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燕の濡れ羽

二話のあと。


空は暗い。


雨雲が太陽を隠しているから。


ならば太陽の下は全て暗い。


綺麗とは言えない屋上の床に、雨粒が波紋をつくっては消し合う。


重い雨は降り続け、スーツに染み込んでいき、肌に触れた雨粒は、一瞬ひやっとしてすぐぬるくなった。


ベンチに座ることもせずただまっすぐ立って、熱いのか冷たいのか分からない霜焼けした耳でその雨音を聞いていると____背後で扉が開かれる音がした。


「危ないよ、雷」


威圧感のない声だった。


喋ろうか、喋るまいか、なんて言おうか。

あれこれ逡巡した末、私はなすがまま無言を選んだ。


この人にはいっつも迷惑をかけてばかり、と自責の高波もざぶざぶ心の奥に押し寄せる。


「俺、今に打たれちゃうかも。いや、君だってそうかも。怖いよ。ね、中に入ろうよ」


後ろから、ぴちゃぴちゃと音がした。

まさか、屋根もないのに、こっちに近づいてきてる?


驚くような嬉しいような。


「……。そんなわけないでしょ」


ちっとも笑ってない苦笑が響いた。


今の、ザーザーする雨音に隠れて、火流さんに聞こえなかったかな。


はたから見て、痛いこと言ってる。

大の大人になったのに、みっともないことしてる。


厨二か____林枯の顔が一瞬浮かんだ。


「……あの、あの、あのさ、君は悪くないよ」


「……。そう言われたら、余計分かりません」


「えと、パニックみたいな?」


「自分が嫌です。最近は大丈夫だったのに……」


目の前に、黒い革手袋の両手のひらをかざした。

それを見て唇を強く強く噛み締める。


「守ろうとしてくれたんじゃないの?あの時」


火流のその声は、柔らかい、口角が上がっているような感じがした。


「私が?何を?」


「俺を。俺、怒鳴られるとパニックになるから。だから助けてくれたんじゃないの?」


そこでやっと、初めて振り向いた。


火流さんはやっぱり、笑っていた。


疲弊が滲んで、柔らかい笑みが少し痛々しく見える。


「……ごめんなさい。煩わせて」


私が俯くと、返ってきたのはまた笑い声。


「今日はもう終わり、はい、落ち込むのやめ」


「……その先は?」


火流は答えなかった。


「はい」と優しく微笑むまま、持っていた一本の細い傘をこちらに差し出す。


「……」


無言でバサっと傘を開く。


傘は、重い黒色。

自分が黒ずくめの服だから、黒はあんまり好きじゃない。


少し思い出す。


みんながカラスカラスって……私は(つばめ)だっちゅーに。


火流さんに続いて、一歩踏み出す。


あと三歩進めば屋根まで入れるじゃん、と気づいたのは、その一秒後だった。


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