繋がる悪夢
――耳をつんざくサイレンが、闇の中から突然響き渡った。
断続的に点滅する赤い非常灯が、コンクリートの壁に「避難指示」の文字を血のように浮かび上がらせる。
その明滅の間に、慌ただしく走る人々の影が揺れ、何かを叫ぶ声が遠くから押し寄せてくる。
ここは……どこだ……? 俺は……何をしていた……?
ベンは周囲を見回す。
足元には散乱した金属パーツと、焦げた書類。
壁の向こうから重低音が響くたび、床が小さく震えている。
ドン――!
爆発音。
次の瞬間、視界が切り替わるように開け、都市の上空からの映像に変わった。
黒く渦巻く雲が空を覆い、遠くの地平線が淡く光っている。
その光はじわじわと膨れ上がり、やがて白熱の閃光へと変わった。
視界いっぱいに広がる白――そして轟音。
風景の輪郭が溶け、光と熱が都市全体を呑み込む。
「お父さん……これ、なに……?」
小さな声が背後から響く。振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
代わりに、強烈な熱風が肌を焼き、肺を絞めつけるように押し寄せた。
遠くに、空を突き破る巨大な“キノコ雲”が立ち上っていくのが見える。
熱い……! ここから……逃げ──
視界が突然ノイズで覆われた。
そして場面は、白く無機質な部屋へと切り替わる。
壁一面が無反射の金属パネルで覆われ、中央には透明なカプセルが何列も並んでいる。
中には人影が横たわり、淡い光がその周囲を漂っていた。
その一つに……パウルの顔。
目を閉じ、まるで眠っているように静かだった。
「意識データ、部分的に回収完了。残存率……62%。」
機械越しの女性の声が響く。
冷たい響きと共に、カプセルの側面に青いコードが接続され、光が脈動する。
ガシャァン――!
突然、背後で重厚な扉が破壊される音。
振り返ると、黒い鎧に包まれた背の高い人影が、ゆっくりと歩み寄ってきていた。
その歩幅はゆっくりだが、足音は重く、床全体が震える。
顔には黄金の仮面――そしてその奥の瞳が、深紅に光っている。
「……ようやく見つけた……選ばれし、亡者たちよ。」
低く、重く、胸の奥まで響く声。
言葉と同時に、冷たい鎖のような感覚が手首に巻きつく。
それは瞬く間に全身へと広がり、動きを奪っていく。
やめろ……! 離せ!
喉から声が出ない。
視界の端で、パウルが横たわるカプセルの中に影が覆いかぶさる。
黄金の仮面が、じわりとこちらに顔を向ける。
――その瞬間、ベンは息を切らせて飛び起きた。
額から汗が滴り、胸は激しく上下している。
周囲を見渡すと、そこは見慣れたヴァルノアの宿の部屋。
シルヴィアが椅子から立ち上がり、心配そうに駆け寄ってきた。
「ベンさん……? また、夢を……?」
荒い息を整えながら、ベンは目を閉じた。
胸の奥に焼き付いた閃光と、あの声が、まだ消えない。
「……夢じゃねぇ。
……あれは……記憶だ。」
◇錆びた天井◇
パウルは、薄汚れた毛布の上で目を閉じていた。
ナナたちが物音を立てないように寝息を整えている。
眠りは浅く、何度も身体を寝返りさせていたが、やがて視界が暗く沈んでいく。
◇暗い通路
頭上の非常灯が赤く点滅し、金属製の通路が延々と続いている。
壁には「LEVEL-04 EVACUATION AREA」の白文字。
床は微かに揺れ、遠くから重い爆音が響く。
……ここは……知ってる……?
足元を見下ろすと、軍用ブーツ。
右手には、見覚えのない黒い拳銃が握られている。
だがその重さと感触は、やけにリアルだ。
通路の奥で白い閃光が炸裂し、パウルは思わず目を細める。
視界の端に、子供の小さな手が映った。
その手は、血で赤く染まっている。
「……逃げろ……!」
声が出た瞬間、景色が切り替わった。
◇無機質な白い部屋
透明なカプセルがいくつも並び、その一つにベンの姿。
瞼は閉じられ、口元には呼吸装置のチューブが伸びている。
頭上のスクリーンに文字が流れる。
意識データ同期中……残存率61%。
補完処理を実行します。
背後で低く重い音。
振り返ると、黒い鎧と黄金の仮面がこちらを見つめていた。
深紅の瞳が、パウルの意識を貫く。
「……お前たちの“時”は、まだ終わらん。」
その言葉と同時に、足元から黒い鎖が伸び、パウルの脚を絡め取る。
息が詰まり、視界が黒く染まっていく。
◇廃教会
パウルは息を荒げながら飛び起きた。
心臓が痛いほど早く脈打っている。
横では、ナナが驚いた目でこちらを見ていた。
「……悪い、起こしたな。」
パウルは額の汗を拭い、深く息をついた。
しかし、胸の奥に焼き付いた“ベンの顔”が、どうしても消えない。
◇同時刻:ヴァルノアの宿(ベン側)
ベンは窓辺で夜空を見上げていた。
胸の奥に残るざらついた感覚を振り払おうとしても、頭から離れない。
あれは……パウル……?
二人はまだ離れた場所にいる。
だが、確かに同じ夢を、同じ夜に見ていた。




