エピソード102:引き裂かれた信頼、十五年目の真実
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激闘が終わり、集められた各国の王たち。
そこでナバールが明かしたのは、魔王ヴェルガーを「生かす」という衝撃の方針でした。
反発する王たち、そして魔族に加担したドワーフの王が突きつける「十五年前の怒り」。
世界の足並みが乱れかける中、セトが暴いたあまりにも巧妙なギルフォードの罠とは――。
巨大な船体を誇る魔導船アヴァニールは、大空を滑るようにして各国の王たちを次々と迎えに回った。
人間族のエタン王国からはアルテオ、獣王国からは獣王ボナヴィスタ、そしてエルフの国エイシェンツリーからはアストリア王――。
彼らが案内されたのは、ドラグーンの王宮ではなく、つい先日ほどまで激しい決戦が行われていたエタン王国だった。
エタンの国には各国の協力により被害がない。
集まった王たちは、開口一番、俺に深い感謝と敬意を口にした。
とりわけ、かつて魔族の大規模な襲撃による負け戦から国を救われたアストリア王は、感慨深げに俺を見つめていた。
「ナバール王、君が命をかけて世界を救ってくれたこと、心から感謝する」
王たちの信頼に胸を熱くしながらも、俺は誤魔化さずに本題を切り出した。
「皆さんの信頼に感謝します。……だからこそ、包み隠さずお伝えします。
魔王ヴェルガーのことですが、俺とセト様の一任で、生かして罪を償わせることに決めました」
その言葉に、会議室が一瞬だけ静まり返る。
真っ先に口を開いたのは、心を許してくれている獣王ボナヴィスタだった。
彼は腕を組み、あえて厳しい苦言を呈するように問いかけてくる。
「ナバール、お前への信頼は揺るぎない。
だが、ヴェルガーを生かすとなれば、魔族に踏みにじられた我が国の民への説明がつかんのも事実だ。
どうやってあの男をコントロールするつもりだ?」
アストリア王も、協力的ながらも真剣な目を向ける。
「我が国もナバール殿には計り知れぬ恩がある。
しかし、一国の王としては、魔王の生存がもたらす政治的な懸念を見過ごすわけにはいかないのだ」
「僕がフォローするよ」
重苦しい空気を破ったのは、旅を共にしてきたエタン王アルテオだった。
彼は俺の隣に立ち、不敵に微笑みながら他国の王たちを見据えた。
「ボナヴィスタ王、アストリア王。
ナバールがただ身内を甘やかして生かすような男じゃないことは、一番よく知っているはずだよね。
ナバールには、もう別の考えがあるんだろ?」
アルテオの心強い言葉に背中を押され、俺は一歩踏み込んで言葉を続けた。
「ああ。今後のガーラ帝国は、前魔王の息子であるガーラントに治めさせます。
奴は過去の因縁に未練がない。
そして、ヴェルガーをその『影の補佐』として魔族領へ送り返します。
ヴェルガーの魔王としての畏怖を利用して魔族の暴走を抑え込み、二度と他国を襲わない平和な国へと作り替えさせる。
死を迎えるその最後の瞬間まで、一生をかけて我ら同盟国のために働かせます。
それが、俺の課した死よりも辛い罰です」
俺の命がけの覚悟に、ボナヴィスタとアストリア王が深く頷きかけた、その時だった。
「――ふん、魔族の戦後処理ばかりが随分と手際よく進むものだな、ドラグーンの新王よ」
これまで沈黙を保っていたリファインロック王国のドワーフ国王が、鼻で笑う。
リファインロック王国は魔族に加担し、俺たちの居場所を密告した国だ。
だが、ドワーフ国王の目は、罪人としてのそれではなく、深い怒りに満ちていた。
「なにを偉そうにドワーフ王よ。
この後はリファインロックにも、ガーラ帝国への加担について責任をとってもらわんといかんと言うのに」
ボナヴィスタが鼻で笑いながら言う。
ドワーフ王ゴルディンは、テーブルに分厚い帳簿を叩きつけて言った。
「魔族を生かして国を治めさせるのは結構だが、我がリファインロック王国が被った不利益はどう落とし前をつけるつもりだ?
お主ら人間族、竜人族、獣人族は、かつて我が国の武具を大量に発注しておきながら、支払いを踏み倒した過去がある!」
「……!」
「それに比べて魔族はどうだ。彼らは支払いを一度も遅らせん。
今は魔族軍の軍備のために、大きな契約を結んだばかりなのだよ。
生き残るために優良顧客を選んで何が悪い!」
ボナヴィスタ王は、突きつけられた帳簿を見て顔色を変えた。
「支払い不備……。そんなはずはない。
我が国も、当時の記録では正当な予算を計上していたはずだ」
「記録は嘘をつかん。十五年前、ドラグーンの先代アラン王や、お主たちの親の世代の時代だ」
帳簿に書かれた数字は残酷だった。
三千振りの剣と、五百領の鎧。
全国家の代金の半分が未払いのままで、利子を含めれば一国の予算が吹き飛ぶ額だった。
全員が困惑する中、俺の隣で腕を組んでいたセト様が、金色の瞳を光らせて鼻で笑った。
「ふん、哀れな奴らよ。
全員が同じ時期に支払いを滞らせるなど、不自然だとは思わんかったのか?
ヴェルガーの尋問で分かったことじゃが……。
十五年前のその時期、すでにギルフォードが各国の重鎮に化けて入り込んでおったわ」
「ナバール王、そのお美しいお方は?」
アストリア王が不思議そうに聞く。
「この方はドラグーン王国の守護竜、セト様だ」
俺が皆に紹介する。
「なに? あの古の守護竜だと!?」
驚くボナヴィスタだけでなく、アストリア王やゴルディンまでもが息を呑み、伝説の存在を前にして驚愕の表情を浮かべた。
会議室の空気が一気に張り詰める。
セト様はそんな王たちの反応に満足したようにふんぞり返りながら、堂々と言葉を続けた。
「ギルフォードの奴め、間に入って金を横領し、帳簿を偽造したのじゃな。
目的は一つ。
ドワーフの優れた技術を同盟国から切り離し、孤立させて魔族側に引き込むための謀略よ。
その古い帳簿の裏にも、僅かに奴の魔力の残滓が残っておるわ」
セト様の言葉に、ドワーフ国王ゴルディンは愕然として言葉を失った。
自分たちもまた、ギルフォードという共通の敵に嵌められ、十五年間も踊らされていた被害者だったのだ。
静まり返る会議室で、俺はドワーフ国王の目を真っ直ぐに見つめた。
「ドワーフ国王。アンタたちの怒りはもっともだ。
俺たちの国がギルフォードの謀略に気づけず、十五年間もアンタたちに苦しい思いをさせていたのは事実だからな。
裏切られたと思って、魔族に縋るしかなかったアンタたちを、一方的に責める資格は俺たちにはない」
俺は深く息を吐き、会議室に集まった王たちを見渡した。
「ギルフォードに奪われた武具の代金は、これから全同盟国が復興の中で、正当な交易や支援として必ずドワーフ王国へ払い戻します。
これはドラグーン王国だけの問題じゃない、全員が騙されていたんだ。
だからゴルディン王、今回の魔族への加担の件は、その未払い分と相殺という形で不問にさせてください。
その代わり――ドワーフの持つ高い技術を、これからは世界の復興のために貸してほしい」
ドワーフ国王ゴルディンは、叩きつけた帳簿をゆっくりと見つめ、やがて深く、大きなため息をついた。
「……まさか、我が国までその男に操られていたとはな。
分かった。これほどの真実を突きつけられては、これ以上の恨み言は言えん。
新王ナバール、お前の提案に乗ろう。
我が国の技術は、これからの世界平和のために使わせてもらう」
ボナヴィスタ王が豪快に笑い、アストリア王も穏やかに微笑んだ。
「すべてはギルフォードに狂わされていたのだな。
ならば、ヴェルガーを魔族の抑え込みのために生かして使うというナバールの方針にも、もう異論はない。
ガーラント殿による新体制を、我らも支持しよう」
エタン王国の会議室で、かつてギルフォードに引き裂かれた者たちが、十五年ぶりに本当の信頼を取り戻した。
傷跡は深い。
けれど、俺たちの前には、確かに温かい新しい平和の光が差し込み始めていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ドワーフの裏切りの裏にあった、十五年前の悲しい真実。
ギルフォードの謀略によって引き裂かれていた絆が、ナバールの誠実な提案とセト様の眼力によって、ようやく一つに結ばれました。
過去の不義理を「相殺」とし、これからの未来のために技術を借りるというナバールの裁量、本当に王としての器を感じますね。
いよいよ世界が本当の平和へと歩み始めました。
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