心くばる人達 1
翌日、学校に行くと少し視線を感じた。ひそりひそりと交わされる会話が耳に入る。
「あの子でしょ」
「そうみたい、見た人がいたって」
「部活生が結構見てたらしいから間違いないんじゃない?」
「なに考えてるんだろうね」
「ほら空気読まなそうだし」
「あたしなら無理!」
広がる声になんのことをいっているのだろう、と首をかしげたくなる。今更、高校生に陰でこそこそいわれることにいちいち傷つくことはないが、噂のためだけに観察されるねっとりとした視線には嫌気がさしそうだった。地獄耳という言葉があるが、人は嫌なことを話すときは音が低くなるらしい。広がる声の多くが低い声のものでどこにいてもどこの時代でも変わらないものだなと息をついた。
足をとめて噂をしている人たちに視線を向けると気まずそうにそそくさと行くのがみえる。
なんだこれ? と疑問はもちながら、実害がないため深くは考えない。
むしろこんなことを考えるよりも別に考えないといけないことはあるのだ。戻ってきてしまった意味とか、鈴ちゃんの相手のこととか。他にもいろいろ。
ぼんやりといつものように考えながら歩いていく教室までの道のりが、なんだか今までと違ったものに見えたのは、きっと今まで、私がここで流れる時間は平和そのものだと考えていたからだ。
でも気が付いてしまった。
ここには悪意が流れていた。
小さな生活環境だけれども、私たちは年間のうちのほとんどを学校に来ている。
1日のうちの半分以上の時間をここで費やしている。それは小さな社会の構図で、弱肉強食を描いているようにも見える。誰かと一緒にいなければならない。誰と仲良くしてはいけない。発言に気をつけないといけない。きっと愛にとってだけでなくそういうのが苦手な人にとっては学校はいつも戦争なのだろう。
「おはよー」
クラスに入るといつもよりも多い視線を感じる。一瞬静まった教室はすぐにそんなことなんてなかったかのようにざわついた。
部活の朝練か、私よりもいつもはやく来る佐奈を探す。同じくらいに来る優菜と私より遅い時間に来る麻里が今日はもうそろっている。来るのが遅かったかと時計を見てみるが、特段遅れているわけでもない。いつもどおりの時間だ。
「おはよー」
鞄をおいて近寄ると困惑した空気を感じた。
「なに? どうかした?」
困惑したまま口を開こうとした佐奈を麻里が遮る。
「ううん、なんでもない」
少しだけ棘を感じる言い方に不思議に思いながらも、何かイライラすることがあったのかと自己納得した。
全然お話が進まない不思議。




