第2章 23 聞いてた話と違う。
少し短めだと思います。
「……あの、もう一度言ってもらってもいいですか? お父様?」
「だから、俺とベスタは貴族でも商人でもない」
カントは開口一番にそんな事を言ってきた。
……いやいやいや。
「そこからもう話と違うんですね」
「いや、そんな事を言われてもな」
「……」
「……」
いやいや、そんな事を言われてもって、あんたが貴族と商人、イエス、フォーリンラブって言ったんじゃん。
もう訳が分からん。どゆこと?
俺達はミミックコドラを仕留めてからまた数時間程歩き、暗くなってきた所で歩みを止め野営することにした。
そして、約束通りカント達の話を聞いているのだが……
「……ま、まぁ、身分が違うってのは本当だぞ?」
「……と、言いますと?」
カントのその言葉に少し興味を引かれて聞いてみる。
「えっと、実はだな……
俺はとある王国の王族なんだ。いや、今はだった、か。
で、ベスタは王都に住んでた平民の娘だった。
たまたま俺が王都に散策しに出ている時に見かけて気になって声を掛けたんだ。
あ、俺がアタックしたってのは本当だぞ?」
貴族が王族にランクアップしただけじゃん。
え、じゃあ何? カントって実はやんごとなき身分の人だったの?
貴族でも充分だってのに、王族だって?
じゃあ何、俺も王族? メイド雇ってあーしろこーしろってできんの?
ていうか、王族と平民の駆け落ちとか……本当、どこの世界のラブコメだよ。あ、この世界か。
「はぁ……なんか、もういいです。お父様とお母様は色々と凄いです……」
「いや、レント。俺からしちゃあ、お前の方がすごいと思うんだが……」
「私もそう思うのだけれど……」
カントとベスタが俺にそう言い返す。
おっと、なんという高評価。そんなに対したやつじゃないよ、俺。
「いえ、お父様達の方が凄いです。
というか、お父様が王族ということは僕も王族ってことになるんですか?」
「……その事なんだが、実はな。
俺がベスタと結婚するって言ったら猛反対されてな。
まぁ、それは身分的に当然だろうが、俺はベスタ以外とは絶対結婚しないって言ったんだ。
そしたら、勘当されて追い出されたんだよ。
だから、今は王族というより、王族崩れってとこだな」
なるほど。まぁ、ある程度俺の考えてた通りだな。普通は駆け落ちしたらそりゃ、王族の資格なんてないわな。
……ん? じゃあなんで、名字はあるんだ? カントは王族のファインス家ってとこの王族でその名前をまだ使ってる? 王族崩れだって言ってるのに?
え、普通は使っちゃダメだろうし、ってことはファインス家ってのは架空の一族?
もう本当に訳分からん。
「あ、ちなみにファインスは実は俺のミドルネームだ。
王族崩れが王族を名乗るのは違うしな」
まさかのミドルネームかよ! 本当の名前はなんて言うんだろ?
聞いたら怒るかな? いや、なんでも話すって言ってたし……うーん……
「本名は……いや、今はまだいいか」
カントはぼそっと独り言を呟く。
「ん? お父様、何か言いましたか?」
「いや、なんでもない。
それで、俺とベスタはその国から追放されちまって今はパルス村に住んでるってわけなんだ」
「そうだったんですか……あ、じゃあローナさんはその時一緒に?」
「あぁ、そうだ。ローナは小さい時から王宮に仕えててな。
俺は歳が近かったもんだからよくローナに面倒かけててなぁ。
で、勘当された時にローナだけ付いてきてくれて。
今も雇ってるって感じだな。まぁ、雇ってるってよりはもう家族同然だけどな」
カントはそう言ってローナをチラリと見る。
「いえ、カント様には色々と恩があります。そのようなお言葉は私には勿体ない限りです。
私はカント様にお仕えする身として分別はわきまえております。
家族同然など図々しい事は言えません」
ローナはそんな事を……
いや、俺としても世話焼いて貰ってるしなぁ。家族として俺は見てたんだが……
「いや、ローナ。俺はお前をメイドで雇っているというのは建前だ。
そう言わなけりゃお前はそんな図々しい真似は、とか言ってどこかに行ってしまうだろう?
だから、メイドという建前を持ってきてるだけだ。俺はお前を家族同然として扱っているつもりだ」
「それは……いえ、ありがとうございます。カント様。
この身が朽ちようともお仕え致します」
「いや、無理はするなよ?」
「多少の無理はお許しください」
「はは、やっぱ変わらねぇな、ローナは」
…………いい話だなぁ……
二人は昔から仲が良かったんだろうな。互いを信頼しあっているのが見ていてすごい分かる。
主従の関係ではなく、同等の関係での信頼だ。ローナ自身もあぁは言っているが、やはり長い付き合いになると同等になってしまうのだろう。
「ローナとあなたはいつも仲良しねぇ。
昔なら嫉妬してたかもだけれど、そこまで見せつけられちゃ何も言えないわね」
ベスタがいたずらっぽく笑みを浮かべながらそんな事を言った。
「え、あ、ベスタ? こ、これはそういうんじゃなくてだな……」
「ふふっ、分かってるわよ、あなた。
今のやり取りを見てたら誰だって分かるわ。それに、ローナはそういう子じゃないものね」
ベスタがクスクスと笑いながらからかうようにカントに言う。
「あーもう、やっぱベスタには敵わねえなぁ……」
カントは自分でも気付いていたらしい。傍から見てたら尻に敷かれてる感丸出しだもんな。
これで自覚してなかったら怖いくらいだ。
「まぁ、こんな感じなのよ、レント。あなたは賢いから分かったでしょう?
今の自分達が置かれてる状況も分かってそうで逆に怖いのだけれど……」
えっ! べ、別に今置かれてる状況は分かってないよ?
僕、5歳だから分かんなーい。
「むしろ、何でここにいるのかが一番よく分からないんですが……」
「何か言ったかしら?」
「いえ! お母様達はやっぱり凄いんだなぁって思いまして」
「ふふっ、そうかしら?」
ベスタはふふふと可笑しそうに笑っている。
うーん、ベスタにはなんか見透かされてる気がしてならないんだよなぁ……
俺もベスタには敵わないらしい。
「まぁ、あらかた話したな。じゃ、そろそろ肉も焼けるし食べるか!」
「そうね、そうしましょう」
「後1、2分程で焼き上がると思います」
「ここでもあれが……こんな贅沢……!」
「いい匂いですね!」
うーん、前の世界では食事はずっと1人だったってのに。俺も変わったなぁ……
昔ならこの状況で嬉しいとも楽しいとも思わなかったろうに。5年で変わるもんだなぁ。
うん、今日はカント達の話も聞けたし個人的には充実……
………ん? あれ? なんか忘れてるような……?
…………………………。
あ、冒険者の話。あれ? 冒険者の話は? なんか話がすりかえられてる……?
確か冒険者の時の話を聞くはずだったのだが。
……なんか思ってたのと違う。まぁ、いいか。冒険者の話はまた今度に聞くか。
それより今は肉だ!!
俺は目の前に差し出されたこんがりと焼けた肉に食らいついた。
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「ふぅ……ベスタこれで大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫だと思うわ」
「……気付いてると思うぞ?」
「……多分大丈夫よ」
「まぁ、この話はまだ、な……」
「えぇ。レントは賢いけれど、まだ幼いわ。
今はまだ、元気に育ってくれるだけで、ね」
「冒険者の話はもうするって言っちゃったんだが、あの件については話さない。
それはお前も同じだろう?」
「……まぁ、あの件は、ね。とにかく、不自然に思われないようにしときましょ」
目の前で可愛くて賢い息子が肉をむしゃむしゃ食べている様子を見ながらコソコソと話をするカント達であった。




