無知なる景色 2
7/9二話目。
下駄箱まで歩くと帰ったはずの愛がびくびくしながらおろおろしているのが見えた。どうしよ、と小さく呟いているのが聞こえる。
一度通り過ぎ、自分の靴を履き替えてみるものの、どうしよという小さな呟きになかなか足が進まない。
あぁ、もう。と頭をくしゃりと掻いた。
履き替えていた靴を室内靴に再度履き替える。直していた室内靴を出してすのこの上に置いた時ガタンと思いの外大きな音がなった。
その音の大きさにか、ほっとけない私自身にか、うじうじとしている愛にか、それとも他のなにかに対するものなのか、わたしにはわからないまま溜息をひそかに落すと愛に近づいた。
「愛さん」
「すみません!」
反射のように謝る愛に自然と顔が険しくなる。
謝って反応をうかがうようにちらりと顔を動かした愛と目が合う。
「あ」
「どうも。この間ぶり」
同い年ということもあり、もう敬語じゃなくていいか、と開き直り、言葉を探す。声をかけたはいいが、別にわたしは愛と話すようなことは持ち合わせていなかった。
「夏目さん」
気まずそうに顔をそらす彼女を見て首をかしげる。
「何、してるの?帰らないの?」
「あ、あはは」
両手をすり合わせながら乾いた声を上げる。背中には藤吉と書かれた下駄箱がある。失礼だと思いながらそれを覗き見る。
「履けたもんじゃないね」
においのする水でぐしょぬれになっているその靴をみてそういうと愛は顔をゆがめてうつむかせてしまう。
また、間違えた。この間から、私が彼女とちゃんと話をしようと思っているのに怖がらせてしまっているみたいだ。それもあってわたしには彼女と話せる話題がないかと思考してみるものの、そんなものはなくかえって悩んでしまう。
「待ってて」
別に話さなくてもいいかと思い、そういうと背を向けた。わたしの靴箱に向い、ローファーをとる。二段になっている靴箱に、いつもローファーを置いていたのはわたしが佐奈たちと同じことに拘っていたからだ。そんなわたしが情けなく思いながら、ローファーをもったまま愛のもとに行く。
「愛さん、サイズは?」
「23センチ」
「私23.5だけど。まぁ、ちょっと大きいだけかも。はい」
ローファーを差し出すとえぇ! と声をあげられる。
「なに?」
「夏目さんのはく、くつは」
「あぁ。私普段ローファーおいてるんだよね。たまに寄り道するときに履いていくくらい」
押し付けるように無理に持たせるとその大きな目を余計に大きくさせた。
くりくりの目はこぼれそうなほどに開かれていて、あぁ、これはモテるわけだ、と納得する。
群をぬいてかわいい容姿はよくも悪くも注目を浴びて、同性からの妬みを買いやすそうだ。事実、今の嫌がらせは妬みなのだろう。
「ありがとう」
かすれた声と潤んだ涙に戸惑う。そこまで感激されるとは思っていなかったのだ。
「……別に。あぁ、もうほらはやく履いて。帰るよ」
「え」
「なに? 帰らないの?」
「か、帰る!」
愛はあわててローファーを履く。わたしは運動靴を履きかえてふと考えた。
こんなことするなんてわたしらしくないな、と思いながら反面、してよかったとも思っている。
なぜかすごくほっとけない気持ちがうまれたのだ。なにかがくすぶっていて、今ほっとくと後悔するぞ、と言われている気がした。
全然話進まないし、日曜だからゾンビ書こうと思っていたのにそんな気力がわたしにはなかった。休日がほしい。




