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第2話 炬燵と蜜柑とリヴェル

第2話 炬燵と蜜柑とリヴェル


 あまりの忙しさに基地司令官が逃亡して地球時間で1ヶ月。

 ようやく明日にはこの激務から開放される喜びでリヴェル司令官代行は机に突っ伏した。


「終わったー! これでもう書類とのにらめっこは終わりです! こういう時はご褒美に蜜柑ですよねー」


 そう一人ごちていると、机の上に山積みされている、黄色い果実を手にとる。


 (お前はいつでも蜜柑食ってるだろうが!)

 

と思ったが、それは言わないでおく。


 彼女が使っている机は非常に変わった形状をしていた。

 まず、椅子がない。

 彼女は椅子がない変わりに分厚い四角形のクッションを、床に敷かれたカーペットの上に起き、そこへ座っていた。

 つまりそう座らないとこの机に就く事ができないのである。なぜなら、この机の脚が極端に短いから。

 そしてなによりも特筆すべきは、天板と脚の間から分厚い布団が四方に飛び出ている事である。

 リヴェルはその布団をひざ掛けのようにして座っていた。

 この机、じつは旧世紀の骨董品であり、とある島国で使用されていた暖房器具で、名前を炬燵と言った。

 アロウ家に代々伝わる骨董品で、机につきながら暖に付けるという数百年前の道具である。

 空調温度管理がまだ脆弱であったであろう、旧世紀の時代には、画期的な暖房器具であったに違いない。


 そんな骨董品の上に山積みされてる果実はやはり同じ旧世紀の島国に伝わる果実で蜜柑というらしい。

 現存する果実ではオレンジに近いがオレンジより皮が薄く手で簡単に剥く事ができる。

 この果実は基地の空き地にリヴェルが勝手に温室をつくり、自分で育てたものだ。

 人の腰ほどの樹木であるがオレンジより小振りで手のひらに収まるくらいの黄色い果実をたくさん付けていた。

 リヴェル曰く炬燵と蜜柑はセットで無くてはならず、代々炬燵を引き継ぐ際には蜜柑の苗木も引き継ぐ事になっているそうだ。

 つくづく可笑しな家系であると思う。

 確かに炬燵と蜜柑の組み合わせは反則的なまでの居心地の良さではあったが…。


 満面の笑みであっという間に蜜柑を1つ平らげたリヴェルは2つ目に手を伸ばそうとする。

 おそらく、声をかけなければ延々気が付かないであろうリヴェルに軽くため息をつきつつ、ウィルは扉をノックした。


「美味そうに蜜柑を頬張ってる所悪いが、そんな呑気にしていいのか?」


「ふぁ、ふぃるふぁんおふふぁふぇ…さまです。」


「半分何言ってるか分かんねーよ。いや、分かったげとさ。って、そんな事はどうでもいい。速いとこゲートまで行った方がよくないか?」


リヴェルは頭の上に大量の疑問符を浮かべていた。


「何かありましたっけ? 今日、入場船は無かったハズですが…というか明日の新司令官到着の為に空けておいたと思ったんですけど…」


「何言ってるんだ? その新司令様が来るの今日だぞ? ってか、もう着いてるが…」


「え? うそ!? だってまだ12時間以上の余裕が…」


リヴェルはそう言って手元の時計に目を落とす。

 ディスプレイには今日が地球基準で12月1日午前10時であることを示していた。

 ちなみにその時刻は、新任の司令官が着任の為、基地に到着する予定の時刻と同じである。


「どれだけ残業してたかは知らんが、新司令官がお待ちかねだぞ?」


 どうやら、目の前の大量の書類の山の片付けに没頭していたのに違いない。

 

「あー、もう! 初日からやらかしてしまうとか! うー、心象最悪ですぅー」


「愚痴は後でたっぷり聞いてやるから、さっさと行ってこい。」


「( ゜д゜)ハッ! そうでした! では行って参ります!」


 リヴェルはシュバッ! と音でも出そうな勢いで敬礼をして、全速力でゲートに向かって部屋をあとにした。

 ウィルはそれをヒラヒラと手を振りながら見送る。


(本当に元気だねぇ…。)


 部屋に残されたウィルは机の上の大量の書類に目を移す。

 キッチリと各部署ごとに分けられた書類はリヴェル生真面目な性格を十分に表していた。

 こんなのは後任の司令官に任せておけば良いのにとリヴェルに言ったのだが、


「ここの書類が片付かないと皆さんの仕事が滞ってしまいますし…。それにこんな私でも今は司令官代行ですから」


そうはにかみながら笑うのであった。


 そんな笑顔を思いながら、ウィルは炬燵に山積みされた蜜柑を手に取る。

 ペリペリと手早く皮を剥いてその実の半分を口に放り込んだ。


(あまっ!? うまっ!? )


 久々に食べる蜜柑の味に顔がほころんでいたウィルであったが、駆け足で部屋に近づく足音にきがついた。

 息を切らして部屋に入ってきたのはゲートに向かって走っていったリヴェルであった。

 

「ハァ…ハァ…。言うの忘れてました。」


「ど、どうした?」


「ウィルさん、司令官の到着、教えてくれてありがとうございました。」


 そう満面の笑みで頭を下げてお礼をいうとリヴェルはまた全速力でゲートへ走っていった。


 残されたウィルはさらに顔をほころばせながら、蜜柑を口に運ぶのだった。


まさかの1年以上空けての更新。


完結まで続けれたらいいなぁ

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