22、試験員と村へ
試験員を務めるレオナの挨拶にまず答えたのは、実技試験にうきうきと胸を高鳴らせていて、瞳が輝いているフランツだった。
「私はフランツだ。今回はよろしく頼む」
(やはり冒険者となったからには、実技試験は絶対に外せない。試験員に実力を認められ、弟子としてもらえるように頑張らなければ……!)
試験員が冒険者を弟子にするのは冒険小説の中だけであるが、そんなことを知らないフランツはレオナに期待の眼差しを向けている。
レオナはそんなフランツに、少し困惑しているようだ。
「随分と、楽しそうですね」
「実技試験だからな! あなたのことはレオナさんと呼んでも良いだろうか」
「もちろん構いませんが……」
フランツの少しズレた返答に、レオナは僅かに首を傾げて呟いた。
「普通は実技試験だからこそ、緊張するんじゃ……」
その小さな呟きは誰の耳にも届かず、次にマリーアが苦笑しつつ口を開く。
「わたしはマリーアよ、今回はよろしくね。フランツはちょっとズレてるから気にしなくていいわ。冒険小説が好きなのよ」
「冒険小説が」
マリーアの言葉にレオナは僅かに瞳を見開くと、納得するように小さく何度か頷いた。
「そうなのですね。今回はよろしくお願いします」
そうしてフランツとマリーアの二人に挨拶を済ませたところで、レオナはダミアンとクルトに視線を向ける。
「依頼主のお二人にはご不便をおかけしてしまうかもしれませんが、ご協力よろしくお願いいたします」
「はい。私たちとしては、依頼を受けてもらえれば大丈夫ですので」
「そうだぜ。こんな話より早く村に行こう!」
クルトのその言葉で一同はさっそく馬車に乗り込むことになり、ダミアンが御者をして馬車はゆっくりと進み始めた。
ハイゼの街からクルトたちが住む村までは、馬車で半日ほどの距離だ。常緑の森とは反対方向に、山に向かって進んだところにある。
「そういえば、レオナさんは武器を持ってないみたいだけど大丈夫なの?」
馬車に揺られながらしばらく進んだところで、ふとマリーアがそんな問いかけをした。するとレオナはギルド職員の制服であるタイトスカートを徐に引き上げ、太ももを露出させる。
突然の行動に皆は驚いたが、すぐ太ももに巻きつけられた武器に全員の視線が集まった。
「武器ならここに」
「それって……鞭?」
レオナの太ももにはポケット型のような分厚い革がぐるりと巻かれ、そこに鞭が収納されていたのだ。それも棘がついた、見るからに痛そうな鞭である。
「はい。私は鞭を使います。生半可な魔物には負けませんのでご安心を」
「鞭をメイン武器にしてる人は初めて見たわ……でもなんでそんなところに? 痛くないの?」
「肌には当たりませんので、全く痛みはないです。ここに仕舞っている理由は……少々事情があり、カバン等を持てないことがあるものですから」
棘がついた鞭を隠し持たなければいけない事情には厄介な匂いしかせず、マリーアは深く追求することなく口をつぐんだ。
すると今度はフランツが、興味深そうな瞳で口を開く。
「その鞭でどのように魔物を倒すのだ? 私は鞭という武器を使ったことがないので新鮮だ」
「別に特別なことはございません。適度に離れた距離からじわじわと嬲り(なぶり)殺すか、鞭を巻きつけて木や地面などに打ち付けるかですね」
「ほう。ということは、鞭で持ち上がらない魔物は嬲り殺す方向になるのだな」
「そうなります。しかし鞭の先端に、実は小さな矢じりのようなものが付いていまして、それで目などを上手く突き刺すという方法も可能です」
レオナの説明を聞きながらフランツはだんだんと鞭に顔を近づけていき、側から見たらレオナの太ももを凝視しているような体勢になった。
そこでマリーアはハッと我に返り、フランツの頭を思いっきり叩く。
「あんた、近づきすぎよ! レオナさんも早くスカートを元に戻しなさい!」
「……別に鞭を見るぐらい構いませんよ? 減るものじゃありませんし」
「それは女性側が言うセリフじゃないわ!」
「マリーア、暴行はいけないぞ。帝国法で……」
「暴行の前に自分の行動がセクハラかどうかを考えなさい!」
マリーアは二人に突っ込むと、疲れたように大きく息を吐き出した。そして隣に座るクルトに何気なく視線を向けると、クルトが頬を赤くして居心地悪そうにしているのに気づき、咄嗟にクルトの目を自らの手で覆うように隠す。
「子供の教育にも悪いでしょ」
それからはレオナが鞭を取り出すことで落ち着き、フランツとレオナの鞭談義は続けられた。
馬車内で起きたちょっとした騒動以外に道中で問題はなく、一度だけ魔物討伐のために馬車を止めたのみで、一行は昼を少し過ぎた頃に村へと到着した。
その村は山の麓にある集落で、果樹畑が広がっているのが特徴的だ。
「このまま村長宅である、うちまで行きますね」
御者をしているダミアンが馬車内に声をかけ、馬車はそのまま止まることなく村に入った。村の中心を通る道を進んでいくと、村人たちが次々と御者のダミアンに声を掛ける。
「ダミアン、街に行ってきたのかい?」
「そうだよ。警備隊は難しかったけど、信頼できる冒険者の方たちが依頼を受けてくれたんだ」
「やっぱり警備隊はダメだったか……」
「冒険者で解決できるかね?」
世間一般では底辺職として知られている冒険者なので、村人たちの不安は晴れないようだ。
「他にいなくなった子供は出てない?」
「それは大丈夫だよ。子供は全員、家からの外出禁止にしたからね」
「それにしても何が起きてるんだか」
「無事だといいけどね……」
村人たちにそんな声を掛けられながら進むこと五分ほどで、馬車はこの村の中では立派な建物の前に止まった。
「皆さん、ここがうちで、村長宅です」
ダミアンに声を掛けられ全員が馬車から降りると、馬車の音が聞こえたのか玄関が中から開かれた。そこから出てきたのは、ダミアンとクルトにどこか似た壮年の男性だ。
「ダミアン、クルト、帰ったか!」




