第33話「赤い記録石」
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第33話「赤い記録石」
「これが……“記録石”?」
地下通路の奥、崩れかけた旧観測室の一角。
そこに、赤い光を帯びた球体が、まるで呼吸をするかのように淡く明滅していた。
直樹とカノンは、廃棄された第4記録網の奥深くに眠っていたこの奇妙な物体を、記憶ノートの位置追跡の途中で偶然発見した。
「人工物……でも、どこか有機的だな……」
直樹が呟く。
表面にはびっしりと微細な文字や線刻が彫られていたが、それは現代の記録言語ではなかった。
「これは……記録以前の記録よ。文明が記録を記録として定義する以前の、“根源的な記憶装置”の可能性があるわ」
カノンの声には、観察者としての戸惑いが混じっていた。
この石は──記録という概念そのものの“外側”からやってきたかのようだった。
直樹が石に手を近づけると、赤い光が強く脈動し、映像のような幻視が彼の脳裏に直接流れ込んできた。
──吹雪のような空。
──赤く輝く塔。
──複数のリセッターと思しき人物たちが円環状に並び、装置の中心に何かを埋め込もうとしている。
──そして、ひとりの男が振り返り、はっきりと直樹の目を見る。
「君もまた、“起動された”んだな」
その声は、自分自身のものに酷似していた。
「直樹っ!」
カノンの叫びで、直樹は我に返った。額には冷や汗が流れていた。
「……見た。過去か、未来かはわからない。でも確かに、“何かを始めた”者たちの記憶だった」
「この石は、過去の記録じゃない。思念の転写体。つまり、“記録されていない記憶”そのものよ」
「……リセットとは何だ、カノン? あれは単なる現象じゃない。“仕組まれた装置”なんじゃないのか?」
カノンは言葉を飲み込んだ。
この“赤い記録石”は、リセットの根源──あるいはその起動装置に関わっていた。
そう考えると、直樹の存在は最初から「偶然」などではなく、何者かによって“設計”されていたのかもしれない。
「この記録石、持ち出せそう?」
「……外界への転送は不可能。でも、内部データを抽出して複製することならできるかもしれない。ただし、代償は大きい」
「代償?」
「思念の同期には“記憶の上書き”が起こる。直樹、あなたは一部の記憶を失うかもしれない」
直樹は一瞬、躊躇した──が、すぐに決意したようにうなずいた。
「俺の記憶なんて、どうせ断片だ。けど、この石の記憶は……全体だ。俺だけじゃなく、“リセッターたち”の記録を残すためにも、必要だ」
赤い記録石に再び手をかざす直樹。
その瞬間、記録なき記憶が彼の内部に流れ込んだ。
そして、ひとつの確信が彼の中に芽生えた。
──この世界には、“記録されていない真実”がまだ数多く眠っている。
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次回:
第34話「語られざる災厄」
人類は一度、全体リセットを経験していた――その衝撃の事実が明らかになります。




