第21話「記録の外へ」
『リセッター 〜目覚めたら百年後だった男〜』
**第2部「記録なき旅路」**開始します。
まずは**第21話「記録の外へ」**から進めます。
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第21話「記録の外へ」
「――ここから先は、記録されない領域です」
カノンが静かに言った。
目の前に広がるのは、地図にも記録にも存在しない無名の荒野だった。
舗装された道は唐突に途絶え、その先には、雑草が生い茂るだけの無人地帯が広がっている。
直樹は思わず振り返った。
背後には、整然と整った未来都市のシルエットが、まるで幻のように霞んで見えた。
一歩踏み出せば、そこはもう“誰も見ていない世界”。
誰の目にも触れず、誰の記録にも残らない、真の自由と孤独の領域。
「……本当に行くのか、俺」
呟きながら、直樹はポケットの中のノートを握り締めた。
唯一、自分自身の手で綴った“記憶ノート”。
この世界において、記録に抗う唯一の手段。
「直樹さん」
カノンがそっと肩に手を置く。
その手は、かすかに震えていた。
「ここから先、あなたの存在は誰にも保証されません。もし……」
言葉に詰まり、カノンはそっと目を伏せた。
「もし、リセットが起きたら?」
直樹が尋ねると、カノンはゆっくりと頷いた。
「記録されていないあなたは、元の場所に戻ることすらできなくなるでしょう。存在が、完全に……失われるかもしれません」
直樹は短く息を吐き、遠くの地平線を見つめた。
どこまでも続く荒野。
そこには、過去も未来も、誰かの管理もなかった。
「……それでも、行く」
未来にすがるためではない。
誰かに記録されるためでもない。
ただ、自分自身の足で、自分自身の意思で進むために。
直樹は一歩を踏み出した。
砂を踏みしめる音が、妙に生々しく耳に残った。
カノンもまた、そのあとを静かに追った。
こうして二人は、記録の外へと旅立った。
未来を記録する者としてではなく、
ただ“生きる者”として――。
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ここまでが第21話です!
続けて**第22話「地図にない村」**へ進みます。




