近づく秘密 1
私がこくりと頷くと有生は部屋に入るように促した。
とりあえず有生は食べたはずのごはんを私が食べてからいくという話をして、先に行かせる。ご飯やお風呂等を済ませてから有生の部屋に向かう。時刻はもう21時を超えていた。
部屋の中にある勉強机なのかパソコン机なのかわからないそれようのキャスターのついた椅子に座った有生はくるりくるりとまわって見せた。私は敷きっぱなしの有生のベッドの布団をどけて腰かけた。
「まず怒られそうなことをいうな」
「うん」
有生は困ったようにいうと数度溜息をこぼした。
「おやじは生きている」
「うん。知っているよ。真くんが教えてくれた」
そういうとその目を見開く。
「真くんって真にいちゃん?」
久しぶりに聞いた真にいちゃんとの呼び方が有生の幼さを感じさせた。
「そうだよ」
「なんで知ってんの?」
「飲み屋の近くで見かけたんだって」
「ふぅん」
納得のいってなさそうな声を聞きながらで?と先を促す。有生は何度か言葉を考えるようにぶつぶつといってやっと決めたといったように口を開いた。
「親父の仕事って何か知ってるか?」
「知ってるも何も」
有生の本棚の本を取り出す。
「売れない小説家でしょ」
渡した小説の題名は「蝋梅の花」黄色い薫り高い花の名前を題名にしている話だ。
「それ姉ちゃん、本屋で見たことある?」
「え?ないけど」
やっぱりという言葉に息をのむ。
「まって、何が言いたいの」
「親父は小説家じゃないってことだよ」
そういうと有生は渡した本をベッドに投げる。
「文章もずいぶんと陳腐な作品だし、少なくともこのネット社会でそんな題名の本があるって一言もあがってない」
「でも、ちゃんと製本している」
「何かのために残したんだと思う」
有生は確信をもって言う。
「それは何かはわからないけども。おかしいことばかりだ」
その言葉に納得が生まれた。
「そう、だね。おかしい」
そういうと有生は顔を向けた。
「姉ちゃんもそう思った?」
「違和感はあったの。売れない小説家のお金でやりくりができると思う?あの人が消えてからもうずいぶん経過するけどお母さんは専業主婦だよ。どこから来てるの?私たちの生活費」
有生はそれをきくとそうなんだ、とうなづいた。
「おかしいことばかりなんだ。お金の出所もこうしてふつうに生活できていることも、生きているのに帰ってこないことも」
有生はそれだけいうと思考をまとめるように早口でぶつぶつとつぶやき始める。そのうちのひとつの言葉は耳にはいる。
「親父のパソコンも家族に残すにしても何のヒントもなくパスワードを求めるものだろ」
「え?まって。有生」
思わず集中していた有生を止める。
「なに」
「ヒント、というか違和感はあったよ。あの人のパソコン。あったでしょ?」
そういうと髪を無意識に掻いていたであろう手を止めた有生がこちらを見た。
「なにそれ!」
いつもよりもずいぶんと喰い気味にいうその言葉に言葉を詰まらせた。
「T@HC」
「は?」
「私はあの人が使っていた一台しか見ていないけどキーボードのその文字だけ薄くなっていたん、だけど」
じっと見る有生の顔が徐々に険しくなっていくにつれて声も小さくなる。
「有生―?有生くーん?」
「そうか、ねぇちゃんのこと忘れてた」
「あ?」
ぽつりと言った言葉に顔をしかめて言うと有生ははははとごまかすように笑った。
■有生
弟。忘れがちだが中学生。
■母
専業主婦
■父
行方不明。売れない小説家らしい「蝋梅の花」という小説がある。
■志乃
やっと近づく。
今回はわすれていたであろうT@CHがでてきましたー。
ここからしばらくは父親回。
注意
9月の3連休が終わるまで更新のスピードは低下しますね。すみません。




