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14話 修練場

 集落の外れには、子供たちのための修練場が設けられている。


 小さな崖を背に、木製の的と木偶を配置しただけの粗末なものだが、集落と地続きになったこの場所は、子供たちが遊びの延長線として気軽に立ち寄るには十分な仕掛けとなった。


 集落から続く道に茂っていた草木はそこを境になくなり、往来が激しく子供たちに踏み荒らされた地面は土や岩が剥き出しになっている。


「どうしてみんな石投げの練習をするの?」


「どうしてってお前、そんなの狩りをするからに決まってるだろ」


 住居の位置を確認した二人は、その足で修練場を訪れていた。


 それぞれの小屋にいる年長の子供からの指示がなかったり、道具の製作や獲物の加工作業が割り当てられていない子供たちは、森に食用の草や木の実を採集に行くか、修練場で遊ぶかするのが彼らの日課だった。


 修練場ではすでに大勢の暇な子供たちが的や木偶に向けて石やナイフ、槍を当ててはしゃいでいる。


「よぉカルラ。今日は森に行かねぇのか?」


「うん。おんぶしてくれるお兄ちゃんがいないから、材料がくるまで石当ての練習」


 女の子たちが集まる一角で楽し気に談笑していたカルラが、不躾に尋ねるテオに応じる。


「ねぇテオ、おんぶってどういうこと?」


「ああ? 走れないやつは獣に食われるからに決まってるだろ。お前って本当に何も知らねぇのな」


 両の足首に痣のあるカルラは思うように走ることができない。


 本来は狩り以外の時間を道具の製作、或いはその材料や木の実の採集に出るのが普通だが、大型の獣に遭遇した際に逃げる「足」、つまりカルラの面倒を見る年長者が今は不在とのことだ。


「えいっ! ――やったぁ!」


 腕だけを振るって投げられた石は小さな弧を描き、手近の的に当たった。


 体勢を崩したカルラの周りに女の子たちが駆け寄り、手を取って互いに喜び合っている。


「ダメだね。全然なってねぇ。そんな近くじゃなんの意味もねぇっての」


 女の子の集団が集めたであろう手頃な大きさの小石の山から一つを拾い上げたテオはアルを一瞥し、軽く弄んだ石を目にも止まらぬ速さで的に投げつけた。


 ――ガッ!


 動きに遅れて崖のすぐ下の的が鳴った。


 アルたちが立っている場所から最も遠い位置に配されたその的まで裕に百メートルはある。


「す、すごい!」


「へへっ、こんなのできて当たり前だぜ。兄ちゃんたちはもっとすげぇからな」


 テオは手を打ち褒め湛えるアルのことを軽くあしらいながらも、存外にまんざらでもない表情を浮かべる。


「本当にすごいよテオ! お兄ちゃんたちみたい!」


「だろぉ? カルラも俺の子が産みたくなっただろ?」


「うわぁ、テオさいてー。調子に乗らせちゃダメだよカルラ」


 カルラを始めとして純粋に褒めていた女子たちは、テオのあらぬ一言で興醒めし、後ろ髪引かれるカルラの手を取りまとめて去って行った。


「……うっし! そんじゃあアルもやってみるか!」


 気を取り直したテオは、手頃な石を見繕いアルの手に握らせる。


「先ずはそこの的に当てるとこからだな」


 テオは十メートルほど離れた手近の的を指して言った。


 先程カルラが当てていたその的は他の物に比べて大きく、付けられた打痕の数も多い。


 躊躇いながら構えたアルは、見よう見まねで生まれて初めての投石を行う。


 スッ――カッ……


「……ぷっ! アル、なんだよいまのぉ!」


「だだだだって! 初めてやったんだもん!」


 的に当てることはおろか届きもしなかったことに加え、そのことを殊更に同年代のテオにからかわれたこと、それにムキになって言い訳する自分が恥ずかしくなったアルの表情は、見る見るうちに赤くなっていく。


 あのカルラにもできたことが自分にできなかったという事実が、幼いアルの心の奥深くに突き刺さった。


「はぁ――ま、しょうがねぇよな。生まれて初めて石を見るんだもんなぁ?」


「い、石くらい見たことあるよ!」


「まぁまぁ落ち着けって。一先ずこれで俺とお前の実力差ってのが分かったわけだ」


「……うん。確かにテオはすごいよ」


「だろぉ? じゃあ今日から俺のことは『兄貴』と呼べ」


 ポカンとするアルの肩を叩き、得意気な顔で手の平の小石を転がすテオ。


 その様子を目の当たりにしたアルは不意に手足が震え、動悸が激しくなるのを感じた。


「――アニキ」


「おう! ――あ、でも兄ちゃんがいるときは言うなよ!」


 年長者を敬う集落の慣習に怯んだテオは、一応の保険のためアルに釘を刺した。


 しかし、生まれて初めて感じる負の感情に捉われたアルは、テオが言ったことなど気にも留めなかった。


 ――負けたくない!


 自分の中に「負けず嫌い」の一面があることを知ったアルは、次第に投石の修練への意欲を燃やし始めた。





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