表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢と悪役令息、地獄行きのディストピア  作者: 猫塚ルイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/50

第30話

「……は?」


思わず呆気に取られて、私は顔を上げた。


この底なしの絶望の中、彼女が投げ込んできたのが


こんなにも能天気で、突拍子もない解決策だとは思わなかった。


「だって! アルベルトさんがどこのスラム出身なのか分かれば、何か見つかるんじゃないですか? 記憶のかけらとか! 昔のご家族とか!」


興奮気味に両手を広げる彼女を、アルベルトは冷めた目で見つめ、即座に否定した。


「見つかるわけないでしょう。そんな、簡単に」


至極真っ当な理屈だ。記憶もなく、名前すら奪われ


ただ「スラム」という漠然とした情報の海から、二十年近く前の痕跡を探し出すなど。


「故郷、帰ってみたくありません?」


ダイキリはさらに身を乗り出し、横に座るアルベルトを真っ直ぐに見つめた。


彼は突然の提案に対し、処理落ちした機械のようにわずかに首を傾けた。


いつも通りの動作のはずなのに、ほんの一瞬


その瞳が微かな期待か、あるいは恐怖で揺らいだ気がした。


「故郷、ですか」


呟くような低い声。


そこに明確な感情は読み取れないが、少なくとも


これまでの彼なら即答したであろう「無意味です」という拒絶はなかった。


「……無駄足になったらどうするおつもりです?」


「そのときはそのとき、善は急げです!早速明日出発しましょうよ!」


「ちょっと、決断が早すぎるわよ。それにスラムなんて行ったことないし、アルベルトの家が具体的にどこにあるのかだって……」


「それなら大丈夫です! 私、スラム行ったことありますし! 案内できますよ!」


「え、本当ですか……?」


アルベルトの問いに、ダイキリは元気よく胸を張って頷いた。


「はい! お母様とお父様が、前にスラムで暮らしてたことがあって、そこから故郷を探したことがあるんです! だから、少しは役に立てますよ!」


「……え、お父さんって……私の、あの父のこと?」


「はい! だから、私に任せて欲しいです!」


「ダイキリ……」


その言葉に、私は一瞬、胸が詰まるような思いがした。


彼女もまた、父の複雑な事情の中に組み込まれた犠牲者なのだ。


「……まあ、スラムということしか、手がかりがありませんしね」


現状、私たちの手元にあるヒントは尽きかけていた。


テープの解析も、資料の読み込みも、もはや限界だ。


ならば本人をその場に連れていき、五感──


匂い、空気、音──


その全てを使って強制的に記憶の深層を刺激するのは、案外、筋の通った作戦なのかもしれない。


特にアルベルトの場合、記憶は「消えた」のではなく、養父の手によって「塗り潰され、眠らされている」だけなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ