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ドワーリンのリンクス

リンクス・エルダーは、いつもより少し早く目を覚ました。

まだ夜明けの鐘も鳴っていない時間、宿舎の窓から差し込む光は淡く、石壁の部屋は冷えている。

寝台の脇に置かれた木剣を手に取り、静かに演習場へと向かった。



広場にはまだ誰もいない。

砂に覆われた地面に足を踏み入れると、霧が薄く漂い、遠くに王城の尖塔が霞んで見えた。

リンクスは深呼吸し、木剣を握り直す。

「……はっ!」

乾いた音が霧を裂くように響いた。

素振りを繰り返すたび、肩と腕にずしりとした疲労が溜まっていく。


「おい、また一人でかよ」

背後から声が飛んだ。振り返ると、カイルが呆れた顔で水袋を振っていた。


「少しは寝ろって。訓練で居眠りして倒れたら意味ないぞ」

「……もう少しだけだ」

「その“もう少し”を何回聞いたと思う?」


カイルは笑いながら近づき、リンクスの肩を軽く叩いた。

「お前が頑張ってるのはみんな知ってる。でも、仲間を頼るのも大事だぜ」

その言葉に、リンクスは思わず目を伏せた。



午前の訓練が始まる頃には、他の候補生たちも集まってきた。

剣士志望の者、魔術の基礎を学ぶ者、盾を掲げる者――それぞれが汗を流し、声を張り上げる。

その輪の中で、リンクスも木剣を振るい続けた。


休憩の合間、仲間の一人が笑いながら言った。

「なあ、英雄候補の試験、俺たちにも回ってこねえかな」

「やめとけやめとけ。中央区の訓練所からなんて、滅多に選ばれねえって」

「でも、もし選ばれたら……」


冗談交じりの会話に笑い声が広がる。

リンクスも微笑みながら耳を傾けたが、胸の奥で言葉が静かに響いていた。

――守るべきものがある時、自分は剣を振れるのか。



昼の食堂。木製の長卓に並んで座り、黒パンをちぎりながら仲間たちが賑やかに話す。

「おい、カイル! この前の模擬戦、杖の先っぽ折っただろ!」

「違う、あれはリンクスの剣捌きが荒いからさ」

「はははっ!」


笑い声が石壁に響き、食堂は活気に満ちていた。

リンクスは苦笑しながらも、心の奥が少し温かくなるのを感じた。

この場にいる限り、自分は一人ではない。



その日の夕方、再び演習場に立ったリンクスは、夕陽に染まる空を見上げた。

昼の笑い声がまだ耳に残っている。

「……俺も、負けてられないな」


木剣を握る手に力がこもる。

仲間と共に切磋琢磨しながら、彼は少しずつ、自分の道を歩み始めていた。

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