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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード36:虎と竜

 誤解が解け、心強い味方となったカインたち遊撃隊。

 しかし、一行が安らぎを求めて立ち寄った村で、不穏な火の手が上がります。


 闇に紛れて仕掛けられる卑劣な罠と、再びナバールへと向けられる刃。

 緊迫する状況の中で、虎と竜が真っ向から激突します。


 そして事態の収束後、満身創痍のカインに差し出された「新たな絶望」とは……。


 誤解が解けたカインたち遊撃隊は、そのままグラン・タウロスの護衛を買って出てくれた。

 五人の獣人族は、その鋭い感覚と機動力で周囲の警戒にあたり、タウロスの四方を固めて走る。


 これまで俺たちを刺していた獣人族からの冷ややかな視線も、カインたちが先導することで、少しずつ和らいでいくのを感じていた。



 この日の夜、俺たちは次の村に無事辿り着き、久しぶりに宿で羽根を伸ばすことにした。


 夕食後、カインは俺の前で深く頭を下げた。


「ナバール様。先日の非礼、心よりお詫び申し上げます。……このカイン、次は必ず、貴殿方の名誉を守り抜くと誓いましょう」


「気にするな、カイン。君たちの誇り高い行動原理は理解している。……それよりも、今後は情報を鵜呑みにしないようにな」


 俺がそう忠告した、矢先のことだった。



 夜も更け、村が寝静まった頃。

 けたたましい叫び声とともに、外に赤々と火の手があがった。


「火事だ!」


 俺たちは一斉に飛び起き、宿の外へと飛び出した。

 見れば、村の一番奥にある穀物庫と民家が激しく燃え上がっている。


「アルテオ、クロード! 火消しと怪我人の救護を頼む!」


 俺の指示に、二人の魔導師は即座に応じた。


「了解だよ、ナバールくん!」

「はい、直ちに!」


 アルテオとクロードが火事場へと急行する中、カインもまた部下たちに鋭い声を飛ばす。


「俺の部下たちは村人の安全確保だ! 避難誘導を開始せよ!」



 俺はオーウェンと共に、火災の周辺で情報収集に動いた。

 直感があった。これは単なる事故ではない。何者かが仕組んだ、俺たちを陥れるためのサインだ。


 その時、一人の村人がカインに駆け寄り、鬼の形相で叫んだ。


「あの者たちです! あの人間族の連中が、火をつけて逃げるのを見たんだ!」


 村人は叫びながら、こちら――俺たちを指差した。

 そしてその証言を終えるやいなや、男は踵を返し、闇の中へと消えるように逃げ去っていった。



 カインの体が、目に見えて硬直する。

 彼のモフモフした虎の毛が逆立ち、一瞬で怒りのオーラが迸った。


「カイン、待て! 今の男、不自然だぞ!」


 俺が声を上げるよりも早く、カインの激情が爆発した。


「……許さんぞ、ナバール! 貴様、俺たちを欺いたのか! やはり、あの悪しき噂は事実だったのだな!」


 カインは大剣を抜き放ち、猛然と俺に突進してきた。


「やむを得ない! オーウェン、火をつけたと言ってきた怪しい村人を追ってくれ! カインは俺が止める!」


「御意!」


 オーウェンは即座に戦線を離脱し、逃げ去った村人を追って闇の中へ消えた。

 アルテオとクロードは消火活動で手が離せない。俺は、狂戦士と化したカインの怒りを真正面から受けることになった。



 カインの実力は、遊撃隊隊長という肩書以上に凄まじかった。

 振り下ろされる大剣には、前回のような迷いや手加減が一切ない。そのパワーだけなら、竜人族である俺すら凌駕するほどの剛力だ。


 俺は二刀流の剣を交差させて一撃を防いだが、衝撃で腕が痺れ、体が後方へと弾き飛ばされた。


「くそっ……! なんて重い一撃だ!」


 俺は体勢を立て直し、俊敏な動きでカインの隙を突く。

 鋭い一閃を放ち、剣をカインの脇腹に滑り込ませた。だが、カインの皮膚は驚くほどタフで、浅い傷など意に介さない。むしろその血を見て闘志を燃やし、さらに獰猛に襲いかかってくる。


「邪魔だあああああッ!」


 カインが全身のオーラを大剣に集中させた。虎の唸り声のような咆哮とともに、巨大な一撃が振り下ろされる。


虎狼斬ころうざん!」


 その一撃は強大な風圧を伴い、地面を深く抉りながら俺に迫る。

 回避は間に合わない。俺は咄嗟に竜人化のオーラを全開にして防御を固めたが、それでも衝撃を殺しきれず、意識が飛びかけるほど激しく吹き飛ばされた。



(……このままでは、相討ちになる!)


 殺意を持たずにカインを無力化しなければ、この誤解は永遠に解けない。

 俺は全身に残るすべての魔力を両手の剣へと注ぎ込んだ。オーウェンが証拠を掴んで戻ってくることを信じ、この一撃にすべてを懸ける。


「おおおおおおおっ!」


 俺もオーラを爆発させ、カイン目掛けて突進した。


「ドラゴンスラッシュ!」


 圧倒的なスピードで繰り出す、二刀十字の切り裂き。

 衝突の瞬間、衝撃波が周囲を揺らし、カインの巨体が力尽きて地に倒れた。

 俺もまた、膝から崩れ落ちる。辛うじての勝利だった。



 その直後、闇の中からオーウェンが戻ってきた。

 その脇には、先ほどの村人を抱えている。だが、その男の顔の皮膚は剥がれ、獣人族に化けていた魔族の素顔が露わになっていた。


「ナバール様、この男が村人になりすましていた魔族です! この者が火をつけ、我々を陥れようとしていました!」



 地面に這いつくばっていたカインは、顔を上げ、魔族の姿を見てすべてを理解した。

 彼の瞳から怒りが消え、深い絶望と後悔の色が広がる。


「……あ、ああ。やはり、また、俺は……」



 火災はアルテオとクロードの活躍により鎮火し、負傷者の治療も終わった。

 村人たちは不安げながらも、魔族の死骸を見て一連の出来事を静かに見守っていた。


 事態が収束した後、カインは村人たちの前で声を張り上げた。


「……皆、聞け! 一連の騒動はすべて魔族の仕業だ! ドラグーンの国王、ナバール様は、我々を助けるために来てくれたのだ!」


 カインの真実を告げる叫びにより、俺たちに対する疑念の霧は、完全に晴れた。



 カインは再び、俺の前で深々と頭を下げた。

 今度は、心からの感謝と、消えることのない反省が込められていた。


 俺は、意識を取り戻したカインを真っ直ぐに見つめ、一言だけ釘を刺した。


「カイン。君は勇敢な戦士だ。だが……人の話は最後まで聞け。君はあまりに騙されやすい。今後は『勘違いでした』では済まさない。次は裏切りとして扱う。容赦しないぞ」


「……二度と、過ちを繰り返しません」


 カインが深く頭を下げた、その時。

 救護を終えて戻ってきたアルテオが、心配そうにカインへ駆け寄った。


「カインくん! 君、ものすごく疲れているね! 魔力も枯渇しているし、怪我も深いじゃないか!」


 カインは、さっと顔色を変えて後ずさった。


「あ、アルテオ殿……もう結構だ! 俺は大丈夫だ、ピンピンしている!」


「遠慮はいらないよ! 大丈夫、今回は固形タイプの『究極のリカバリー・ペースト』があるんだ。あのシチューのような匂いの苦痛は少ないはずだよ!」


 アルテオは、キラキラとした笑顔で、深緑色の粘土のような塊を差し出した。


 カインは恐怖で絶叫しながら逃げようとしたが、俺とオーウェンは即座にその両腕を拘束した。


「う、裏切らないと誓ったばかりなのに! ナバール様、なぜ……!?」


「他国の王に刃を向けたのですからな。誠意を見せていただかないと」


 オーウェンが、見たこともないような悪い笑顔で言う。


「カインくん。これは、治療だよ」


 俺はあえて真顔で言い放った。


「そうです、カイン殿! これこそが最高の……いえ、最悪の……いいえ、最高の回復薬なのですから!」


 クロードが慈愛に満ちた笑顔で、カインの口を無理やりこじ開けた。

 アルテオは容赦なく、粘土状のペーストをその口へと押し込んだ。



「うぐっ……! あああああああああああああああああ!!!」



 村中に響き渡るほどの悲鳴。

 粘着質なペーストが口内から喉、食道を強引に刺激しながら通過していく。


 その一瞬後、カインは白目を剥いて倒れ込んだが、その肌にはみるみる血色が戻り、深い傷口さえも魔法のように塞がっていった。



 俺とオーウェン、そしてクロードは、満足げに頷き合った。


(これでカインは、当分俺たちに逆らおうとはしないだろう。……それに、体力だけは完全に回復したわけだしな)



 俺たちの旅は、カインたち遊撃隊という、最強の(そして胃袋を握られた)護衛を得て、ベンドア獣王国の王都へと続いていく。


 ご清読ありがとうございます。


 猛虎カインとの激突! 魔族の卑劣な罠を、ナバールの剣とオーウェンの追跡が打ち砕きました。

 しかし、一番の功労者(?)はやはりアルテオの新作「リカバリー・ペースト」だったのかもしれません。


 体は元気になっても、精神的なダメージが深そうなカイン。

 一行はいよいよ王都へと足を進めますが、そこでもまた新たな出会いと事件が待ち受けています。


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