近づく秘密 2
こほんとごまかすようにわざとらしく咳払いをした有生はじっとこちらを見た。
「なに?」
「そのパソコン、見たい」
その言葉に言うと思った、と言ってベッドから立ち上がろうとした。
「あ。なぁ」
「なに?」
「他におやじからもらってるのない?」
「ほか?」
聞き返すと頷かれる。
ほかに何かあっただろうか?と思い返してみても、私が持っているあの人のパソコンは1台だけで、ほかのものはない。手元にあるのも有生が持っている本と同じものだ。
「ない、かも」
思考しても出てこないためにいうとそっか、と残念そうに言う。部屋にパソコンを取りに行ってくる、と告げて部屋に戻る。
ぱたりと部屋にはいるとチカチカと点滅するスマートフォンが目に入る。
それをそのままにパソコンだけをもっていく。
視界に入った家族の集合写真の入った写真たてを静かに伏せた。幼い私たちを挟む両親。まっすぐな赤毛の黒目の女とくせ毛黒髪の青眼の男の笑顔が白々しく感じた。
「はい。パソコン」
有生の部屋に入ってパソコンを差し出す。有生の部屋は自室よりも強い圧迫感を感じてしまうのは、本棚やパソコンなど、物が多いからだと納得する。
有生は差し出したパソコンに目を輝かす。パソコン用の眼鏡をかけてさっそくいじろうとするその姿勢にふぅと息をついた。
「ねぇ」
「んー?」
ずいぶんと私に対してやわらかい反応をするようになったと思いながら声をかけると有生はすでにパソコンを立ち上げようとしていた。
「有生が持っているそのパソコン、見てもいい?」
「どうぞー。あれ」
振り向きもしないで指を差されたそのパソコンは少しの埃が目につく。
黒光りするタイプのノートパソコンですっとなでるとすぐにその白い少しの埃は落ちた。それを手元によせてたちあげようとする。
「T@HCか……」
有生が困惑したようにつぶやいたのが聞こえて私もその文字を触るようになぞる。立ち上がったパソコンのパスワードのところにその文字を入れてみようか、と考えて、その文字を打ち込もうとする。
「あれ?」
「なに?」
「ねぇ有生。キーボード、いじった?」
「いや?」
反応を示さない入力信号。
それもそのはずだ。全然打ち込めた感覚がしないのだから。
「そう」
立ち上げたばかりのパソコンの電源を落とした。
「な?つかないだろ?」
「いや、それよりも」
「なに?」
ほかの文字を触ってみても打った感触がしっかりある。ということはこの4文字だけが打ち込めないということだ。意味がある4文字なのか、それともただ偶然の4文字なのか、それはまだわからない。しかし、なにかしらのヒントがここに隠されているように感じた。
「このパソコンのT@HCの文字、打ち込めないの」
出した声は少し震えていた。
有生はやっとパソコンから顔を上げた。
「キーボードの文字って外せるようになってたよね?」
「そう、だな」
「ここになにかあると、思わない?」
ごくりと唾液を飲み込んだ音が響く。
その音は私のものか、有生のものか判別はつかなかった。
■有生
パソコンに夢中
■志乃
あれ?打てない
有生のターンでした。次回も引き続き有生のターン。
しばらく更新不定期ですみません。来週、また更新できたらいいなぁ。




