エピソード76:咆哮するロマンと眠れる少女
ナバールたちが死地で奮闘する裏側、エタン魔導王国では別の意味で「嵐」が巻き起こっていました。
主不在の工房で、ブレーキの壊れた天才技術者たちが動き出します。
語られるのは、男たちの熱きロマンと、長年秘められてきた「ある計画」。
新時代の兵器開発が、いま爆音と共に始まります。
エタン魔導王国の巨大魔導工房。
本来ならばここを統べるアルテオの指示が飛んでいるはずだが、当の本人はドラグーン王国の勇者たちと「空飛ぶ翼」を求めて旅の空。
さらには、連絡役のクリスもドラグーン王国へ向かったきり戻ってこない。
「……ま、要するに、今はわしらの天下ということじゃな」
イーデルが、鼻眼鏡をクイと上げながら不敵に笑う。
「そういうことじゃぞい! アルテオ様がいない間に、あのタウロスを超える化け物を作り上げて、あっと言わせてやるんじゃぞい!」
ボネットが巨大なレンチを振り回しながら応じる。
そんな二人の「暴走」を止める者は、もはやこの工房にはいない。
どころか、その火に油を注ぐ男がもう一人、工房の片隅で腕を組んでいた。
「はっはっは! 実にいい。アルテオ殿の作った装甲車は確かに素晴らしかったが、あれはあくまで汎用機。次は、より直接的に『対魔族』に特化した、蹂躙するための鉄塊が必要だ!」
豪快に笑うのは、獣王国の王、ボナヴィスタだ。
彼もまた、自国の防衛とナバールたちへの支援という名目のもと、自身の「男のロマン」をこの開発にぶち込んでいた。
「魔族どもを蹴散らすとなると、単なる体当たりではロマンが足りんわい」
イーデルが図面を広げると、ボネットが猛烈な勢いで書き込みを始める。
「ならば、特大の大砲をつけるぞい! せっかくエタンの魔導技術があるんじゃ、実弾なんてケチなもんは使わん。特大の魔導石を直結させて、純粋な魔力エネルギーをぶち抜く『魔導砲』じゃぞい!」
ボナヴィスタが膝を打つ。
「素晴らしい! 魔族には飛行する手合いも多いと聞く。ならば、地上の敵を薙ぎ払う平射用だけでなく、空の敵を撃ち落とすための高角度・高高度射撃が可能な対空モデルも必要だな!」
「ほうほう、それなら足回りも考え直さねばならん。今は6輪タイヤじゃが、魔導砲の反動と荒れ地の走破性を考えるなら、いっそ『カタピラ式』はどうじゃ?」
イーデルの提案に、現場の技術者たちがざわつく。
「カタピラか……いいな、いかにも鉄の塊という感じがして。ついでに、我々傭兵を安全に運ぶための重装甲輸送車も頼む。魔導士たちを乗せて、走りながら魔法攻撃を仕掛けられる動く要塞だ!」
「なるほど、それはいいのう」
「しかし、物資運搬が問題だな。獣王国で取れる鉱石や、エルフの国の木材など流通面に課題が残ってしまうな」
ボナヴィスタが冷静に指摘する。
「ふむ、ドラグーン、エタン、ベンドア、エイシェンツリー……確かにこの4国を繋ぐ輸送ラインが完成すれば、物資の供給も一変するわい。……のうボネット、昔わしらが試作して放置しとった、あの『魔列車』の出番ではないか?」
ボネットが目を輝かせた。
「使えるぞい! あれは出力が出すぎてレールが焼き切れるのが難点だったが、今の補強技術ならいけるぞい!」
「しかし、あれは敷設工事が大変じゃわい。山を削り、谷を埋めねばならん」
懸念を示すイーデルに、ボナヴィスタが胸を叩く。
「工事なら我が獣王国に任せろ! 体力と馬力だけならどこの国にも負けん。エタンの技術と獣王国のパワーがあれば、大陸を貫く鉄の道など造作もないことだ!」
「はっはっは、それは頼もしい。よし、早速取りかかるかの!」
かくして、エタン魔導王国の工房では、
・対地上戦車(カタピラ式魔導砲)
・対空自走砲(高高度射撃モデル)
・重装甲輸送車(6輪高機動タイヤ)
・そして4国を繋ぐ、大陸横断魔列車
の開発が、狂気的な熱量と共に始まったのである。
数日間に及ぶ開発会議と試作の合間。
静まり返った工房の奥まった一画で、イーデルとボネットは、埃を被った「あるプロジェクト」の前に立っていた。
「……のう、ボネット。この二人で作っとった『ゴーレム』じゃが、あれはどうするんじゃ?」
イーデルが視線を向けた先には、少女にしか見えない魔導生命体が横たわっていた。
「そうじゃのう。こんな孫娘がおったらいいのうって、二人で夢中になって作ったが……やはり『核』になる魂、それだけは今のわしらの技術じゃ無理じゃったの」
「いやまあ、わしらも調子に乗って、生命を作り出す勢いで魔力をぶち込んだからの。体だけなら、そこらへんの普通の女の子と変わらん。柔らかさも、温もりも、人間そのものじゃぞい」
ボネットが少し寂しげに、その少女の頬をなでる。
彼女にはまだ、意識がない。ただの美しく、しかし空っぽな「器」だ。
「当初は、アルテオ様の嫁にでも、なんて言っとったが……」
「マジ……ぞい?」
「ダメかの?」
「……あり、ありありのありじゃぞい!」
二人は顔を見合わせて笑い合う。
「まあ、今のところは夢のまた夢じゃがな。いつか、この子に心が芽生えるその時まで、わしらでしっかり育ててやらんといかんな」
「そうじゃぞい。孫娘が嫁に行けるように、最高の服を着せて、最高の手入れをしてやるんじゃぞい……」
工房に響く槌音の裏で、二人の技術者が込めた「祈り」に似た願い。
まだ名もなき少女が目を覚ますその時を、静かに待ちながら、エタンの魔導技術はさらなる変革を遂げていく。
エピソード76をお読みいただき、ありがとうございます!
イーデルとボネット、そしてボナヴィスタ。
この三人が揃って何も起きないはずがなく、とんでもない規模のプロジェクトが動き出しましたね。
そして後半に登場した、眠れる少女の姿をした魔導生命体。
彼女の存在が、後にどのような奇跡(あるいは波乱)を呼ぶのか……。
技術者たちの純粋で、少しお節介な「願い」の行方にもご注目ください!




