日曜日の誕生日 7
人の波を景色と同色に見ていたときに違った色が目に入った。
「あ」
見ていた人の流れをもう一度見返してしまう。
思わずあがった声に自分でも自制がきかない。
見返しながら踵を返して引き返す。
足早に動かすもなかなか前に進まない。なんで。どうして。募っていくのは焦燥感ばかりだ。
あの人だ。
絶対にあの人だ。
流れていく見かけた人ごみの中にあの人を見つけた。少し癖のある髪がゆれていた。
見間違えるわけがない。
生きている。あの人が、生きている。
車道をはさんで向こう側に行くために信号機に駆け寄る。赤がやたらと長く感じながら青になった瞬間に進む。
「ちょっ……あの……」
まって。
その言葉は出なかった。
その人は見たことのないほどの柔らかな笑みを浮かべて電話をしていた。
私の知っているあの人じゃない。少なくとも、私の知っているあの人は、あんな顔をしない。それは、ただ私が知らなかっただけなのか、それとも時間があの人をそうさせたのかわからないが、動かしていた足は徐々に動かなくなる。
伸ばした腕は重力とともにおちた。
「まだ、知り合って、ない、か」
わかっていたことだった。それでも求めてしまった自分に反吐がでそうになるほど情けなさがこみあげていた。
……あんな顔私は知らない。




