラスメイトがいるからまだ近くにいるわけにはいかない。
ちなみに巳茶ちゃんは他の友達と先に帰ってしまった。
少し寂しかったが、今は好都合。
そしてあえて悪い言い方をしよう…
(邪魔者は消えた!)
後は丈君が起きるか、誰もいなくなるまで待つだけ。
~それから30分~
ようやく丈君が起きた。
周りを見回している…なんで人数が少ないかわかっていない感じ。
それから黒板を睨むと、少し脱力してた。
黒板には【今日は4時間授業】と書いてあった。
どうやら今日が4時間授業だという事に気がついていなかったみたい。
そして、残っていたクラスメイトが出て行くところを見て、私は丈君の席に向かった。
丈君の隣に立って声を掛けようとすると、丈君の方から気がついてくれた。
「うわ!ビックリした…脅かすなよ」
「…………ゴメン……」
うぅ…緊張してきた…。
「はぁ…学校では話しかけるなって言っただろ…」
「ゴメン…でも、人が少ないなら大丈夫かと思って…それに……」
「それに?」
よし…勇気を出して言うんだ!
「今日…私の家に遊びに来ない?」
「家?」
「うん…今日はお昼までだから、だから暇だったら遊びに来ない?」
(言えたぁ~~…何とか伝える事ができた)
丈君を少し悩んでから答えた。
「わかった。いいぜ」
「あは…!うん!じゃぁ行こう!」
やった!上手く行った。
家に誘って色々話をしたい…。丈君をもっと知りたい。
学校から私の家までは歩いて20分くらいのところにある。
その間私はドキドキして何も話せなかった。
家に着くと、丈君は少し驚いていた。
「お…おい……猫子…お前の家、デカくね?」
「うん、少し。川野君も見たことあるでしょ?」
まぁ…確かに少し大きいかな?
「上がって」
「お邪魔します」
玄関で丈君はもっと驚いていた。
(何か変なところあったかしら?)
靴を脱いでいると、丈君が聞いてきた。
「猫子のお父さんって何やってるの?」
「え!?お父さんの事、知りたいの…?」
「え?あ、いや…話したくないなら別に…」
「ううん、大丈夫…お父さんはね、社長やってるの」
丈君…お父さんの事知りたいなんて…それってつまり…!?
(落ち着け私…早とちりよ。きっと他の意味で聞きたいだけなのよ)
「お前って一体…。何でそんなお嬢様が一般の高校に通ってるんだよ…」
「いや、社長っていっても、そこまで大きい会社じゃないよ」
なるほど、家が大きかったから、お父さんが何をしてるのか知りたがってただけなんだ。
ほっとした反面、少し残念だった。
「コッチ来て、部屋は2階だから」
「お、おう」
階段を上っていると、丈君がまた聞いてきた。
「なぁ、外から見たときは、3階ぐらいまであるように見えたが、3階は何があるんだ?」
「書斎とお父さんの仕事部屋、ルームシアターに洋服用の物置…くらいよ」
「洋服用の物置?つまり、他にも物置があるのか?」
「うん。屋根裏は、色んな道具とか機材とか用の物置よ」
ちなみに、洋服の物置には私の服がいっぱいしまってある。
私は自室のドアを開けて丈君を入れた。
「ここが私の部屋」
「やっぱ部屋も大きいんだな」
「そう?あ、ちょっと待っててね、今お茶持ってくるから」
私は丈君を残して1階のキッチンに向かった。
「紅茶と緑茶、どっちがいいかしら?」
近くの棚を開けてお菓子を探してると、クッキーが見つかった。
「クッキーなら紅茶のほうがいいわね」
私は紅茶を入れながら、昔の事を思い出していた。
丈君が私を助けてくれた時の事だ。
目を閉じればいつでも鮮明に思い出せる。
白目をむいて倒れる不良…空飛ぶ百科事典…そして、夕日を背にして立っている丈君。
あの時の事を思い出していると…胸が熱くなって…胸が…熱く……手が…熱い…?あちちちち!!!??
「熱っつい!!?」
気がつけばマグカップからお湯が溢れていた。
無事(?)紅茶を淹れ終えた私は、クッキーと一緒にお盆に乗せて部屋に運んだ。
部屋に入ると、丈君は立ったままだった。
「ゴメンね、適当に座って大丈夫だよ」
「あ…あぁ……うん、ありがとう」
私は丈君の正面に座った。
そして、前から聞こうと思っていた事を聞く事にした。
「ねぇ、川野君」
「苗字で呼ばないでくれ。嫌いなんだ」
え?それってつまり、名前で呼んでって事?
は…恥かしいよぉ。
でも、丈君が嫌なら名前で呼ばないと。
今までは私1人の時しか名前で呼んでなかったから、緊張してきた…。
「じゃ…じゃぁ……じ・じじ・じ…丈君」
「何だ?」
「聞いてもいい?」
「答えられる事なら」
「うん…丈君は何で、私をあの不良から助けてくれたの?」
「あの不良?」
「ほら、1年生の夏休みに…私に絡んできた」
「あぁ、あの時か。前にも言ったと思うけど、俺はお前が優しそうだったから助けたんだ。それに…」
「それに?」
「…あそこでお前を見捨てたら、俺は俺を捨てた親と同じになる。自分の都合で誰かを見捨てるようなやつが…俺は大嫌いなんだ。だから…俺は傷ついてもいい、だけど他のヤツが俺の都合で傷つくのは絶対に止めたいんだ。だから助けた。自分が絡まれても、お前が逃げられるならそれでよかった」
そうなんだ…やっぱり丈君はカッコいい。
それに…あの噂は本当だったんだ。
『川野丈の親は自分の息子を捨てた』
これで何となくだけどわかった。丈君が人を避けてた理由が。
「……そうなんだ。ありがとう」
「気にするな。放っておけなかっただけだ」
丈君は人と関わらないことで、傷つく事を避けていた。
だけど、それなら何で私と関わりを持ってくれたんだろう?
それがまだわからなかった。
その後も他愛も無い会話や、趣味の話で盛り上がった。
いつも無表情な丈君が、色々な表情をしているのが面白くて、私はどんどん話しを進めていった。
だけど、楽しい時間は…あっという間に過ぎてしまった。
時計を見ると、時刻は夕方の6時だった。
私はまだ話をしたっかったし、今は夏で日の出てる時間が長いため、外はまだ明るい夕焼けだった。
話を振ろうとすると、丈君はカバンを掴んだ。
「あ、ヤバイ。もうこんな時間か」
「まだ6時よ?」
「でも文月が待ってるから、ソロソロ帰らないと」
「え…?」
…また……
「じゃぁな、猫子。楽しかったぜ」
「………」
また文月…って……
(ドン!!!)
「うわ!え!?」
「……」
丈君が立ち上がろうとするのを止めるように私は丈君をベットに押し倒した。
そして動けないように覆いかぶさり、手を押し付けて足を絡ませた。
「何すんだよ!」
丈君の顔が目の前にある…普通なら嬉しいけど、今は涙が溢れてその顔がちっとも見えなかった。
「猫子…」
「…何でよ……」
「え?」
「何で私を見てくれないの!?私は丈が好き!!私と丈は付き合ってるのよ!なのに文月文月って…文月なんて女に丈は渡さない!丈は私だけを見ていればいいの!私は丈を見てる!私は丈を愛してる!!なのに丈は私を見ないで他の“女の人”を見てる!どうして私を見てくれないのよぉ…!」
私は心の中にある事を感情のままに吐き出した。
「猫子………ん?………おい、猫子…お前もしかして勘違いしてないか?」
「何が…」
勘違いなんか…だって丈君、ずっと文月文月って…!!
「文月はキツネだぞ」
「…………え?」
キ……ツネ?
え?ん?
続く
やっと最近感想が増えてきた。
この勢いでもっとくれば嬉しいです。