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メイド喫茶『とらんす♂』  作者: 呂束 翠


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2/2

メイド喫茶とらんす♂ 2

「あんな店長だけど、お仕事はしっかりするんだよねぇ……変な店長さんでごめんね」

「大丈夫ですよ。ナンパ……バイト勧誘された時もあんな感じでしたし」


 あれは確か今年の二月くらいだったか。街中を一人で歩いていたら店長からナンパみたいなスカウトをされたのである。

 あの時の店長はメイド服を着ておらず、ボーイッシュなお姉さんみたいなパンク系に近い服装をしていて、新手の詐欺か何かと警戒したけれど、店長の必死なプレゼンによって「高校生になってからなら働く」と口約束して今に至る。


「うちの変人がごめんね……勧誘方法はもっと不審者に見えない様にって言っとくから」

「そうですね……次の被害者が出る前に怪しく見えない様にして欲しいですね」


 女装男子からチョークスリーパーを受けて何故だか嬉しそうに苦しんでいる店長を見て二人して呆れ顔を向ける。

 そろそろお仕事のお話してほしいんだけどな……。



「お待たせ~。いやぁ可愛い子の腕に抱かれるのって最高ねっ!」


 乱れた髪を整えて戻ってきた店長。

 しばらくチョークスリーパーを受けていた店長だったけど、流石に話が進まないのでヒカリさんが呆れて止めに入ったのだ。その上でコレを言えるメンタルは最早尊敬に値する。

 不機嫌な顔して腕を組んでカウンターに寄っかかるマオさん。棒付きキャンディを咥えてバリバリと音を鳴らしている。


「チッ、変人が」

「まぁまぁ……いつもの事じゃない」

「いつもコレだからダメなんだろうが」

「それは……本当にそうだね」


 怒り心頭のマオさんを宥めるヒカリさん。

 聞いた話によると、この二人はどうやら同じ大学に通ってるらしい。よく遊びに出掛けては金欠になっていると二人から……と言うかヒカリさんから良く聞かされている。

 特にマオさんの方は金使いが荒いらしく……最初はここのバイトに入るつもりが無かったのに、余りにも酷い遊び方で流石にヒカリさんからお叱り受けて、渋々ここで働いているらしい。


「俺だって出来ればここで働きたくないんだよ。そりゃ給料は良いぜ? でも店長は変人だし、客は妙にネットリしてるしでヤなんだよ」

「でも、他の所じゃ続かないでしょ? そのせいで家賃滞納してるんだし。いつまで私におんぶ抱っこされるつもりなの?」

「それは……まぁ、そうだけど…………」


 ずっと微笑みを携えているのに何故かヒカリさんの笑顔には圧感じるんだよね……。

 歯切れ悪そうに言い訳をしようとするけど徐々に態度が小さくなってくマオさんと圧を掛けるヒカリさんを傍目に、そろそろお仕事を教えて貰おうと店長に話し掛ける。


「店長、今日は何します?」


 現在時刻13時過ぎ。

 キッチンとかに洗った後のお皿がいくつかあったからボクが居ない間にお客さん自体は来てたんだろうけど、今は丁度お客さんが居ないからちょっとした休憩時間みたいになっているみたいだ。

 だからこうやってマオさんが店長の首を絞めたり、堂々と棒付きキャンディを食べてたりしてる。いや、お客さんが来ててもしマオさんはキャンディ食べてるか。


「んーーそうね。丁度お客さんも居ないし、お写真でも撮りましょうか」

「えーと……それってお仕事に関係する奴なんですか?」


 メイド喫茶勤務とは言え、こういう所に来るのはこれで三回目。つまりお仕事でしか来た事が無かったりする。

 だから、こういうお店の仕組みとかを実は全く知らない。

 お仕事中にチェキとか言って写真撮ってるのは見た事あるけど、それはお客さんが居るからやってる事であって、お客さんが居なくても写真を撮って何かするとかあるのだろうか。


「ちゃんとお仕事の範疇よ。本当は一日目でやりたかったんだけど、ムギちゃんって高校生になったばっかりじゃない? だからあんまりハイテンポでやるのも良くないって思ったのよ」

「写真だけなら別に一日目でも良かったんですけど……」

「写真だけならね」


 そう言って店長が自分のスマホを取り出す。

 何度か画面をタッチしたりして、パッとスマホの画面を見せる。

 そこに映っていたのは某有名SNSの画面。アカウント名やプロフィールの文章からこのお店のアカウントだと分かる。


「これに投稿する用の写真を撮るのよ」

「なるほど? 宣伝写真的な?」

「そうそう。あっ、嫌なら断って良いのよ? 一応高校生で学校の人にバレたくないとかもあるだろうし。実際、ウチのメイドさんでも何人かは拒否してる子居るのよ」


 かなり慎重に言葉を重ねる店長。これで多少なりとも揉めた事があるんだろうなぁ。

 ボク自身は別に写真が嫌とか、身バレが怖いとかは無い。ウチの学校はバイトオーケーな所だし、バレた所で面倒事が起きる相手なんて……翔流(かける)はちょっと面倒臭いか。でもその程度だし何も問題無い。

 ただ、気になる所が無いと言う事も無い。


「いや別に嫌とかじゃないんですけど……こういうお店のアカウントがあるって事は、皆さんもお店用のアカウントがあるって事ですよね。それの運営は自分でしなきゃいけないのかなって思って……」

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