表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/62

第32話「記録ノートのゆくえ」

---


第32話「記録ノートのゆくえ」


 それは、静かな朝のことだった。


 直樹が目を覚ますと、いつも肌身離さず持ち歩いていた“記憶ノート”が、影も形もなくなっていた。


「……ない……?」


 いくら鞄の中を探しても、隠しポケットを覗いても、あの厚みのあるノートは見つからない。焦燥が心を焼いた。


 ノートには、日々の観察記録、感じたこと、断片的に浮かんだ夢の記憶、非記録圏で出会った人々の言葉──そして、リセット現象に関するあらゆるヒントが記されていた。直樹にとって、それは外部記憶装置のような存在であり、自分が“自分であるための証”でもあった。


「カノン、昨夜……誰か、近づいてたか?」


「センサーには反応なし。でも……微弱な電磁攪乱があった。何か、技術的な介入があったのかもしれない」


 誰かが“記録ノート”を狙っていた──それも、未来都市に匹敵する技術を持つ存在が。


 直樹は、胸の奥に不気味な予感を抱いた。


 ノートには、彼が観察者から聞いた“もう一人のリセッター”の痕跡、赤い記録石の場所、そして過去に封印された都市機構の脆弱性まで記されていた。それが、もし都市連盟の手に渡ったとすれば──


「記録の奪還は、記憶の奪還に等しい」


 直樹は静かに呟き、ノヴァの情報端末にアクセスした。ノートに装着されていた追跡チップの断片的な信号が、かろうじて検出される。


「位置、特定可能ですか?」


「微弱だけど、信号源は北西の旧地下通路──“第4記録網の廃ルート”と一致」


 そこは、非記録圏でも立ち入りを禁じられた、都市連盟の旧管理網が眠る場所だった。


 彼はノートを追って廃ルートへと向かう決意を固めた。そこに待つのは、記録に埋もれた過去か、それとも意図的に葬られた未来か。


 そのとき、カノンがふと問いかけた。


「……直樹、もしそのノートに、君自身の“消したい記録”が残っていたら、どうする?」


 直樹は、ほんの少し考え、笑った。


「それも含めて、僕が歩いてきた道だ。消されたくない。誰にも、何にも」


 記録ノートの奪還。それは、直樹が“存在する”ための、最後の戦いの始まりだった。



---


次は第33話「赤い記録石」の執筆に進めましょう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ