夜の梟
下町の一角、少し人通りから外れた静かな路地に、その店はあった。
色褪せた木製の看板に、銀色の羽を広げたフクロウの絵。そこには小さいが丁寧に『夜の梟』と記されている。
「……ここだよ」
フードを目深にかぶったアンドリュー王子が呟いた。
その隣にはコーデリア、ユリウス、アレッサンドロ。みんな普段より控えめな服装でこっそりと同行していた。
「ここが隠れ家…。……本当に、ただの書店みたい」
コーデリアがそう呟くと、アンドリューが口元に笑みを浮かべる。
「表向きはね。でも中は王宮よりよっぽど落ち着くよ」
店内は、古書の香りと木の匂いが入り混じる、静かな空間だった。
外見よりも広く、天井まで届く本棚がぎっしりと並び、所々に木の椅子と読みかけの本が置かれている。まるで時が止まっているかのような、ひっそりとした居心地の良さがあった。
「すごい……全部しっかりと手入れがされている…。古い本なのに、どれもきれい……」
コーデリアが感嘆の声を漏らすと、奥のカウンターから朗らかな声が返ってきた。
「いらっしゃいませ。……おお…お戻りになられて…王子殿下」
姿を現したのは、白髪交じりの穏やかな老店主。代々この書店を守ってきた家系で、前王時代から王家に仕えていた裏の協力者でもある。
「秘密のお部屋いつでも準備整っておりますよ」
「ありがとう」
アンドリューは軽く礼をしてから、奥の書棚へと歩いていく。そして、ごく自然な手つきで、棚の一冊――『星を渡る鳥の詩』という古びた詩集を引き抜く。
ガチリ、と何かが外れる音。
すると、棚の一角がわずかにずれ、裏に隠された木製の扉が現れた。
「えっ…隠し扉……!」
「前王――僕の祖父が造らせたものさ。王宮がもし何かに包囲されたとき、外部と秘密裏に連絡を取れるようにね。魔法結界も張られていて、外部からは誰にも覗けない」
アンドリューがそう説明しながら中へ入ると、他の三人も静かに続いた。
隠し部屋の中は、石造りの丸い部屋。中央には大きな円卓と椅子があり、周囲にはランタンと魔導灯が穏やかな光を放っていた。壁には古地図や記録、魔法陣の刻まれた石板などが整然と並ぶ。
「ここは、立場を越えて王とその同志が集う“私的な知の空間”……なんて、祖父は言っていたらしいよ」
ユリウスは感心したように円卓に手を置き、
「……秘密基地、って感じですね」と呟いた。
アレッサンドロがにやりと笑う。
「なんだか、冒険の始まりみたいじゃないか」
コーデリアもふわっと笑って、静かに椅子に腰掛けた。
「……ここでなら、大切な話が、ちゃんとできそうです」
アンドリューは満足そうにうなずいた。
「これから、君たちと話すときは、ここを使おう。僕にとっても、特別な場所だから――信じられる人たちと一緒に、ね」
こうして、『夜の梟』の奥にある秘密の部屋は、コーデリアたちとアンドリュー王子が心を通わせる“第二の居場所”となっていく。




