第2章 37 感動の再開……?
──ふと、光の中で少しばかり意識が浮上する。
……魔法を放ったと同時に上から目を開けていられないほどの光が辺りを包み込んだ。
そこまでは覚えている。が、その後どうなったのか。
自分は生きているのか、相手はどうなったのか、マスターは……。
疑問が尽きないが、一番気になる点を挙げるとするならば。──体が、ない。
意識だけが存在する真っ白な空間。いや、実際意識だけの為、本当は暗闇かもしれない、何処か別の場所かもしれない。
だが、焦ることはない。この空間が何処か、いや、何かは知っている。
この漂うような浮遊感、ただひたすらに意識に迫り来る圧倒的な開放感。
しかし、それに負けるとも劣らない圧迫感。
肉体を持ってすらその原因を視認することは出来ないだろう。
だが、それもまもなく終焉を迎える。
ぼんやりとした意識の中、ある一点へ向けて光が収束し始める。
先ほど取り乱した心もこの空間のお陰で少しばかり落ち着いた。
次こそはマスターの命令通りに実行できるように。何事にも動じてはならない、そう教えて貰ったことを思い出して。
収束する一点に意識を向ける。もう、揺らがない。相手に踊らされない。相手を踊らせるのは、自分なのだから。
マスターに教えて貰った事を反芻する。
常に相手より上にあれ。力が下であれば技術で。技術が下であれば戦略で。戦略が下であれば機転で。
勝るものがあれば必ず相手を踊らせることが出来る。
その能力があれば尚更だ。だが、現実はいつも無情だ。それ故に人は必ず現実逃避をする。自己の妄想、空想、はたまた夢……。
しかし、その夢もまた無情である。
夢と現実は表裏一体。表があれば当然裏がある。その逆もまた然り。裏があれば表がある。
夢と現実、互いになくてはならない存在。そこには必ず線引きされた境界線がある。
裏と表の境目。境界線。感知できないその境目。
──では、その境目をもし、無くしてしまえば?
踊らせれば踊らせるほど夢と現実の区別が付きにくくなる。その区別という名の境界線を取り払ってしまえば?
マスターの声と共に、徐々に意識が薄れて行く。
収束し続ける光の中、その可能性を見出す能力を持つ支配者は。
薄れゆく意識の中、次こそマスターへの忠義を全うすべく、決意を固める。
次こそはしくじらない。表裏一体、これを持ってすれば、必ず。これこそが、我が能力。
さぁ、もう一度、悪夢を始めよう──!
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眩い光が収まると同時、辺りから少しの熱気を感じる。それもつかの間、急激に気温が下がり始める。
それもそのはず、俺の魔法諸共あの光が飲み込んだのだから。
魔法ごと転移したらしい。という事は、もちろんナイトメアの魔法も転移してるわけで……
「……え?」
転移前に凍らせる事に成功したらしいそれは、俺が気付いた直後に真上に現れた。
もちろん、物理法則に従いながら。つまりは、自由落下しながら。
あの……これ、もしかしなくともこっちに向かって落ちてきてますよね……?
…………潰れちゃうっ!!
そんな悠長な事考えてる場合じゃない! とにかくあの氷の岩を破壊せねばっ!!
とりあえず砕けばどうにかなるであろう。多分。
ああもう、俺の運気は本気でどうかしてると思う。なんで運気上げてもらったのにこんな目に合わなければいけないんだよ!
それもこれも、全部……!
……いや、あたるのはよそう。悪い事ばかりじゃなかった気がするし。うんうん、ここに来て良いこと尽くしな気が…………。
……するか? いやほら、例えば……その…………五歳にして転移したり? 魔法撃って滑って頭打った挙げ句、気絶して拉致られたり? 拉致られた先でまた変な所に転移させられ……たり………………。
…………あれぇー? もしかして、俺、実はこの世界でも前とあんまり変わらなくね?
い、いやいやいや! これは何かの間違い、そう、何かのまちが……ってもう目の前まで迫ってる!?
俺は咄嗟に手を前に出しながら、
「岩砲っ!!」
渾身の岩砲を氷の岩目掛けて撃ち出した。そして、その岩砲がよもや氷に当たる寸前。
「破魔!」
聞こえてきた声によって岩砲が霧散した。もちろん、氷の岩も。
……おい。ちょっと待て。なんだよ今のは!
「くくく……くはははははは! 真打ち登場である」
この上なくとんでもないタイミングでこの上なくとんでもない奴が現れた。
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「くはははははは! 感じる、感じるぞ! 貴様のそのイラッとした悪感情!
さぁ、もっと我に悪感情を差し出すがいい!」
狙ったかのようなタイミングで現れたその悪感情搾取装置はそんな事を言いながら歩み寄ってきた。
よく見ると、後ろの方で目を丸くしているカント達が……。
「お父様! お母様!」
俺は迷う事なく家族へ向かって走り出す。あぁ、目の前の自称なんたらはもう頭の隅っこへ追いやっている。
走ってくる俺の声が聞こえたのか、カント達がより一層驚いた顔で俺を見ている。
「レント! レントじゃな……うぉっ?!」
「レント! あぁ、レントなのねっ!!」
安心したように俺を抱きしめようと手を広げたカントを押し退けてベスタがギュッと抱きしめてきた。
おっふ……この感触…………ごちそうさまです。
「お、お母様、息が……」
「あぁ、レント! レント! もう離さないわ!」
少し心配をかけていたようだ。いや、本当申し訳ない。
「も、もう大丈夫ですので、離れてくれると……」
「レントだわ! ちゃんとレントだわっ! 今までどこでなにをぉぉぉっ!!」
……訂正。凄まじく心配をかけていたらしい。ベスタが尋常じゃないくらいギュッとしてくる。
あ、やばい。そろそろ本気で苦しい。
「お、お母様! お母様! そ、そろそろ止めてくだ……あ、ああっ! や、止めて! どんどん力が強く!? 死んじゃう! 圧迫されて潰れて死んじゃうっ!? 何か出る、何か出ちゃうっ!?」
「はっ?! あ、あぁ、ごめんなさい、レント! 大丈夫かしら?」
我に返ったベスタが力を緩めて離してくれる。あ、危なかった……危うく何かが出てくるところだった。
「だ、大丈夫、です……」
俺のその声を聞いてほっとしたように息を漏らすベスタ。それを見ながら皆もほっとしたよう表情をしている。皆は違う意味で俺を心配していたみたいだ。
「……おい。貴様ら。我のせっかくの登場場面だと言うのに、これはないんじゃないか?」
俺たちのせっかくの感動の再開の真っ最中だというのに頭の隅っこに追いやったはずの自称なんたらさんが声を掛けてくる。
「…………あ、居たんですね」
「貴様、こっちにも手段はあるんだぞ?」
わざとらしく言ってみたのだが、予想以上に挑発に乗ってきた。魔法を使って登場したのに見向きもされなかったことにムカついているようだ。
「その手段を行使するのはご遠慮ください。あ、あと……」
「……あと?」
「……悪感情、ごちそうさまです」
「貴っ様ぁぁっ!」
自分がされたらこんなに怒るのか、短気な悪魔め。おっと、凄い睨んでくるぅ! 僕、五歳児だから怖ぁい!
「く、くはははははは。ま、まぁいい。我は大悪魔故、その程度の挑発などでは微塵も動じぬわ!」
へぇ、すごーい! じゃあその無理やり作った様に笑ってる口元が引きつっているのはなんでなのかな?
「ま、まぁ、この辺にしとけ、レント」
「あ、お父様」
苦笑いしながらカントが仲裁に入ってきた。流石にこの悪魔の表情を見て止めに入ったのだろう。
本当、かなりピクピクして引きつってるもんな。
「それよりも……あれ、何か分かるか?」
そう言ってカントが指を差した先を見ると。
「……もう、今度こそ、眠ってもらうからね?」
そう言ってこちらをゲイルと同じくらいに睨んでくるナイトメアがいた。
あ、忘れてた。てか、カントはゲイルに同情した訳ではなかったらしい。目の前のアレが気になってたっぽい。
でも、なんだろう、凄いくらいに危機感を感じないんですが。
さっきまで危険信号ビンビン発してたってのに。うーん、なんでだろうね?
まぁ、いっか。とりあえず、説明しなきゃ!
「分かりますよ、お父様! あれはですね……」
「お、おう……」
俺の真顔の溜めに皆がゴクリと唾を飲み込む。俺はそれを見てから。
「…………ボクっ娘です」
「「「「……は?」」」」
「ぼ、ボクっ娘言うなぁぁぁっ!!」
「くはははははは! 流石である。なかなか美味であるな」
俺の言葉にカント達がハモり、ナイトメアが顔を真っ赤にして叫び、そしてゲイルが面白そうにナイトメアを、見やりながら笑う声が部屋の中に響いた。




