日曜日の誕生日 6
「夏目じゃん」
聞きなれた声に、反射的に顔を上げた。記憶よりもずいぶんと若いその男に、すっと息をひそめた。
「桐谷」
「なに、お前一人なの?」
「まぁ、ちょっと」
「あー、あれだろ。休日に一緒に過ごす友人もいないんだろ。はやくいい加減そういう友達作れよ。引きこもり」
「余計なお世話って言葉を知ってる?」
「もちろん! 当たり前だろ」
顔が引きつりそうになりながらその男、桐谷篤をみるとその顔には見慣れた笑みが浮かんでいた。
「にしても久しぶりだなぁ」
「そうだね。ちゃんと話すのは……いつぶりだった?」
「お前とは全然クラス授業一緒にならないからなぁ。元気にしてたか?」
「元気元気ー」
「まぁ体調悪かったら外いないだろうけどな」
「そういうこと。桐谷は何してるの?」
「あー。俺はクラスの奴らとちょっと」
「いいの?」
「いいんじゃね?」
中学のクラスメイトだった桐谷は数か月ぶりの会話だと感じさせないほど自然にテンポよく話をする。桐谷のクラスと私のクラスは離れていて合同授業もない。私もその久しぶりの会話をしながら通りの人の流れをテレビかなにかをみているようにぼーっと見ていた。桐谷の友人らしい人が桐谷の名前を呼びながら近づいてくる。
「桐谷」
「ん?」
「呼んでるよ」
「そろそろ行かねぇとな」
いたずらっ子のように目を細めて笑う姿にいろんな思いが交錯して鼻の奥がツーンとしてしまった。
それに気づかれないように笑みを浮かべると、はやく行かないと、と口にする。
「おー、またな」
「またね」
特に名残惜しくもなくそういう桐谷の様子は前から変わっていない。変化していないことにどうしようもない安堵を感じた。
「な、誰?」
「中学の同級生だよ」
「へぇー、どっかで見かけたんだよなぁ」
「高校同じだからじゃね?あいつ5組だし」
「5組かー。そら見かけるくらいだな」
「端だもんな、5組」
「そーそー!一番階段から遠い!」
「俺らは近くてよかったじゃん」
「にしてもわざわざ桐谷が話に行くなんて女子が聞いたら騒ぎそうだな」
「あいつは別にそんなんじゃねぇよ」
「本当か?」
「あいつとだけは世界が滅亡してもありえない」
「そこまでいう?」
「そのくらいありえねぇってことだよ」
徐々に遠くなっていく桐谷とその友人の会話が聞こえる。
「こっちこそ。世界が変わったってありえないよ」
ぼそりと呟いた。当たり前だが、誰も気にも止めない。さて、私も帰ろう。と視線を歩く人たちに向けた。




