表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、前世は優しいおばあちゃんでした!ー連載版  作者: ちょこだいふく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/90

治験

リュカの作業部屋には、新たに整えられた一角があった。そこには小さな瓶に詰められた琥珀色の液体――びわチンキの試作品が、ラベルを貼られて整然と並んでいる。


「これが……完成版なのね」

コーデリアは、試作品の瓶を一つ手に取り、光に透かして見た。

「漬け込む条件も高濃度の蒸留酒で統一した分、品質も安定してる。あとは――」


彼女は机の上に置かれた書類に目を落とした。


「使用方法、注意点、対象者、保存方法……細かいけど、これがあれば誰が扱っても大丈夫なはずよ」


それは、コーデリアが中心になって作成した

「びわチンキ使用説明書」だった。

簡潔ながら正確で、平易な言葉で書かれたそれは、識字の乏しい人々にも伝わるよう、わかりやすく絵も交えてあった。


「どんな人にも届くように、文字だけじゃなく絵でも伝えようって発想はさすがだよ、コーデリア」

ユリウスが感心したように説明書を手に取る。


「これを元に、まずは領内の診療所や孤児院に配布しよう」

アレッサンドロも真剣な眼差しで頷いた。


リュカは静かに瓶を一本、木箱に入れながら言った。


「使ってもらいながら、使用感や効果、異常がないかを報告してもらう。それを記録して、次の改良につなげていくとしよう」


「まるで前世であった治験ね」

コーデリアは微笑んで頷いた。


――その日の午後。


彼らは、まず市場の商人や洗濯場で働く奥さん、農夫、孤児院の職員など、以前湿布を試してくれた人々を訪ねて回った。


「これがチンキ……湿布のときより便利そうだなあ」

あの干しリンゴの店の頑固なおじいさんも、瓶を前に目を細める。

「肩に塗って寝たら、朝の痛みが少なかった気がするわ!」と洗濯場のルチアが声を上げれば、

「熱が出た時にも使えるのか?」と農夫の青年が質問を投げかける。


「この紙に、使ってみた日と症状を書いてくださいね。塗った場所、時間、それから変化があればなんでもいいんです」

コーデリアは仕様書と記録用紙を配りながら、一人ひとりに丁寧に説明していった。


「少しでも不安があったら、すぐに使うのをやめて、リュカさんに相談してくださいね」

ユリウスも隣で補足する。


リュカは、人々の反応を一つ一つ記録帳にペンを走らせていた。


「小さな声が集まれば、大きな成果になる。…きっとそういうことなんだな」


その日から、びわチンキの「生きたデータ」が、領地のあちこちに積み重ねられていった。


ーーー


数日後。リュカの作業部屋には、また新たな紙束が積み上がっていた。


「おや……“虫刺されに塗ったら腫れが引いた”って報告、三件もあるよ」

ユリウスが興味深そうに記録用紙をめくる。


「冷え性に良いって話も増えてきてる。指先の痺れが減ったっていう声もあったわ」

コーデリアは記録帳に丁寧に追記しながら呟いた。


「でもその一方で、“肌がぴりぴりした”という報告も数件。やはり、敏感肌には普通より更に希釈して使う必要があるかもしれないね」

アレッサンドロが落ち着いた口調で補足する。


「使用対象に“子どもと高齢者には必ず通常より薄めて使うこと”と明記しておこう」

リュカは仕様書の改訂版に赤ペンで線を引く。


「父上と母上にも報告しよう。領主として、正式に支援を受けられる形にしてもらえば、もっと多くの人に届けられるはずだ」

アレッサンドロがそう言うと、コーデリアも頷いた。


「その時は…できるだけ商品としてではなく、生活の一部として、びわチンキを紹介したいわね」


その言葉に、リュカがゆっくりと笑った。


「…もうすぐ、びわの収穫の時期ですね。新しい葉と種も、また仕入れておかないと」


「そうだな。次の試作は、“虫刺され用”に配合を変えても面白いかもな」


その時、窓の外から子どもの笑い声が聞こえてきた。びわチンキの小瓶を手に、走っていく孤児院の子どもたちの姿が見える。


「きっと、大丈夫だよ。このチンキは、ちゃんと届いてる」


ユリウスの言葉に、誰もが頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ