気付く女
4泊目の夜、それが起きた。
19時30分、ゆき達の部屋に誰かが焦るようにノックをしている。
「マルガリューテとソールディスだよ!!」
外でマルガリューテの声が聞こえてきた。
まさか、何かあったのか?
そう思ったゆきは、身を固まらせた。
怜が、部屋のドアを開けた。
マルガリューテとソールディスが、何かに怯えてる様子で佇んでいた。
「どうしたんだ?」怜が尋ねる。
「みんなには内緒にしといた方がいいってロイに言われたから、内緒にしてたんだけど・・・今はそれどころじゃない!内緒にしてい倉庫が誰かに荒らされてたの!」
マルガリューテがそう大きな声で言う。そして、「来て!」と言ったら、駆け始めた。
怜はそれについていく。マナと健一は好奇心でその後に続く。ゆきも状況を把握しようと考えて、ソールディスと共に、一緒に向かった。
マルガリューテに案内された倉庫は、怜の推測通りに、スタッフルームの地下にあった。スタッフルームの床にある扉を開けると、地下へと続く階段がある。その階段を降りると、倉庫だ。
鍵は壊されており、マルガリューテの言うとおりに倉庫の中は荒らされていた。
何をどうしたかったのか分からないぐらいに荒れている。
つまり、犯人が盗んだ物が簡単にバレないようにわざとしたんだろう。
「何か無くなっているものは?」
怜がマルガリューテとソールディスに聞く。
2人は首を横に振った。
「分からない。私たちはストーブの灯油や、暖炉の薪を取りに来るだけだったから。ここはロイが管理していて、私たちはあまりよく知らないの」とマルガリューテ。
「ロイは?」怜が尋ねる。
「ロイは熱がずっと続いてて、寝てばっか。今も見に行ったら寝てた。起こして聞いて来た方がいい?」
「そうだな。起こしてみて、何があったが聞いてみてくれ」
怜がそう言うと、マルガリューテとソールディスは頷いて、階段を上り、倉庫から出て行った。
怜が倉庫をマジマジと見始める。ゆきも周りを見渡してみるが、あまりに荒れていて何をみたらいいのかすら分からない。
「この倉庫を荒らして何をしたかったのかなー?」マナが呟く。
「分からないな。何かが欲しいものでもあったんじゃないか?おわっ!チェンソーがある!」健一がそう言う。
「えー!チェンソーとか怖い!あ、ここ斧があったよ!」
マナと健一がワアワアキャアキャアと騒ぐ。
ゆきも怜に見習い、ひとつひとつをマジマジと見ることにした。
ゆきは灯油らしきものが入っているタンクを見ていた。
大きいタンクは2つあり、その隣に小さいタンクが1つある。よく見たら、小さいタンクの外側には、油が垂れて流れたような跡があり、テカテカと光っている。その小さいタンクの下にも、油のようなものが数滴垂れていた。
「肥料らしきものの袋が破かれている・・・」
怜が呟いた。
ゆきも怜の方に視線をやると、確かに他は乱雑に倒されたり、床に投げ出されたりしているだけなのに、肥料らしきものが入っているだろう袋は、何かに破かれて、中身が床にこぼれている。
肥料・・・?犯人がしたいことがよく分からない。
ゆきはまた自分が見ていた、大きいタンクと小さいタンクに視線を戻す。
そして、タンクの蓋を開けて見た。
大きいタンクに入っている液体は無色だ。
小さいタンクに入っている液体は淡い褐色だ。そのことには気づけたが、結局その違いで液体が何であるかはわからない。
「怜君、ちょっと見て欲しいんだけど・・・」
ゆきは、怜に聞くことにした。
怜はゆきに近づく。そして大きいタンクと小さいタンクを見比べて、こう言った。
「おそらくだが・・・大きいタンクは灯油で小さいタンクは軽油だな。見た目での区別をするために、軽油は出荷時に着色されることが多い。と、なると・・・」
小さいタンクの外側には油が垂れている跡があり、数滴床にこぼれている。それは明らかに真新しいものだ。と、なると、最近誰かが軽油を持っていった可能性が高いということだ。
「軽油の用途は、自動車などのディーゼル燃料にほとんど使われるが、それ以外には、機械の燃料などにも使われる・・・」
怜はそう呟いた。
いや、それだけじゃなかったはずだ。
ゆきは、何かを頭の中から一生懸命引っ張り出していた。
軽油と、あるものの組み合わせ。
その、あるものが思い出せない・・・。
何かあったはずだ。
その時、健一がこう言った。
「肥料って何で出来てるんだ?」
「肥料の成分は窒素・リン酸・カリウム・カルシウム・マグネシウム。他には鉄や銅も含められたりするな」怜が答える。
何かが引っかかる。だが、それがわからない。
怜は言葉を続ける。
「窒素には硫酸アンモニウムとか硝酸アンモニウムが使われるらしいな。リン酸は過リン酸石灰、カリウムは塩化カリウムだ」
「なんかやばそうなのばっかだな。食べ物に混ぜて俺たちを殺そうとしてるとか?」健一が口を出した。
「いや、肥料は食べても死ぬほどにはならないだろう。せいぜい、嘔吐したり下痢をするくらいだ」
「じゃあ、肥料と何かを混ぜて毒薬を作ってるとか!」
マナが思いついたように言った。
その言葉にゆきは目を見開いて、呟いた。
「まさか・・・、アンホ爆薬?」
ゆきのその言葉に、怜は目を見開いた。
「まさか・・・。でも作ることは可能だ」
怜はそう言い、口唇を軽く噛んだ。
「アンホ爆薬ってなに?」とマナ。
「爆弾ってわけじゃないよな?あはは」
乾いた笑いをする健一。それに怜が答える。
「その名の通り、爆薬だ。硝酸アンモニウムと軽油で作れるお手軽な爆薬だ。ただし、これだけでは爆弾にすることには出来ない」
「だけど、起爆剤があれば出来る」
ゆきは、そう言いながら、身体中の血の気が引くのを感じる。
ゆきは目をギュッとつぶる。
その瞼の裏には、忘れられない光景が張り付いていた。
爆発音に、焦げた臭い。
遠くを見てみると、肉の塊が転がっていた。
心臓がバクバクと激しく動く。
ゆきは、拳をギュッと握り、目を開く。
「行こう」そう呟いた怜の言葉に、ゆきは頷いた。




