第2章 32 夢は現実の狭間で
少し短めです。
あと、ちょいとイライラが溜まるかもしれないですが、ご容赦くださいませ。
────おい、くず! まだ居たのかよ。もうとっくに学校辞めたと思ってたわ。
その声に便乗するように周りで笑いが起こる。
だが、姿は見えない。声だけが、暗闇のなかでこだましている。
やめろ、笑うな。笑うんじゃない。
俺の声はその暗闇の中では笑い声の中に埋もれて届かない。
聞きたくない。聞こえて欲しくない。その人を見下して嘲笑う、その笑い声を。人を馬鹿にして楽しむ、その気持ちの悪い声を。
その、聞き覚えのある、1番嫌いな声を────
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「な、なぁ、ベスタ? ほら、さっきは俺もそう思ってたけど、理由はあったわけだし。悪気は無かったっぽいし。その、流石に、シメるのはやめてやろうぜ?」
周りに木々が生い茂っている道を皆で歩く中、ベスタの隣を歩くカントがベスタにそう言う。
「ふふふ、おかしな事を言うのね、あなた?
私はただ、自分の息子を捕らえるよう命じた度胸のある族長さんに賞賛という名の説教をするだけよ」
「だから、それをやめろって言ってんだよ……」
先程からベスタを宥めるカントだが、ベスタはずっとこの調子だ。
カントを見て赤面していたと思えば、この話を聞いてからはずっとニコニコしながらカントを見ている、否、カントに圧力をかけている。
どう見てもその目は笑ってはいない。ニコニコしているのは表面上だけであって、その中身ではもの凄い怒りの感情が渦巻いている。
誰が見ても、表面上で取り繕っていると分かるくらいに負のオーラをベスタが撒き散らしている。
「ねぇ、ベスタさん? それ、ニコニコしながら言うセリフとは思えないけど……」
……一人、分かっていない者が居たようだ。
ケインは可愛く首を傾げながらベスタにそう言う。それを見たベスタは、
「ケインくん? 私はこれでも凄く、もの凄〜く怒っているの。でも、族長にバレたら逃げられちゃうじゃない? だから、表面上だけでもこうしてニコニコしているの。これはね、そういう事なの。分かったかしら?」
後ろにいるケインに向き直り、ニッコリと笑ってみせる。
ケインはそれを見て、何故か冷や汗が止まらない。
「べ、ベスタ、さん……? あの、何故だか背中の辺りがゾワってしたんだけど……」
鈍いケインでも恐怖の本能には抗えないらしい。ベスタの方を見て顔を引き攣らせながらそう聞く。
「ふふふ。ケインくん? 世の中にはね、知らない方がいい事も沢山あるのよ? これは、その一部」
ベスタは再び前を向き歩き出す。ケインはよく分からないという顔をしていたが、自分の本能的な部分のおかげで詳しく聞くことはしなかった。
「さて、そろそろ族長の家の辺りよねぇ……
ふふふふ……殺気、じゃなかった、怒気は隠さないとねぇ……」
怪しげな笑みを浮かべながら不穏な事をぶつぶつと言い出すベスタ。
「ケイン、その、どうにかお前がベスタより先に家に入れ。あの状態のベスタは俺でも止められん。
俺が時間稼ぎをするから、家に入ったら、真っ先に族長を隠せ」
「え? う、うん、分かった……」
カントが半ば諦めたように、しかし、やけに力の篭った声で、ケインの肩に手を置きながらそう囁いた。
ケインはよく分かってはいなかったが、カントの疲れきった様子と、ふふふふと一人で不敵に笑っているベスタを見て戸惑いつつも頷いた。
「……大丈夫ですかね……」
「……族長様、ご冥福をお祈り」
「ローナさんっ?! まだ、まだ諦めちゃだめですよ?!」
キャリルの呟きを聞いておもむろに胸に手を当て、頭を下げ諦め宣言をしかけたローナの言葉を遮り、キャリルが全力で突っ込む。
ローナはキャリルのそれにはぁ、とため息をつき。
「キャリル様? カント様も仰っていたように、あのようになったベスタ様を止められる方はここには居られません」
ローナは横目でベスタを見やりながらキャリルにそう返答する。
「で、でも、流石に、あれは止めないと危ないというか、本当に良くないというか……」
キャリルとローナの視線が自然とベスタへと向く。ベスタはニコニコ微笑みつつ、凄まじい怒気を辺りに撒き散らしながら前を歩いている。
「……じゃあ、アレ、止めてみたいですか?」
「それは勘弁してください」
反論したキャリルであったがローナのその一言に即答する。それ程までにベスタは危険なオーラを放っているらしい。
「と、とにかく! 止めるのは嫌ですが、どうにかマシな方に持っていきましょう!」
「……それが出来ているのであれば、苦労はしておりませんが」
ローナのその返答に何も言えなくなるキャリルであった。
「ふふっ! さぁ、族長……! 説教タイムが始まるわよ……!」
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がやがやと周りが騒がしい。
その騒がしさで俺は目を覚ます。
「ここは……? ……あぁ、そういや俺、変な魔法陣踏んだんだっ……け…………」
が、周りの状況を見て頭の中が混乱する。
俺の周りには学生が沢山。机と椅子が綺麗に配列しており、向き合いながらお喋りをする女子達、なにやら盛り上がっている複数の男子、イチャついてるカップルなど、皆が思い思いに楽しんでいる。
というか……
「……教室……? 学、校……?」
学生、そして並べられた机や椅子、そして目の前の大きな黒板。
それらから俺はそう推測する。
だが、それにしても、おかしい。
「なんで、俺、こんな所に……? しかも、この制服は……」
そこまで言いかけて、不意に後ろから声を掛けられる。
「おい、霧島ぁ! お前まだ居たのかよ! いい加減目障りなんだよ!」
聞き覚えのある声。そして、聞きたくはない声。聞きたく、なかった声。
「っ……! こ、近藤……」
そう、彼は近藤剛。何部だったかは忘れたが、運動系の部活をしていて、周りの奴らと比べて、かなりガタイがいい。
「あぁ? てめぇ馴れ馴れしく俺の名前呼んでんじゃねぇよ」
俺が振り返って名前を言うと、それが癪に障ったのか、胸ぐらを掴みながらすごんできた。
あぁ……これだから脳筋は……なんて言えたらどれだけ楽なんだろうか。
「ご、ごめん……」
「ちっ。おい、お前、マジでムカつくんだよ。お前の声、顔、体、仕草、行動、何から何まで全部! 全部がムカつくんだよ。てめぇの存在自体が、俺は腹立たしい」
近藤に謝ったのだが、凄く理不尽な事を言われた。
声や顔が嫌い? 存在自体が腹立たしい? ふざけんな、俺だって出来るもんならお前の前から消えてやりてぇよ!
俺もお前の存在自体が! 凄く、もの凄く……!
「……邪魔くせぇんだよ……」
「あ? なんて?」
あ、やべ、声、出て……
「あ、あの、俺、トイレ行くから……」
言い訳をするようにそそくさとトイレに向かおうとして……
…………近藤の取り巻きの一人が俺の前にスっと足を出す。
咄嗟に避けることも出来ずに俺は引っ掛かって転ぶ。
「ふぐっ?!」
「……ぷっ、あっははははは! こいつ転んでやんの! 馬っ鹿みてぇ!」
近藤がそう言うと、クラスの皆が近藤の大きな声に反応してこちらを向く。
そして、何人かはクスクス笑い、近藤を含め、近藤の取り巻き達は大笑いする。
ごくわずかだが、心配そうに見るやつもいるが、近藤に楯突きたくないのか、無言で成り行きを見守っている。
あぁ、そっか。そうだよな。分かってる。理解している。どうせ、俺はいつも、こうなるんだから。
「っ!」
俺は立ち上がって走り出そうとして、
「……放課後、アソコに来いよ」
近藤に遮られ、肩にポンと手を置かれて耳元で囁かれた。
「じゃ、また後で」
「…………」
近藤がヒラヒラと手を振り、取り巻き達と一緒に教室から出ていく。
俺は、それを無言で眺めることしかできなかった。




