第2章 36 馬鹿にするなぁっ!
シリアスになんかさせないっ!(えっ
周りに無数の岩砲を浮かばせながら、不敵に笑うナイトメア。
なんだよ、あれ……そんなんありかよ!
俺はその光景に気圧されつつも、回避する姿勢をとる。
「へぇ……抵抗するつもりなのかな?」
「前の所よりもここには思う所が沢山ありますので。まだまだ足掻かなければいけないんですよね」
目を細め、右肩辺りに浮かんでいる岩砲を触りながら、面白そうに訊ねてくるナイトメアに対して、俺は精一杯の強がりを言ってみる。
多分、虚勢を張ってることはバレてると思う。
だって、自分でも分かるぐらいに脂汗が額を覆っているから。今の俺の顔は非常に引きつった笑みを浮かべている事だろう。
……こ、怖ぇ……! なんだよ、岩砲ヒュンヒュン回転させんなよ! こちとら無詠唱で一発こっきりなんだよ! おまけに全力がそっちの手抜き岩砲と同じと来た。
この状況どうしろと?
そういう俺の内心を見透かしているのか、ナイトメアは周りの岩砲を全部回転させ始めた。
「……そろそろ、眠ろっか?」
言って、今しがた触れていた岩砲を足元へと放ってきた。
「っうぉ!?」
咄嗟に反応し、右脚で地面を蹴り避けたが、完全にはよ蹴られず、右脚の爪先部分を岩砲が掠める。
あ、あぶねぇ……! ちょ、さっきまでいた所に穴が空いてるんですけど。眠るってこれじゃ永遠に眠っちゃうんですけど。え、待って、これ俺詰んでねぇか……?
まだ、死にたくないんですけど!!
「上手く避けたねぇ……でも、次は外さないよ? ボクの岩砲は正確さが売りなんだ」
少し面白くなさそうに言ったのと同時に、また一つ、岩砲を飛ばしてくる。何が正確さが売り、だ! 威力も半端ないじゃないか! って今度はさっきより速い岩砲が飛んで……!
俺は咄嗟に叫ぶ!
「す、岩砲っ!!」
ギリギリで出来上がったからか、回転を加えられたナイトメアの岩砲の速度を落とす事には成功したが、止めることが出来ず、岩砲がこちらへと向かってくる。
「くっ……!」
岩砲を放つと同時に避けて居たからか、直撃は免れたが、左脚の足首を掠める。
ピッと一筋足に傷ができる。
「うーん……いつもならこれで両脚とも封じられるんだけど……やっぱり、君って何者なのかなぁ?」
俺もそっくりそのままその言葉をお返ししたい所だ。
「……その辺の普通の家族の5歳児の子供ですよ」
左脚に出来た傷の地味な痛みに顔を顰めながら、とりあえず無難に返しておく。嘘は付いていない。
「ボクには理解できないなぁ」
言って、ナイトメアが両手を上げる。それと同時にナイトメアの周りを取り巻く岩砲が一つに纏まり始める。
そして、ナイトメアの周りでは風が巻き起こっているのか、ナイトメアが深く被っていたフードがめくれ上がる。
その、フードの下には……
「……あ」
フードがめくれ上がった状態で俺と目が合ったナイトメアは、素の声を出した。
「…………」
「…………」
ナイトメアは両手を上げ、俺は回避の構えを取りながら、しばし無言で見つめ合って……。
…………あの、すごく気まずいんですが。なにか喋ってくれよ……
なんというか、相手の秘密を不本意で覗いてしまって相手にそれをガッツリ見られてその状態で目があったまま見つめ合ってるみたいな……
俺はこの気まずい空気に耐えきれずに、均衡を破ってとりあえず一言。
「…………ボクっ娘?」
「……っっ!?!」
俺の何気ない一言でその幼く、可愛らしい顔が真っ赤に染まった。
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「……父、上…………っ!」
今は整った息をしているダンテの横でその手を握り、祈るように額にあてがうケイト。
無事だと分かっていても目覚めないというのは不安でしょうがないだろう。
「うーん、まいったなぁ……手掛かり無しで足踏みか……」
カントは横目でダンテを心配そうに見やりつつ、頭を乱暴にかき乱す。
ダンテが早々に起きてくれるのならそれに越した事はないのだが、そう簡単にはいかないらしい。
ベスタが綺麗に治癒したお陰で、ダンテは一命を取り留めたのだが、流石にダメージが大きかったらしく、一時間ほど経っても目を覚まさない。
今は、家の中でローナと、ダンテの妻、リィネルによって介抱されている。
リィネルも、ダンテの姿を見て驚きを隠せていなかったが、ベスタが治癒した事を聞くとすぐに落ち着きを取り戻していた。
ふと、ケイトの側にリィネルがそっと寄り添い、無言で手を添える。
わざわざ声を掛けなかったのは彼女なりの気遣いだったのだろう。
ケイトはその行動に目を丸くしたが、気遣われている事に気が付いたのだろう、ダンテを見ながら柔らかく微笑んだ。
その様子を見ながら小さい声でキャリルが、
「声くらい掛けてあげればいいのに」
「いや、察しろよ」
そう言ったのに対しすかさずカントが小さく突っ込む。こういう事にはカントは敏感らしい。つっこまれた鈍感はきょとんとして何故だか分かっていない。
「と、とりあえず、この件に関しては族長が起きるのを待つしかなさそうね。
今は無事なだけ良かったと思うことにしましょう」
と、ベスタが無理やり話を逸らしつつ、ため息交じりにそう言った。
ひとまずダンテの無事を今は喜ぶべきであろう。
「だな…………ん? おい、あれ。あの魔法陣ってあんな色してたか……?」
カントは返事をしようと顔を向けた時、たまたま目に入った魔法陣に違和感を覚えた。
それも、送る側の魔法陣ではなく、受ける側の魔法陣に。
そもそも、転送されてくる時以外光らない訳で……。
「っ!? あなた! あれ、さっきと、術式が……!」
ベスタがそう言うと同時に、魔法陣が青白い光を放って輝き出した────!
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「なっ、なっ……!」
真っ赤に顔を染め上げたナイトメアが羞恥の為か目に涙を浮かべながら口をパクパクさせている。
羞恥で頭が回らずに言葉が出てこないようだ。
「……いやぁ……その……」
ついつい言ってしまった。いや、あの状況の中ではしょうがないのではなかろうか。
だってだって! 気まずかったんだよ! いや、悪いとは思ってるよ? 思ってるけどもあの空気の中ずっと無言って。
俺には耐えきれんかったんだよ!
誰に言うでもなくとりあえず言い訳を言わせてもらった。
あのフードの中からあんな可愛らしいのが出てくるとは思ってもなかった。黒いくせっ毛のあるショートヘアに耳が少し尖ってて、瞳は濃い黄色。将来有望そうな幼い顔立ち。なにより、耳の上についているくるっと巻いた黒い角が人でないことを表している。
非常に美少女で、実にけしから……いや、そうじゃなくて!
なんか、男だと思ってたんだ。うん。ほらだってボクって言ってたし…………。
声はなんかローブのせいなのか籠った声をしてて判別できなかったんだよね……それよりも、目の前のその美幼女のまな板と言わんばかりの絶壁が……ってだから違くて!
と、とにかくだ! なんとなくだが、これはまずい気がする。いや、勘なんだが、あれはいくない。
なんというか、俺の直感が危険信号を発している。
「えっと……」
「な…………な…………っ!」
これ、なんて言えばいいんでしょうか? え、どうすりゃいいんだこれ。あの自称なんたらの真似して美味であるとか言えばいい?
いや、それは流石になぁ……。まず感情の味とか俺は知らん。
と、とりあえず無難に……。
「……俺は、いいと思います、よ……?」
「っっ!!! ばっ、ばっ! ばば馬鹿にするなぁぁぁっ!!」
羞恥に押し流されそうになった所から少し戻って来た様子のナイトメアがそう言って、真上の大きく纏まった岩砲をこちらに向かって放ってきた。
ちょっ! 馬鹿にしてないじゃんっ!! フォローしたってのに!
クソ野郎! なんだよこの状況! こんな状況作り上げた奴出てきやがれっ!!
あぁっ! この状況作ったの、俺じゃんっ!
あぁもう! なんでいつもこうなるんだよ! もっと上手くいってくれよ……。
……はぁ、仕方ない、全力で迎え撃つか……!
回避は無理そうだ。ならば、あれをどう止めるかだが……。
あまりというか、かなり考える時間がない。これはこんなことしてる場合じゃないな。
まぁ、しかし、少しは運がいいらしい。ナイトメアの正確さが売りだとか言うふざけた岩砲に少しでも対応するために、魔力を練っていた。
無言で見つめあっている時にも。やつが羞恥に悶えている時も。絶壁を拝んでいる時も。
これなら……!
俺は練りに練り上げた魔力全てを使って。
「白銀世界ッッ!!」
俺の今出来る最大級の魔法を解き放った!
瞬間辺りの温度が急激に下がり、真っ白な世界が辺りを包み込む。
しかし、同時に、辺りを眩い光が覆う。
それは、調度ナイトメアと俺の頭上から。
その光は俺とナイトメアが放った魔法諸共飲み込んでいった。




