表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/62

第39話「明けない朝の先へ」


---


第39話「明けない朝の先へ」


初めて訪れた“未来”。

直樹はその朝を、何度も確かめるように深呼吸しながら迎えた。

冷たい空気、かすかな土の匂い、そして遠くで響く人々の生活音――。

どれもが「初めて経験するもの」のように鮮やかだった。


「……これは、本物の朝なんだな」


隣でカノンが静かにうなずいた。

彼女の表情には、安堵と不安が入り混じっている。

記録にも観測にも残らない、未知の時間。

観察者としての彼女にとっても、それは“外れ値”に等しかった。


「直樹、この先は誰も知らない。記録が存在しない未来を……あなたは歩こうとしている」


直樹は黙って空を見上げた。

夜明けの光が、瞼を刺すように眩しい。

だが同時に、強烈な解放感が胸に広がっていく。


これまでの彼は、過去と同じ日々を繰り返す“囚人”に過ぎなかった。

けれど今は違う。

選択することができる。進む道を決めることができる。


「カノン。俺は……“今”を生きることを選ぶ」


そう告げる直樹の声には、確固たる決意が宿っていた。

それは未来都市に縛られることなく、記録に依存することなく、

ただ自分の存在を刻みつけるための誓いでもあった。


カノンはその言葉に、わずかに震える笑みを浮かべた。

観察者としてではなく、一人の人間として――彼と共に歩むことを決意した笑みだった。


しかし、その選択の瞬間。

遠くで轟音が響いた。

非記録圏の空を切り裂くように、無人の監視機が飛来していた。

都市の管理者たちが、ついに彼らの動きを察知したのだ。


「直樹!……来るわ!」


直樹は反射的にカノンの手を握りしめ、走り出した。

リセットが訪れない今、この瞬間の判断と行動こそが彼の運命を決める。


振り返ることはできない。

戻ることも、やり直すこともできない。


ただ前へ――“明けない朝”の先へ進むしかなかった。



---


次回

第40話「第2部・終幕『記録と存在』」

記録がすべてを支配する世界で、直樹は「存在すること」そのものの意味に答えを出す。



---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ