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悪役令嬢と悪役令息、地獄行きのディストピア  作者: 猫塚ルイ


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第14話

それは何年も前の、彼らがまだこの世で権力を謳歌していた頃の生前の記録。


『……期待以上だ、ローゼンタール。スラムから拾ってきた名もなき孤児だったが、痛覚を去勢し、記憶を上書きすれば「嫡子」としてこれ以上ない出来栄えになった。今や鏡を見ても、自分がかつて誰だったかさえ思い出せん。完璧に改造された「最高傑作」の兵器だ』


先代公爵が、愉悦に満ちた声で笑う。


その残酷な笑みは、画面越しでもこちらの肌を粟立たせる。


その隣で、私の父は冷酷な笑みを浮かべ、琥珀色の液体が揺れるグラスを傾けていた。


『名もなきゴミが、公爵家の主か。面白い。愛などという不確かなものを捨て、ただの「機能」として生きる。お前が創り上げたその怪物は、我が娘エカテリーナの毒とどちらが鋭いかな』


「……あ……」


背後で、かすかな、けれど今まで聞いたこともないような深い喘ぎが漏れた。


振り返ると、アルベルトの顔色は、青を通り越して病的なまでに真っ白に染まっていた。


漆黒の瞳が異常なほど大きく見開かれ、焦点が合わずに宙を彷徨っている。


「アルベルト……?」


「……私、私は……」


彼は言葉にならない呻きを漏らし、突然、頭を抱えてその場に崩れ落ちた。


鋼のように強靭だったはずの指が、自分の頭蓋を砕かんばかりの力で食い込んでいる。


浮き出た血管が、彼の内側で暴れる嵐を物語っていた。


「、ア、アアア……ッ!!」


獣のような悲鳴が図書室に響き渡る。


彼の脳内で、封じ込められていたナニカが激しく衝突し、凄まじい拒絶反応を起こしているのが分かった。


どろりとした負のオーラと根源的な恐怖を溢れさせている。


「アルベルト! 待って、今止めるから……!」


私は慌ててテレビの電源を叩き切り、床にしゃがみこんで激しく震える彼の肩を掴んだ。


あの冷徹で、死体すら事務的に解体していた男が、今はただの、傷ついた子供のように怯え、存在の根底を揺さぶられて苦しんでいる。


「アルベルト! ど、どうしたのよ……!? しっかりして、アルベルト!!」


彼の肩を、壊れるほどの力で激しく揺さぶる。


だが、彼の手は止まらない。


白目を剥き、歯を食いしばり、自らを内側から破壊しようとするほどの激痛にのたうち回る。


その姿を見て、私の胸に走ったのは「合理的」な計算や損得勘定ではなかった。


ただ、この怪物を、この壊れかけた孤独な魂を


今すぐこの手で繋ぎ止めなければならないという、ひどく人間臭い焦燥だった。


私は彼の両頬を強く、痛いほどに挟み込み、狂ったように見開かれた瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。


「アルベルト!!」


だが声は届かない。


彼の眼球の奥深くで火花が散り、意識は完全に歪められた過去の迷宮へと閉じ込められている。


「仕方ないわね……」


そう呟くと同時に、私は彼の首筋めがけて、渾身の掌底を打ち込んだ。

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