心くばる人達 2
「あ。いたいた、なつめー」
少しだけ眠そうな声で呼ばれて顔を上げる。来い来いと手招きしている男は桐谷だ。
佐奈たちにちょっと行ってくるね、というとやっぱり少しだけ反応がいつもと違った。
「はよ、桐谷」
「はよー」
「眠そうだね」
「はは、まぁな」
「で?」
「ん?」
要件を聞くために首をかしげる。数名が出入り口を通る様を見て桐谷を連れて廊下の窓側に寄る。少しだけ着崩した制服から焼けた肌がみえる。桐谷はその整った顔をゆがめるわけでもなく首をかしげた。
「なに?」
「お前、久しぶりに会話するやつに対する態度かよ」
「この間会ったじゃない」
「いや、でもさぁ」
口ごもる桐谷はしゅんと落ち込んでいく。
その様子に視線を感じる。桐谷に好意をもっているであろう女子生徒たちだ。
桐谷篤という男は、端的にいうと厄介な男だ。
麻里一押しのイケメンであり、その気安く嫌味のない性格に男女ともに人気があった。
もちろん、本人は鈍い、なんてことはない。
それをわかっていて行動していることのほうが多い。人を利用するのがうまいやつだ。
わたしは幼いころから知っているというだけで桐谷との付き合いはなんだかんだ長い。
「桐谷が来ると無駄に視線が集まるじゃない」
「悪いな」
廊下に背を向けて窓側に顔を向けて2人並ぶと今までの顔を一変させた。
「悪いと思っていないくせに」
「思ってるよ。ほんの数ミクロンな」
「それは思っていないのと同義です」
断言すると桐谷はブハッと笑った。ひとしきり笑った桐谷を見てもう一度問う。
「で? そんな人気者の桐谷がわざわざ端っこの教室までくるなんて大層な用事があるんじゃなくて?」
「おーおー。あるぞ」
クツクツと含み笑いをしながら肯定した桐谷は急に真顔になる。
「なに?」
「お前大丈夫か?」
「はぁ?」
いきなり心配したかのようなことを言い出した桐谷に疑わしげな視線をむける。
「悪い悪い、なんかいろいろ聞いたからさ」
「なんかってなに?」
その言葉には答えずに桐谷はうんうんと何度か頷いてみせる。
「うん。やっぱり、お前、いいな」
「だから何が! さっきから全然わかんないよ」
「いや、ほら。藤吉と仲良くなったんだろ?」
「藤吉って愛?」
なんで愛? というと桐谷は同じクラスなんだよと口調を荒げる。
「あぁ。そっか。クラス委員だったね」
「まぁな。夏目のように凡人ではないな」
「知ってる?クラス委員ってクラスの雑用係よ。桐谷、つまりは、雑用くん」
「あ?」
すごむ桐谷に肩をすくめる。
「で?愛がどうしたの?」
「ほら、藤吉、友達いないから」
「桐谷、あんた誰でもかれでも友達いないとか本人に言ってんじゃないでしょうね?」
「いってねぇよ!」
「ならいいけど」
「とんだ風評被害だな」
「事実だ」
「お前の場合、一緒に休日を過ごす友達がいないのは事実だろ?」
「別にいないわけじゃないから」
「え、いたの? だれ?」
「……今からできる」
答えられず口調が小さくなる。その返事がわかっていたのかにやにやと笑う桐谷の足を軽く踏むといってぇと騒がしい声になった。




