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乖律禁典(ルホット・ハ=ブリット)

挿絵(By みてみん)「誠にすいませんでしたあああああああああああ!!!!!!!!!」

 時に人が引き起こす本気の土下座というものは人の心を揺れ動かすものだ

 現に人よりも幾年の時を生きるアヌビスもユーヤのあまりにも美しい、黄金長方形の如き土下座に見惚れていた

 ……いや見惚れていたというのは多少語弊があった

 ハイライトのない少女はその海溝のような深い海色の瞳で上からユーヤを睨め付けていたのであったからだ

「あっそ、ふーーん…その程度の謝罪で許して貰えると思ってるんだあ」

「ーーーーーーーーー!!!」

 落雷を口で受け止めたかのような表情のユーヤは

「これ…以上の謝罪の誠意、ですか…?」

 と問いかける

「そりゃそーじゃん、さ!早くして!ほい」

 案の定の返答であった

「許してくださぁ〜い…お願いしますぅう〜!」

 情けないような声が泣き付くように喉仏から飛び出した

「なんでもしますからぁああぁあ!!!」

 気の所為だろうか、一瞬アヌビスが赤面したように見えた

「…ふぅ〜〜ん…なんでも、かぁ……」

 既視感のある受け答えに言うまでもなく

 二度の死を体験したばかりの失言クソオタ童貞(チェリーボーイ)

 ナニかに期待していた

「そーれーじゃーあ…お願いしちゃうかぁ」

 彼女の柔そうな舌に舐られた形状と色の整った唇の傍に添えられた示指は

 見かけの年齢に見合わぬ官能性を帯びていた

 ユーヤは舌の上で溜まった唾液をごくりと飲み込む

「じゃ…あ」

 ユーヤの視界すら揺れる勢いで心臓が鼓動する

 一体、どんなことを…

「討伐依頼、お願いしまーす!」

「ですよねーーーーーーーーーーーー!!!!」

 と言いつつもクソ童貞は肩からガックリと頭を落としていた

「…つーか、討伐依頼?何で?」

 後頭部を掻きながら問いかける

「ふっふっふ…じっつはねー?何だかとんでもない政策を起こそうとしてる輩がいるんだよ」

 アヌビスは手を腰の後ろに回し前屈みになってタハっと笑う

 さっき迄の潜在的な恐怖を宿した笑顔ではない、普通の少女がするような屈託のない笑顔であった

「そいつの名は『ビルカ・バリーヤ』。僕が『死の神』なら彼女は『霊の神』って言ったとこかな?」

「霊の…神、か…。っていうか貴女も神だったんすね?!」

 少し間を置いて驚愕する

「ええええええ!!!!???何を今更!?僕ってアヌビスだよ?

 ア!ヌ!ビ!ス!アヌビスっていえば死の神!死の神って言えばアヌビスじゃんかぁ!」

「ま〜ぁ…そりゃそーなんだけど…なんか、ね?どーしても神には見えないっつーか…」

 ドン!

 ビクゥウ⁉︎

 再度アヌビスが床を踏みつけた

「続き、いいかな?」

「…はい」

 暗雲が立ち込めたかのように表情の見えない顔に、ユーヤは圧倒されたようだ

「ビルカ・バリーヤ…僕はビルカって呼んでるけど、アイツはどーも転生廃止案を掲げているらしいんだよね」

 三半規管に聞き捨てならない情報が流れ込みハッと顔を上げる

「転生……廃止案…だと?」

「そーそ、なんでも転生を無しにして、代わりに『边府(Biān fǔ)』っつーあんたのとこで言うあの世だね、で死んだ後は生活してもらうって制度さ

 なんでも天国も地獄もないらしくてねー、僕も商売上がったりさ」

「転生を、無しにして…?皆仲良くあの世で暮らす……?ッハハ、訳分かんねえ…」

 人は怒りが頂点に達すると最早何も感じなくなるそうだ

 それはそうだ、これ程の怒りと真正面から向き合えば確実に気が狂って死に至るだろう

 これは生存本能の一種だとユーヤは受け取った

「ビルカはねぇ…普段からオドオドして常にこの!偉大なる!アヌビス様!に諂う様な挙動なのにさあ…なんでか転生廃止案については一歩も引かないんだよ」

 ユーヤがフラフラと立ち上がる

 まるで風船のように何もかによって上に引っ張り上げられた様な様相とは裏腹に、言い表せようの無いオーラを纏っていた

「そいつぁ…許せねえなぁ…あの!偉大なる!アヌビス様!に反抗するたあなぁ…そして、転生を無しにしてっつーところも気に入らねえ」

「だよねぇ!だよねぇ!気に入らないよねえ!?許せないよねえ!?しかもそいつは乖律禁典(ルホット・ハ=ブリット)っていう魔道具を使って政策を実行する気だよ!」

 聞き馴染みのない単語が増えた

「乖律…禁典(ルホット・ハ=ブリット)?」

「うん、それはね様々なこの世の理を書き記した一枚の紙さ!その紙に書かれた事柄は絶対なんだよ!

 書かれている内容は『生物は死ぬ』とか『水分は必須である』だとか『転売ヤーはゴミ』とか色々!」

「最後変なのなかった!?」

「合計9種類の理が書かれてるんだ」

 アヌビスは続ける

「そして、問題なのが後1種類分しかスペースがないんだよ」

 これがどんな意味か分かるね?という顔を少女は全面に押し出した

「どんなやつだよ…勝手に自分の政策を増やそうとして、転生を無しにしようなんてよ…巫山戯るな…

 しかも大事な一行を…自分だけのために…転生を無しにする為に使うなんてよ…」

 あ、コイツ転生の事しか考えてねえ。アヌビスはそんな思いをそっと心の箪笥の中に仕舞った

「任せとけや!アヌビスぅ!そのビスケ…だったか!?そいつとっちめてやるよ!」

「自分どんな立場か分かってる?」

「ハイ、お任せ下さいアヌビス様。依頼を遂行させて頂きます」

 睨め付けた顔の後アヌビスはハッとしたように告げる

「そーいやさ《死相ネタバレ(スポイラー)》の調子はどうだい?ちゃんと機能してるかい?」

「あ…そーいや、確かに…なんか死因がわかった気がしたんだよなあ…でも正夢みたいに死んでから思い出すみたいな感じだった」

ユーヤの声になるほどーという様な顔を見せる

「ダイジョブよ!死ねば死ぬほどスキルはレベルアップして死因もよりはっきりと分かるようになるから!」

「へ〜そんなもんかぁ」

「じゃあも一回頑張れー」

 この展開は…!?

 ユーヤは刹那の間に身構える

「さあ…床、開くなら開け…!」

その声に呼応するように床がステージの様に上へと迫り上がっていった

「そっちかーーーーーーい!」


 

 ユーヤの谺は瞬きの瞬間に歓声に変わった

「おめでとうございます!」

「1歳おめでとう!キエーク!」

 いや…もうユーヤという名ではなくなった様だ

 キエーク、それが彼女に与えられた新たな名である

 蝋燭の灯火だけが部屋を暖色に染めた小部屋で色々な大人に囲まれる

 周りには風船や貼り紙などのザ・誕生日会というような装飾がなされている

 (おかしいな…どうにも1歳っていう体じゃないな…あれか?数え年の派生みたいな歳の数え方すんのか?この世界は)

 身内と思われる歓声に適度に笑顔で返す

 (にしても…死因《林檎》か…あ、本当にグレードアップしたんだ!前世よりも死因が鮮明に頭に残ってる!)

「林檎に注意…ねぇ」

「は?この子、喋ったくね?」

 …どうやら思わず声に出てしまった様だ

 (やばいいいい!)

 キエークが動揺を隠しきれずに後ずさる

 ドカ!

「イッタイ!」

 壁に頭を強打したようだ

「あー!また喋った!すごいぞ!この子は神童だ!神の御子だ!」

 燥ぐ大人たちを涙目越しに頭を摩りながら見つめる

 瞬間、鈍い音が響く

 視界が暗転し、体が前のめりになり崩れ落ちる

 暖色の影が動いたのが蝋燭の灯火が揺れた事を察させた

 体全体が糸を張ったかのように硬直し

 感覚がプツンと途切れる

 どうやら目玉だけは麻痺していなかった様なのでギョロギョロと助けを乞いながら周りを見渡す

 …視界の端に何かが転がる


 林檎だ

 この林檎が私を殺した

 恐らく後ろに神棚があったのだろう

 強打したことで供物の林檎が転げ落ちて

 脊髄を強打させ、凹ました

 もう寿命が近いらしい

 大人達の悲鳴が視界が狭窄するにつれ大きくなっていく様に感じた

「か、か、か…神の御子ーーーーーーーッ!」

 誰かがそう叫んだのを皮切りに


 死んだ

 キエークは事切れたのであった

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