さらば、現代
「ふー……」
花火大会を終え、姉貴たちの事は無視していいと言われたので異世界組を連れて家に戻り。
紫の魔法陣へみんなを見送って、ゆっくりと深呼吸。
アメノサさん……かぁ。
不満とかは一切ない。
見た目可愛いし。
ただ、今後の付き合い方というか、具体的に言うならば二人きりの時間とか取れないよなぁ、と。
デートとかも無理だろうし、そもそもアメノサさん個人でこちらの世界に渡ってくる術はない。
必ず『夢幻泡影』の四人が必要になる。
だとすれば、
「……あー、姉貴? 今平気?」
『何? 急に電話なんて』
一応、確認のために姉貴へ電話。
呼び出してすぐに電話に出たあたり、どうやら旦那さんとお楽しみ中ではなかった様子。
「急に俺と連絡取れなくなったら、不安?」
『別に? 死んでないって分かるなら問題無いんじゃない?』
「この家に何か必要な物とか残ってる?」
『結婚した後に全部片づけたでしょ。何? どうしたの?』
……ダメだな、こういうの、誤魔化すの苦手なんだよ。
真っ直ぐ言うか。
「アメノサさんと一緒になるかも」
『いいじゃん! あのモフモフが妹になるって事でしょ!? 早くくっつけ』
この姉に言ったのがバカだったのかもしれない。
『なんて、今のは冗談よ』
「本音は何割?」
『十二割』
一周回って二割か。ほな本音かー。
『異世界の異種族と結婚でしょ? 私の海外の人と結婚よりもだいぶハードル高いわよ?』
「分かってる」
『こっちの世界の事どうするの? 仕事、辞めるしかないんじゃない?』
「うん。というか、俺が向こうに行く前提なんだね」
『だってあんた、さっき連絡取れなくなったら~とか言ってたじゃない』
「あぁ」
まぁ、姉貴だなぁって。
『それに、現代にアメノサちゃんが来るよりも、あんたが異世界に行った方が生活的にも楽でしょ』
「それはまぁ、向こうに行ってみないと分からないけど……」
『宝石だの香木だの、定期的に仕入れられる異世界の方がはるかに楽なのは目に見えてるでしょうに』
「俺がそれらを集められるかは問題になってないのかな?」
姉貴らしい反応で、こっちもなんと言うか、普段通りの心持ちになった気がするな。
『で? すぐに行くの?』
「……いや、色々とやる事――それこそ終活とかやって、色々やり終えてから向こうに行こうかな」
『ふーん。ま、行くときには連絡しなさいよ? 切符代わりにたっかいワインでも送り付けるから』
「そりゃあいいや。さぞ安全に異世界に行けそう」
なんて会話してたら、電話の向こうから日本語ではない言葉が。
『旦那がシャワー浴び終えたから切るわよ』
「ん」
という事で切られる電話。
なるほど、お楽しみはこれからですか。
さて、と……。
「ゆっくりと準備していきますかねぇ……」
*
「『無頼』」
「あン?」
花火大会を終え、異世界に戻ってきたアメノサは、『無頼』の寝室を訪れて。
何かを言おうと顔を上げ、何も言葉を発さないままに視線を下げる。
そのくせ身体はもじもじと揺らし、もうちゃっちゃと言っちまえよ、と『無頼』が面倒くさく思っているところ。
そうして、ようやく口を開いたアメノサは、
「カケルを……呼ぶ」
今まで発せなかった言葉を、ようやく外に出した。
「本人の意志は?」
「多分平気。口づけまで済ませた」
「ヒュー。いつの間に」
「茶化すな」
「わりぃ。で? 今呼んだってろくなポスト空いてねぇぞ?」
「だから新設する。丁度食事に関してみんなが興味を示し始めた時期。その食の指導者としてのポストに押し込む」
「相当な横やりが入るぞ?」
「『夢幻泡影』からの推薦で押し切る。あと、大会の広報担当にも色々と手伝って貰う」
『無頼』は知っている。
アメノサが――自分の姉が。
自分に考えを伝える時には、ある程度の算段が、彼女の中でついていることを。
「そんなすぐには無理だぞ」
「分かってる。でも、先にカケルが来てないとポストに押し込む根拠も弱くなる。だから、カケルが来てから設立まで突っ走る」
「……獣人と人間の寿命差はどうする? カケルの方が年上だろう?」
「――私と寿命を折半する」
「は?」
「神様に頼む。ある程度の代償は覚悟するけど、無理だって言われたら、私の寿命をカケルの寿命に切り揃える」
「マジかよ」
「私はマジ」
ここまでの話を聞いて『無頼』は、将来自分の兄になる存在に。
届くことは無いが一つ、弟としての忠告を心の中で強く思った。
(この姉の思い、重いぞ)
と。
*
「家とか土地とか、まだ最終手続きは残ってるけど、ほぼほぼ終了かな」
すっかりと片付いた家の中。
持って行くものはリビングにまとめたし、不要な物は全て捨てた。
土地と家を売ったお金は、姉貴に入る様に手続きも終了。
あとは、お迎えが来て、一度異世界に行き、ある程度生活が安定したタイミングで戻ってきて、最終手続きを済ませるだけである。
にしても、
「まさか異世界に行く寸前でバハムートが暴れちゃうとはね」
最初はもっと若い時に行く予定だったのだ。
それがある日突然、異世界組が来なくなり。
庭のゴー君は土塊になり、冷蔵庫からマンドラゴラ君は消えた。
次に異世界組が来たのが、俺が定年した後なんだもん。
いやぁ、待ったよ。凄く。
婚活もしなかったんだから、褒めて欲しいよ。
寂しかったからさ、やっぱり。
「ん」
目の前に出現する紫の魔法陣。
そしてそこから伸びる細い腕。
その腕を取り、荷物を持って。
ゆっくりと、その魔法陣へと入っていく。
もちろん、姉貴が用意した異世界への渡し賃。
ペトリュスとモンラッシェを忘れずに。
好き勝手に書いてきた晩外編もこれにて完結です。
徐々に本編に繋がっていって、最終的には本編後日譚のような形になりました。
書き始めはこんな予定じゃなかったのに←
姉貴の結婚、主人公のその後、それらを描写出来たので大変満足しております。
ここまでのご愛読、ありがとうございました!!
……あーあ、どこかに可愛い獣娘とか落ちてないかなぁ。
出来ればカップラーメンで懐柔出来る位食事にチョロい子がいいなぁ!!




