世界の終焉
呼吸ができない。
いたい。
あつい。
くるしい。
誰か、誰でもいい。
この苦しさから助けてくれ。
視界に映るのは黒い闇ばかりだった。かさりかさりとなにかがこすれる音も、耳にはとまらない。
徐々に意識を保つこともあやしい。最後のメールの送信ボタンは押せただろうか、と考えてスマートフォンのサイドの電源ボタンを押すが画面に明りは点らない。壊れたか、と思うとそれもそれでいいとなんだか可笑しくなる。私がしてきたことを無駄にするようなことを他の誰でもない私がしているのだ。
ははっと出た声はかすれて聞こえた。ここまでか、と思うと虚しさと情けなさが溢れる。
『人間はな、脳幹を狙えば一撃だ』
いつか聞いた言葉は、やっと今になって役割を果たすようだった。当時はそんな物騒な、と思っていたが今となれば聞いていてよかったと思えた。思えば、無駄だと思って過ごしてきたうちのどれくらいが本当に無駄だったのだろう、と答えのないことを考える。
手足に感じるのは夜風の冷たさか、指先を温めようにも思うように動かない。
どれだけの命をこの手は奪ったのだろう。どれだけの命をこの手は守れたのだろう。そんなことを今考えてもきりがない。
『迷ったときはあたりを見渡せ。絶対に光がある。いいか、絶対になにがあっても――――』
そう強く言っていた言葉がリフレインする。くすんだ色の銃をもつ手は少し震えていた。スマートフォンに向けて撃った音は乾いて聞こえた。誰の血か、べったりと掌についたそれは思考を鈍くする。
守りたい人がいた。
守れない人がいた。
縋って縋って繋がりを切ることは遂にできなかった。
『――さんは、生まれ変わったらどうなりたいですか?』
『お前は?』
『私はうーん……、木になりたいですね』
『お前は――が似合うよ』
『――さんは?』
『俺は……』
あぁ、そういえば、あの人はなんといっていたのだろう。あの人は何を思っていたのだろうか。幸せになるべき人だと思ったのはあの人が死んでからで、追うように死ぬなんてどこのチープな物語だろうと笑ってしまう。バッドエンドの向こう側にはなにもないというのに、なんとも下手な人生記だろう。
……できれば、生まれ変わったら今度こそ、幸せな笑顔をあの人が浮かべられたらいいのに。思い浮かべたあの人の笑顔はどう考えてもゆがんていて、幸せそうな顔は想像がつかなかった。
「さようなら、世界」
頭に当てた銃はもう震えていなかった。最後に見えたのは羽を広げて飛び立つミミズクの姿だった。




