何も知らない翔君
「ずるずる」
「……」
「……」
「プハーッ。やっぱシメはこれだな!!」
寿司屋のシメでうどん食ってる人初めて見た。
当たり前に注文してたからね。
「うどん……好きね」
「おう。シンプルな料理だからこそ、誤魔化しが効かねぇ。しかも店によって違いがあるんだぜ? 意外と奥深い食いもンなンだよ」
異世界人がうどんを語るな。
いや、俺はいいよ?
ただ、こう……ね。
うどんに対して一家言ある日本人は少なからず存在するわけで。
その人たちの耳に入ったら……吊るし上げられはしないな。
多分『無頼』さんの方が強い。
「苦学生蜜芋、美味しい」
大学芋な。
名前の由来的にその翻訳は間違いではないんだけど、もうちょっとどうにかならなかったのかい?
翻訳魔法さん?
いやまぁ、いいんだけれども。
美味しそうに食べてるし。
「ふぃー。ごっそさん」
「満足しました?」
「大満足よ」
うどんのスープまで飲み干した『無頼』さんが、満足そうに腹を撫でる。
……別に腹が膨らんでるとかではないんだけどね。
「私も満足」
一方のアメノサさんは……うん、ちょっとだけポッコリ出てるかな。
まぁ、元が薄いからねぇ。
『無頼』さんと違って、少しでも出てたら目立っちゃうわな。
「じゃあ、お会計で大丈夫です」
「おう」
「美味しかった」
というわけで、タブレットで清算してお会計へ。
……まぁ、三人での食事と思えば許容の範疇かな。
なお、ガラポンは二回ほど当たった模様。
出てきた景品は姉貴が家に来た時にでも押し付けよう。
日本のアニメの知名度がどれくらいかは知らないけど、お土産として親しい相手に渡すのには困らないんじゃない?
知らんけど。
さて、それじゃあ……帰りますか。
*
「む~……」
「朝からずっと唸りっぱなしだけどどうしたンだ?」
アメノサの執務室。
護衛としてその部屋を警備している『無頼』は、朝から複数の資料を睨みつけては頭をかき、唸りっぱなしのアメノサに声をかける。
……なお、『無頼』が護衛として配置された理由は、他国のSランクパーティの侵入を許したから、であり、警備強化という意味で、ミカラデ国の中の最高戦力の『無頼』に白羽の矢が立ったわけだが……。
下手すると国際問題になりかけた事を、『夢幻泡影』の四人は重く受け止めて反省して欲しい所である。
「どこの要職にも空きがない」
「そりゃあ、要職に空きなンぞあったら国としてダメだろ。即座に補充されるに決まってら」
「カケルをねじ込む場所が無いの!!」
……執務室内は防音の魔法が張られている為、このような会話が外に漏れることは無いのだが。
もし万が一、漏れた場合は私的に権力を行使していると、アメノサと敵対している政治家からやり玉に挙げられそうな発言である。
なお、盗聴なぞしようものなら、その政治家は翌日に全身の血が抜かれた変死体として発見されるのだが。
「ねじ込む場所作ったって、アイツがそもそもそこに座るって言うか分からねぇだろ」
「……それは、そう」
「あと、来る前提で話し進めてるけど、アイツ、こっち側に来ることにそこまで意欲的に思えねぇぞ?」
「――つまり、私が行く?」
「仕事どうすンだお前」
もはや迷走という他が無いほど、アメノサは暴走気味であり。
そんなアメノサを見かねて、『無頼』が提案。
「もしアイツがこっちに来ることを了承したら、一旦は賓客としてもてなすってのは?」
「カケルが満足する料理……今から探す」
「決断が早ぇよ……。んで、賓客待遇中に、アイツがやりたい仕事を一緒に探して、そこの重要なポストをカケル用に作りゃあいい」
「例えば?」
「俺に聞くなよ……」
「料理学校の先生とか?」
「あいつ、他人に教えるって柄じゃなさそうなんだよな。そっちはラベンドラとかの方が向いてると思うぞ?」
「じゃあ何!!?」
「知らねぇって……」
その後、アメノサは、答えの出ないこの問題を、寝不足になるまであーでもない、こーでもない、と考えるのだった。
*
「……うわっ!?」
「凄いクマだぞ……」
「そんなに激務じゃったんか?」
アメノサの目の下には酷すぎるクマ。
それを指摘した『夢幻泡影』に、『無頼』は呆れながら、
「こいつ、どうすればカケルをこっちに連れてきて不自由ない生活をさせられるかの青写真を描いてやがンのさ」
と、寝不足の理由を暴露。
ただ、
「話は聞かせて貰った、私も同行しよう」
「いつ呼びますの? パッと行ってシュバっと拉致ってしまえば人間ごときの反応速度では防がせませんわよ?」
「拉致る前にしこたま酒を買わせて一緒に持って来よう」
「甘味もな」
『夢幻泡影』は、翔拉致作戦にあまりにも乗り気過ぎるせいで、『無頼』はさらに頭を抱えることに。
そこへ、
(お主ら……)
本来ならば有り得ない、異世界の神様からの直接の神託。
全員顔を見合わせるが、それが、神から直々のものだと悟り、傾聴。
(わしも混ぜんか。ちょっと八百万の視線を別に向けさせる必要はあるが、その役はわしが――)
なお、神様も翔拉致作戦に以下略。
(ん? いやいやいやいや、別に何も企んどらんぞ? ほんとじゃて。ほんとほんと)
……もっとも、八百万の神々それぞれが別々に神様の動向を見張っているので、そうそう監視の穴などできはしないが。
(神様もほぼ公認なら、あとはカケルの意志次第なのでは?)
と、アメノサは考える。
――異世界では、来るかも分からないカケルの受け入れ態勢の準備が、静かに進行していたりするのだった。




