第1話 地球連合軍第7宇宙艦船試験基地
第1話 地球連合軍第7宇宙艦船試験基地
火星圏と地球圏の最端のやや地球寄り、つまり火星と地球のほぼ中間地点にここ地球連合軍第7宇宙艦船試験基地はある。
その名の通り、新造された宇宙船の性能試験を行う場所であり、連合軍で採用する艦船はもちろんの事、大型の惑星間航行用の民間船などの性能試験も請け負っている。
なぜ軍施設で民間船の性能試験など・・・と思うかもしれないが、それは偏に軍の懐事情に起因する。端的に言えば金がないのである。
人類が地球を離れ、新天地を求めて他の惑星に移住して約1世紀、半世紀ほど前に大規模な惑星間戦争を起したものの、それ以降惑星間での戦争は起きていない。
惑星間の隔たりこそ解消出来ていないものの、対立関係は確実に解消されつつある。そのような中で軍隊が活躍出来る場というのも確実に減ってきたのである。
どの惑星も声高らかに軍縮を宣言し、それは先の大戦のキッカケを作った地球連合軍においても例外では無かった。軍に割当られる予算は年々減少し、実用性や効率性に乏しい施設は尽く閉鎖されていった。
地球圏から最も遠いこの基地においては真っ先にその対象に上がったが、それを回避する為の策がこの民間船の性能試験の受注である。
事の発端はの基地に所属しているベテランの整備長だ。どこからともなく基地が閉鎖される事を聞きつけた整備長は基地司令官に直談判。
12時間ほどかけて基地司令官は説得出来たものの、軍本部に基地閉鎖を撤回させることは一整備長に出来るはずもない。そこでベテラン整備長はこう提案する。
― 基地の維持費は全てこの基地で賄えばいい -
地球圏の最果てにある試験基地に年間通しての作業などある筈も無く、その稼働率は良い時で3割程度である。
その余剰時間を民間船の試験性能に当てる事により、予算の確保はもちろんの事、基地施設の稼働率上昇、余剰収入は軍本部と基地での折半にする事で本部には新たな収入源が産まれ、現場作業員には臨時収入が入ると、一石四鳥にも五鳥にもなる提案であった。
だが、一基地の独立採算制など軍本部が認める筈が無いと高を括り、本部からの叱責を恐れて、かつ仕事が増えるのも避けたかった(どちらかと言えばこちらの理由の方が大きい)基地司令官は上申を躊躇って、さらに12時間ほどかけて整備長に説得され渋々と上申したのだが、本人の思惑とは裏腹にこれがあっさりと認められてしまったのだった。
それほど軍の懐事情は芳しくなかったらしい。
そしてこの提案は基地司令官はもとよりこの提案を試算したベテラン整備長の思惑以上のものとなる。
結果から言えば成功であるが、その成果が並のものでは無かったのだ。
ベテラン整備長が本部に報告した試算内容は、正直な話かなりの水増しをしていた。
ベテラン整備長自身、地球と火星の中間地点にあり、どこから来ても僻地というこの基地で、経費にシビアな民間企業からの発注など、そうそうある訳がない。
稼働率も1割くらい上がれば良いと考えていた整備長であったが、報告書には今の倍の稼働率を記載していた。
基地の維持費くらい、自分達で賄えると大見得を切った手前、カツカツでは格好が付かない為の水増しであったが、それは良い方向で裏切られる事になる。
現在の民間船舶市場は熾烈を極めていた。
大小様々な企業が起業し、より高性能の船舶を開発する為、新技術を搭載し、人気となる船舶は直ぐに模倣され技術の奪い合いとなっているのだ。
もちろん企業側も技術の秘匿には注力しているが、特に大型船舶の場合、企業のもつ性能試験場は限られる為、開発・試験中の船舶が既に模倣されるという事も少なくない。
その様な中で、ここ第7宇宙艦船試験基地が民間船舶の性能試験を受注するという話は業界内で瞬く間に広がった。
初めは軍が可笑しな場所で可笑しな事をやり始めたと嘲笑の的であったが、とある企業がここを利用した事により事情は一変した。
― ルナティック・インダストリー -
月に拠点を置き、主に地球圏内の衛星型コロニーの建造・修復作業を行う企業であり、その建設作業重機の製造メーカー最大手でもある。
そんな企業が何故、軍の艦船試験場など利用するのか?その答えは建設作業重機の運搬にある。
コロニーの建造には大量の建設作業重機を必要とするが、その建設作業重機の運搬をルナティック・インダストリーはほぼすべてを運送業者に委託していた。
その理由は先代社長の強い意向に起因する。
端的に言えば餅は餅屋、運搬には運搬業者、その道のプロに任せるのが道理ということである。
建設作業重機はその用途によって形状や大きさは様々だ。
大型船舶を超えるような物もあれば小型のバイクほどの大きさしかないものもある。
それを梱包し、運搬するには建設業者である自分達で行うよりも、専門の業者に任せるという選択は最も効率的であった。
先代社長の目が届く範囲であれば。
事業規模が拡大するにつれて、運搬を任せる事業者も必然的に増えていき、現在では建設作業重機専門の運搬業者すらある。
それだけ建設作業重機の運搬というのは美味しい仕事なのである。
衛星型コロニーの発注元はその基幹惑星である。
つまり惑星だ。
惑星が発注する事業、つまり公共事業を請け負う場合、普通その業者側は割引などしない。
コロニーの建設などという特殊な事業であれば尚更である。
つまり、その費用は言い値である。もちろんそれが適正な価格であるかの調査は行われるがザルであることに変わりはない。
そして、当然ながらコロニーの建設費用には建設作業重機の運搬費用も含まれる。
問題なのはその費用がコロニー建設費の約2割も占めることである。
惑星発注の事業を良いことにかなり高額な運搬費を請求する業者も少なくない。先代の社長はプロの判断との理由でその高額な運搬費用にも目をつぶっていたが、それを問題視したのが現社長である。
先代社長の息子でまだ30にも満たない若さではあるが、その大胆な行動力とどんな目上に対しても怖気ず従えさせる統率力、そして何よりも、その人柄で求心力を得て今の地位に就いた若社長である。
彼は常々コロニーの高額な運搬費をより良い材料費や機能に回せないかと考えていた。
そしてついにそれを実行できる現役職についたのが今から半年前のことである。
そこからの彼の行動は早かった。
各部門の長と優秀な技師を各1名ずつ招集して、現状の建設作業重機のより良い梱包方法や運搬方法について意見を集めた。
そして、その意見を元に建設作業重機専用運搬船を設計していった。
彼の考えた運搬専用船はとてもシンプルでユニークなものであったがその概要は次の機会に行うことにしよう。
建設作業重機専用運搬船の建造は非常に順調であった。
そして順調過ぎるあまりある問題にぶち当たった。
運搬船の性能試験を行う場所が決まっていなかったのである。
この運搬船についての情報は、可能な限り秘匿していた。
当然ながら運搬業者にこの運搬船が模倣されることを避けるためである。
この運搬船を模倣されれば、せっかく体よく運搬業者を切る為の口実がなくなってしまう。その事態だけは避けたかったのだ。
当初、この運搬船の試験は火星圏での試験場を使う予定であった。
仮に試験場で運搬船の性能が漏れたとしても、それを地球圏に持ち帰るには惑星間条約の検疫がかかり、こちらが秘匿情報に指定すれば情報の持ち出しに時間がかかるからである。
それを見越してでの火星圏での性能試験であった訳だが、工期が順調に進み過ぎて、性能試験場を確保する前に運搬船が完成してしまったのである。
さらにタイミングの悪いことに予定していた試験場は他の船舶の性能試験で埋まっており、運搬船の試験を行うには半年待ちということになってしまった。
流石に半年も倉庫に運搬船を保管しておく訳にもいかず、そのような中で軍が民間船の性能試験を行うということが分かったのだ。
軍の性能試験場であれば、そこは当然軍の敷地内であり、一般人の立ち入りは制限され、情報が洩れるような事はないだろう。
ルナティック・インダストリーにとっては、まさに渡りに舟であった。
そのような経緯があって、たまたま軍の試験基地解禁第一号を飾ったのがルナティック・インダストリーであり、軍施設の特性の1つである秘匿性が遺憾なく発揮され、ここ地球連合軍第7宇宙艦船試験基地は当初の思惑どおり・・・かどうかは分からないが順調に稼働率を伸ばしていった。
そして、その「順調」はとっくに過ぎ、多忙を極めた1年が終わろうとした矢先に事件は起きた。
第7宇宙艦船試験基地の司令官があまりの多忙さに疲れ切り逃亡したのである。
辺境の試験基地は元々退役間近の高官将校が羽を伸ばすためのお気楽職場である。
この司令官もそのつもりでやってきたのに蓋を開けてみれば稼働率は200%を超え、軍の試験場でも最上位の多忙さを極める職場となってしまったもである。
話が違う、やってられっかと地球本部に泣きついて逃げ帰ってしまった。
そしてその逃亡した司令官の代わりに急きょ抜擢された新任司令官が着任したところでこの物語はようやく始まる。
初投稿となります。
読みにくい点、言葉尻等、いろいろご指摘があるかと思いますがよろしくお願いいたします。
さて1話、まさかの主人公もヒロインも登場しないで終わってしましました。
次からちゃんと出てくる予定です。




