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メイド喫茶『とらんす♂』  作者: 呂束 翠


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メイド喫茶とらんす♂ 1

今回はエマ(サブ)さん(@EMAEMANOEMA0205)からイラストを発注させて頂きました。良ければ提供主さんのTwitterの方にも見て頂けると嬉しい限りです。


 それでは、本編へどうぞ

挿絵(By みてみん)

 とある土曜日の昼下がり。

 今日は初めてアルバイトに入って三回目の出勤だ。

 一回目は料理のお勉強。二回目は接客のお勉強。そして今回三回目は何をするか。特に何も聞かされずにお店に向かっていたのだった。


 想定よりも混雑がなく余裕タップリ過ぎる位に早く博多に到着する。別に急ぐ必要も無いので片耳にイヤホンを付けて流行りの曲を聴きながらノホホンと歩いて向かう。

 ちょっと前まで中学校の卒業式とか高校の入学式があったのに、今はもう4月の後半だ。

 いくらか課題は出ているけれど、それは親友の信世(しんや)に教えて貰いながらやれば良いやと能天気に考えてほとんど手を付けていない。

 中身はチラッと見て簡単な内容だと把握はしといたから、課題を解くのにそんなに時間は掛からない筈。もし分かんなくても明日信世(しんや)と一緒にやれば良いや。


 こうしてどーでも良い事を考えながら、大通りから少し離れた所まで歩いて行ってようやくお店の前に到着する。

 店名は『とらんす♂』。お店の前にはスタンド看板が出されており、そこには可愛らしい装飾も加えられながら店名やメニュー、お店の概要や本日のイベント等が書かれている。

 ボクが入って直ぐの頃はイースターイベントに合わせて店員のほぼ全員がウサ耳やぼんぼんみたいなウサギ尻尾を付けてたりしていたけれど、ここから6月まで特にこれといったイベントが無いので、スタンド看板にある『イベント』の項目にはインパクトのある内容は書かれていない。


「よっし……今日も頑張ろうっ!」


 店の前で気合を入れ直して、サッと扉を開ける。


「いらっしゃいませ~……あっ、ムギちゃんじゃない。」


 入店してすぐに店長が反応する。

 偶然お客さんが誰も居ない時間だったみたいで、先輩のヒカリさんとマオさんが店の奥で仲良さそうに二人で駄弁っていた。


「ムギムギおはよう」


 パステルピンクを基調でフリル多めのメイド服を着た先輩が優しい声色で話しかけてくれる。

 こちらの何処かの名家のお嬢様みたいな雰囲気を漂わせている甘やかしてくれそうな先輩が「ヒカリ」さんだ。

 可愛い物が好きらしく、私物のバッグや携帯には何処かで見た事あるアニメのマスコットキャラのグッズがぶら下がっている。


「おはようムギ君。今日も早いね」


 黒と白の近年よく見るド定番なメイド服を着た先輩が、ロリポップを咥えたまま遠くで挨拶してくれる。

 ウルフカットで中性的な顔立ちで、言動も気が強そうなイメージがあるこちらの先輩が「マオ」さんだ。

 見た目通り声は女性にしてはかなり低くて、しっかり声を作っている店長やヒカリさんと比べてほぼ素の自分を出して働いている人。ここのお店のお客さんは殆ど男性なのだけど、意外とこういう系が好きな人が多いらしく、根強いファンが多いそうだ。

 あと、マゾなファンも多いらしい。


「おはようございます。今日も先輩達なんですね」


 ボクよりも圧倒的に身長が高い二人を見上げて挨拶を返す。

 少し大袈裟に言ったけど二人が特別高身長という訳ではない。ボクが小さいだけである。

 中学から一向に伸びずに最早成長が止まったのではないかと疑ってしまう低身長。身長順にならべば確実に先頭に並ぶ低さ。背伸びをしても信世(しんや)との身長差は一切埋まらない。聞いて驚け中学生だとしても低いこの身長を。

 ヒカリさんの身長が165センチ。マオさんも大体それくらい。比べて小さいボクはなんと150センチ!

 いや別にコンプレックスがある訳じゃないんだけどね。

 ただ、こうやって会話する時に必ず上を向いて話さないといけないから、首が若干辛いのは嫌かなってだけで。


「ムギちゃん~、お話するなら着替えてからにしてね」


 軽く会話をしようとした所で店長に止められる。

 ちなみに店長の身長は170センチである。このお店の中で一番高い。


「はぁい。先輩方それではまた」


 そう言って事務所に入って準備をする。

 事務所と言っても、着替えやメイクをする為にそこそこ広く作られているので割とゆっくり出来る広さである。

 自分専用のロッカーを開けて、中にあるメイド服と予備のメイク用品を取り出す。

 今日のボクの服装は動きやすい様にジーンズと半袖のTシャツで、かなりラフな格好をしている。メイクもお仕事用で普段よりも可愛らしさ5割増し位で仕上げるので、ここに来るまでのメイクはそこまで凝った物にはしていない。


 友達と会う予定も無いし、職場に来ればどーせ着替えるから雑な服装と簡単なメイクだけなのです。

 バイト用にメイクをあざとさ割増、幼さちょい足しの風合いにして、ホールに出る。


「お待たせしました」

「おかえり〜。ムギちゃん今日も可愛いわねぇ、あっ、お菓子食べる? お昼ご飯は食べたのかしら。何か作るわね。あとあと〜」

「店長? ムギ君が引いてますよ。落ち着いてください」


 店長のいつもの暴走に、チョークスリーパーを仕掛けて淡々と処理するマオさん。店長は仕事している際のキャラ作りは立派なものの、いざ気を抜いた状態で女装男子を見るとテンションが上がって暴走するのだ。

 一応、ヒカリさんもマオさんも女装男子ではあるんだけど、マオさんは自衛がしっかりしているし、ヒカリさんはマオさんが守ってくれているので、この場では必然ボクだけがノーガードで絡みやすい相手と言う訳だ。


 さて、ここまでで違和感を感じた人が多く出たであろう。

 ボクは女装男子で、ヒカリさんとマオさんも女装男子。店長も実は女装している成人男性である。本日出勤していない他の従業員も全員男である。

 そして、従業員全員、このお店で働いている時は必ずメイド服等で女装して出勤している。


 ここまで言えば分かるだろう。

 このお店『メイド喫茶とらんす♂』は、従業員全員メイド服で女装してお客さんに接客する、所謂コンカフェ女装メイド喫茶なのである。

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