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41 ここは別世界?

ミスティは麦の穂をかき分けてあぜ道に出ようと進んだ。その後からジェランもついて来る。


ようやくあぜ道にたどり着くと、10メテル(メートル)ほど離れたところに立っていた農夫に見つかった。


「こら、お前たちはおらの畑で何してるだ!」怒りながら近づいてくる農夫。中年男性で、言葉は通じるようだった。


「ごめんなさい。誤って畑の中に入っちゃったの」あわてて弁明するミスティ。


農夫の娘が着る服とはまったく違うドレスを身に着けているミスティを見て農夫は息を飲んだ。しかしミスティの後からジェランが出てくるのを見て、農夫は再び目尻を吊り上げた。


「お前ら、畑の中でいちゃいちゃしていただか!」


農夫の言葉を聞いてミスティの脳裏にあるメロディーが浮かんだ。『♪誰かさんと誰かさんが麦畑〜。チュッチュチュッチュしているいいじゃないか〜』


ちょっとおぞましい歌詞だった。聞いた記憶のないメロディにミスティは頭をひねったが、農夫の怒りを抑えることに気を向けた。


「この人とはそういう関係じゃないんです!ほんとうに誤って畑の中に入っちゃったんです!」


ミスティが言い訳すると、ミスティの着衣が貴族が着るような服だということに気がついたのか、農夫の怒りはすぐにトーンダウンした。


「そ、それならいいだが、今度から気をつけるだ」


「わかりました。ごめんなさい」頭を下げるミスティ。ジェランはミスティの後でぼーっとしている。


「ところで、ここはどこですか?」とミスティが聞いたら、農夫は怪訝な顔をした。


「い、いえ。ここから一番近い町か村は、どちらでしょうか?」


すると農夫は顎を後方に向けた。


「ここから北に何日か歩くと都に着くだ。その間にいくつかこんまい集落があるだよ」


「都があっちにあるんですね。教えていただきどうもありがとうございました」


ミスティはぺこぺこと頭を下げながら農夫の横を通り過ぎ、農夫に教えてもらった北に向かってあぜ道を歩いていった。もちろんジェランも後をついて来る。


ミスティは歩きながら改めて周囲の景色を確認した。


ここは広大な盆地のようで、麦畑が遥か地平線まで広がっているように見える。ところどころに丘や林があり、その近くに小さな集落もあるようだ。


盆地の左右、つまり東側と西側には山が連なり、前方左側の北西方向には一際高い山がそびえ立っていた。後方には森が広がっているようだった。


「広い畑ねえ。・・・ダンデリアス王国の領土よりも広いんじゃないかしら?」


そしてやはり従者たちの姿はひとりも見えなかった。みんなが無事なのか、ミスティは心配したが、どうすることもできなかった。


「おい、ミスティ」その時後からジェランが話しかけてきた。


「何?」


「さっきの農夫と何を話していたんだ?」


ジェランには農夫の言葉がわからなかった?私は会話に支障がなかった。さっきの農夫の言葉を思い返してみると、さいはての大陸の言葉と同じようだった。


「なあ、ミスティ。どこへ向かってるんだ?」しつこく聞くジェラン。


「北へ進めばこの国の都があるって教えてもらったの」


「この国はどこだ?あの大陸にある国か?」


「まだよくわからないけど、関係があるみたい。あの、光っていた少女を覚えてる?」


「ああ。暗闇の中で出会った、光る玉の中にいたやつだろ?」


「あの子は、自分の世界から影使いの覇王(マスターシャドウ)、つまり闇の神を追い出したの。その神が私たちのいる世界に信徒を連れて来たって話だから、あの大陸にいた人々はここから来たのかもしれないわ。・・・ただ、あの子の話だと、ここは私たちのいた世界とは別のところにある世界みたいだけど」


「別のところってどこだよ?」


「知らないわよ」


その後もジェランが何度も質問してきた。しかしミスティにもわからないことだらけだったので、途中で答えるのをやめ、無言で歩き続けた。


やがてあぜ道は雑木林に隣接した集落にたどり着いた。農家らしき建物が20軒ほど集まった小さな村だった。


「すみません」とミスティは一番近い農家で何かの作業をしていた中年女性に話しかけた。


「何だい、お嬢さん?」


「この村に宿屋か食堂かパン屋さんはありませんか?」


「ここは小さい村だから、どれもないねえ。パンは自分の家で焼いてるよ」


「パンの余りがあったら、少し分けてもらえませんか?」


そう言うとその中年女性はミスティと、その後にいたジェランをまじまじと見た。


「あんたたちは旅人かい?」


「まあ、そうです。北の都を目指しています」


「きれいなべべ(・・)を着ているけど、ほかには同行者はいないのかい?」


「はい。後の護衛だけで、ほかの従者たちとははぐれてしまいました」


ジェランが言葉がわからないことをいいことに護衛扱いするミスティだった。誰かか何かが襲って来た時にジェランが護衛してくれるかはなはだ疑問だったが、護衛を連れているというていにしておけば、多少は犯罪者に対する抑止力になるだろう。・・・犯罪者がいるかわからないが。


「うちも貧しいからねえ・・・」と言ってミスティをちらちらと見る中年女性。


「これで売ってもらえますか?外国のお金なんですけど」と言ってミスティは懐からさいはての大陸で手に入れた銅貨を出した。


「ふうん?」と言って銅貨を手に取る中年女性。


「昨日焼いたパンでいいなら3個あげるよ」


「それでけっこうです。お願いします」とミスティは頼んだ。


多分パン3個の代金としては銅貨1枚はあげ過ぎなのだろう。中年女性はほくほく顏で家の中に入ると、すぐに硬くなったパンを3個持って来た。


「ほらよ。じゃあ、道中気をつけて行きな」


「はい。ありがとうございます」とミスティは礼を言って中年女性から離れた。


その後をついて来るジェラン。「ミスティ、パンを買ったのか?」


「そうよ。あなたもお金を持っているなら、誰かから分けてもらったら?」


「僕は一文無しだ。お金はすべてゲンスランに預けていた」と自慢げに言い返すジェラン。


「じゃあ、道中何も食べずに行くの?」とミスティが意地悪く聞くと、


「ミスティ、頼む。僕にもパンを分けてくれ〜」と泣きついてきた。


しかたなく3個のうちの1個をジェランに渡す。


「これだけか、ミスティ?」


「私も余分なお金は持っていないんだから、それで我慢しなさい」とミスティは言い返して、ジェランに取られないようさっそくパンにかじりついた。


硬くぱさぱさしたパンだった。しばらく噛んでようやく飲み込むことができた。それでもこの世界に来て初めて食べる食事だ。文句は言うまい。


「ミスティ、硬くて飲み込めないぞ!飲み物はないか?」と文句を言うジェラン。


ミスティは畑の脇を指さした。「そこに細い用水路があるでしょ?それでのどを潤しなさい」


「そんなの飲めるか!」そう言うとジェランは魔法で手のひらに水を出し、それをうまそうに飲んだ。


「そう言えばジェランは水魔法が使えたわね?」


「海を漂流していた時はこれで命をつないだんだ」と鼻高々のジェラン。


「私にも水をちょうだい?」とミスティが頼むと、


「じゃあ、パンをもう1個くれよ」と言ってきた。


「だめよ。これは私が買ったんだから。あなたには1個恵んであげたじゃない!」


「じゃあ、そこの用水路の水を飲めよ。腹を壊しても知らないぞ」にやにやしながら言い返すジェラン。


「わかったわよ。じゃあ、パンを半分あげるから、お水をちょうだい」


「半分じゃだめだ。1個だ」と主張を変えないジェラン。


「そんなことを言うならあなたを置き去りにするわよ。言葉が通じない、お金もない状態でどうやって生きていく気?」とミスティが言い返すと、ジェランはしぶしぶ同意した。


「パン1個というのは冗談だ。半分くれるなら水をいくらでも飲ませてやる」


「じゃあ、まず水をちょうだい?」パンを懐に入れ、両手を突き出すミスティ。


「飲むだけ飲んでパンはやらないと言い出すんじゃないだろうな?」


「私がそんな真似するわけないことを知ってるでしょ?」とミスティが言い返すと、ジェランはしばし昔のことを思い返してから右手を突き出した。


「ほら、水だ。かわりにパン半分と、これからの世話も頼むぞ」右手の先から少量の水が現れて、ミスティはあわてて両手ですくって飲んだ。


「おいしい水ね。ジェラン、これであなたも商売できるかもよ」


「なんで一国の王子が水屋にならないといけないんだ」と文句を言うジェランだったが、パンを半分分けてもらうと急いで口に詰め込んでいた。


再びあぜ道を北に向かって歩き出す二人。


「夜はどうするんだ?どこか、泊まる当てはあるのか?」


「ないわよ。野宿するしかないわね」


「どこで寝るんだよ!?」


「とりあえずは麦畑の中に潜り込んで寝るしかないわね」農夫に見つかるとまた怒られそうだなと思いながらミスティは答えた。


「また野宿か。僕もたくましくなったもんだ・・・」ため息をつくジェランだった。


しばらく歩いていると日が落ちてきたので、ミスティはあぜ道の横に密生している麦の穂の間に潜り込んでいった。少し離れたところでジェランも同じように麦畑の中に入って行く。


1日歩いて疲れたためか、二人はすぐに寝入ってしまい、気がついたら東の空が明るくなっていた。


麦の穂の中で上体を上げるミスティ。その気配に気づいたのか、少し離れたところでジェランも起き上がったようだった。


「ミスティ、起きたか?」


「ええ。・・・ジェラン、早起きね」


「畑の土の上で熟睡なんかできるか!」とさっそく文句を言うジェランだった。


「のどが渇いたからお水をちょうだい」


「パンをくれるのか?」


「昨日買ったパンはもうないから、後で手に入れたら分けてあげるわ」


「約束だぞ」と言って立ち上がるジェラン。ミスティも畑の中で立ち上がり、ジェランの方に近寄って行った。


「ジェラン、しゃがんで!隠れて!」突然ミスティが叫んで麦の穂の間にしゃがみ込んだ。


「どうしたんだ?」


「いいから、早く隠れて!」


ミスティに言われてしゃがみ込むジェラン。会話ができるほど近づいていたので、


「どうしたんだ、ミスティ?」とジェランがもう一度聞いてきた。


「人が乗った馬が駆けて来るの!どんな人かわからないからやり過ごしましょう」


うなずくジェラン。


麦の穂の間からあぜ道の方を見ていると、2頭の農耕馬を走らせている2人の農夫らしき若い男がミスティたちの近くを北へ向かって駆け抜けて行った。


「騎兵じゃなさそうだな」とつぶやくジェラン。


「農夫が農耕馬をあんなに速く駆けさせることはないわ。何かとんでもないことが起こったのか、それとも私たちを追って来たのか・・・」


「俺たちを追って?知り合いでもないのに何でだ?」


「しらないわよ!・・・知らないけど、追い剝ぎに来たのかもしれないから、しばらく動かずにここに隠れていましょう。それよりお水をちょうだい」


「わ、わかった」そう言ってジェランはミスティに近づくと、手から水を出してくれた。


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