33 首都ミドール
2台の装甲馬車で街道を進むミスティたち。進みにつれ街道沿いに集落が点在し、その周囲に畑が広がっていることが多くなってきた。
馬車を停め、道端で昼食を摂るために集まる従者たち。
「人口密度が少しずつ増しているわね」とつぶやくミスティ。
「これはいよいよ首都ミドールとかに近づいているということでしょうね」とココナが言った。
「今までにない大きな都市でしょうか?いろいろな食材があるといいですけど」とティア。
「しかし敵・・・影使いの覇王の本拠地だろう?大勢の敵兵が待ち構えているかもしれないぞ」とホムラが注意を喚起した。
「でも、思ったより普通の人が多いですね。黒い兵士を出現させたり、炎や氷雪を出すような、つまり私たちの異能のような能力を持っていた影人は、数えるほどしかいません」とトアラが言った。
「影人が首都の近くに大勢いたらどうする?」と聞くピデア。
「なるべく戦いを避けて・・・と言うのは無理でしょうね」とミナラも言った。
「影使いの覇王が彼らの支配者なら、当然影人のいる強大な軍隊を私たちに向けてくるわね」とフワナ。
「敵の人数によっては、私たちの手に余るかも」とリュウレが気弱なことを言った。
「とりあえず私の能力でみんなを守ります、この前のように」とエイラ。「そして打開策を考えましょうよ」
「そうね。私の異能も使って」とヴェラも言った。
「みんながいれば、そしてミスティの指揮があれば、何とかなりますよ」
「そうだな、前向きに考えて、できることをがんばろう」とホムラが締めくくった。
昼食を終えて再び馬車を進めるミスティたち。時間とともに周囲にはさらに家屋の数が増えていき、集落の切れ目もなくなり、既に首都の外縁に入っているかのように思われた。
「このあたりだと道端で野営するような雰囲気ではありません」と御者台に座っていたピデアが馬車の中に向かって言葉をかけた。
「そんな感じね。宿屋があれば久しぶりに泊まりましょう」とミスティが言い、街道沿いの立派な宿屋を見つけたのでそこに寄ることにした。
「久しぶりにベッドで寝れるわね」と嬉しそうなココナたち。
「風呂もあるそうだから、旅の垢を落としましょう」とミスティがみんなに言った。野営をしていた時は、樽にミナラが水を貯め、ホムラが少しだけ温めて、できたお湯を道端で裸になって体にかけるだけだった。
ただ体を流すだけでのんびりとはできなかったので、きちんとしたお風呂に入れることにみなが喜んだ。
入浴が終わると宿屋の食堂に行き、全員で大きなテーブルを占拠する。料理や飲み物を多めに注文して食べ始める。
「ティアの料理もうまいけど、旅の途中だときちんとしたテーブルも椅子もないから、席についての食事は久しぶりだな」とホムラが食べながら言う。
「それにしても首都ミドールのことを影使いの覇王の居城がある城塞都市と考えていたけど、城壁らしいものはないわね」とミスティ。
「このあたりは城壁の外に広がっている町なのかもしれません」とココナ。
「この大陸全体がひとつの国なら、攻めて来る敵国はいませんからね」
「だが、蒼龍城や鬼門城は城塞だったぞ。誰に対しての防壁なんだ?」と聞くトアラ。
「それは・・・私たちに対してかも」とミスティが言った。
「我々ですか?・・・我々だけのためにわざわざ城を造ったのですか?」とホムラが聞き返した。
「私が屋敷にあった絵本で影使いの覇王の存在を知ったように、影使いの覇王も何らかの方法で私たちのことを知っていた。そしていずれ攻めて来ることを予想して守りを固めていたのでしょう」
「しかし、私たちがこの大陸に来たのは、先代の辺境伯が毒殺され、我々もまた襲われたからですよ。そんなことをしなければ、私たちはこの大陸まで来なかったでしょう?」といぶかしむピデア。
「この大陸に来てからだって、最初の城で敵将に襲われなければ、戦っていたかどうか・・・」とトアラも言った。
「おそらく、私たちと影使いの覇王が戦うことは私たちが生まれる前から決まっていた運命だったのかもしれない・・・」とミスティが言った。
「神のような存在に夢の中で『世界を救え』と言われ、あなたたちに異能が授けられたのもそうよね。一方で影使いの覇王は私たちに備えていくつかの城を造り、影人を産み出した・・・」
「その割にはこの大陸には普通の民人が平和な暮らしをしていて、軍事国家でないので若干拍子抜けしています」とミナラ。
「全国民が私たちに刃を向けてくるんじゃないかと思ってたので」
「この大陸と私たちの大陸の間には海が広がっていて、潮の流れも速く、大勢の兵士が渡っては行けないから、精鋭部隊としての影人だけを作り、私たちをピンポイントで攻撃することしか考えてなかったのかもしれないわね」
「そのおかげで何とか首都にたどり着けました」とホムラ。
「これから何が待ち構えているのかわかりませんが」
「そうね。今日はベッドで休めるけど、順番に見張りを立ててもらった方がいいわね。敵襲に備えて」
「わかりました。後で順番を決めよう」とホムラがみんなに言った。
しかし結局その夜に敵が攻めて来ることはなく、みんなが体を休めることができた。
翌朝、宿屋での朝食を終えて再び出立する。
進むにつれて家屋の密度は高くなっていき、しかも石造りで2階建て以上の建物が増えてきた。
「完全に街中に入りましたね」とミスティに言うエイラ。
「行き交う人も多く、平和な感じです」とミナラも言った。
「今朝、宿屋の女将に聞いたら首都の中心部まで馬車で2、3日もかかるそうよ。とんでもない大都市ね」とミスティも答えた。
「そして女将も他の宿泊客もこの国の王、つまり影使いの覇王のことはよく知らなかったわ。・・・でも街は繁栄し、街並などの社会基盤は整備され、治安もいい。行政がうまく機能しているのね」
「平和な国を築いているのにわざわざ私たちに刺客を差し向けてきた影使いの覇王の真意を問いたださないといけませんね」とフワナが言い、ミスティはうなずいた。
その頃、ジェランたちは巨木群が焼け焦げた現場にたどり着いた。高い大木が輪状に何重にも並んでおり、そのすべての大木が炭化している。
大木の周囲には何人かの役人らしき服装の人々と兵士数人がいて、火災の状況を調べているようだった。
「これがこの前の夜に見た炎の跡か?」とつぶやくジェラン。
「それにしても何人も取り囲んでいて物々しいな。ゲンスラン、何が起こったか聞いてくれ」
その言葉を聞いてゲンスランはドルドンに、「悪いが事情を聞いてくれないか」と頼んだ。
おそるおそる役人に近づいて話しかけるドルドン。相手の役人たちは仕事の邪魔をするなと言わんばかりにドルドンをにらんだが、急に怪訝な顔つきになった。
何かをドルドンに話しかける役人たち。しばらく話した後、ドルドンが役人たちを連れてゲンスランのところに戻って来た。
「この人たちが何か知っているか聞きたいらしい」とゲンスランに言うドルドン。
「俺たちは通りがかっただけだぞ。何も知らないと言い返せ」と命令するジェラン。
しかしジェランの言葉を聞いて、役人たちが問いつめるような口調でジェランに話しかけた。
「何を言っているのかわからん!言葉が通じないと言え」とジェラン。
そのことをドルドンが役人たちに伝えると、役人は何かを言い返してから後方(ジェランたちの進行方向)に向かって手を挙げた。その方には役人たちの者らしい馬車が何台か停まっており、役人の合図で近づいて来た。
「何だ?」といぶかしむジェラン。
「俺の言葉が訛っているので俺たちがどこから来たのかと聞かれた。みんな東の大陸から海を越えてやって来て、こっちの言葉が話せるのは俺だけだと知ったら、首都まで連行すると言い出したんだ」
「はあ?俺たちは何も悪いことはしてないぞ!」と怒るジェラン。
「なぜ連行するのか聞いてくれないか」とゲンスランがドルドンに頼んだ。
「・・・何でもここで将軍が行方不明になっていて、近くにはお偉いさんがひとり倒れていたそうで、今、東の大陸から来た女たちが犯人だと考えられているんだと。俺たちは関係ないと言ったんだが、関係ないわけはないと言われて、取調べをするために首都まで連れて行かれるそうだ」
ドルドンの説明を聞いているうちに役人の後ろから兵士たちも来て、槍を馬に乗っているジェランに向けた。
「貴様ら・・・!」と憤るジェランだったが、
「殿下、ここは向こうの言う通りに従いましょう。争いになったら殿下もおけがをします」とゲンスランに言われ、しぶしぶ馬を降りた。
そして役人と兵士らに指示されるままに相手の馬車に乗り込んだ。
3人の兵士と2人の役人も同乗し、他の人々を残して馬車が急に走り出した。
「荒い運転だな」と揺れる馬車の中で文句を言うジェラン。
「でも、この速さならミスティ様たちに追いつけそうです」とゲンスランが言った。
その頃ミスティたちは道端に馬車を停め、市場でのんびりと買い物をしていた。ミスティたちはみな言葉が話せるので、多少は訛っていても市民の中にうまく溶け込んで買い物をすることができた。
「珍しい食材もあって目移りしますね。街中だと自分で料理できないので、買って行けないのが残念です」
「そのかわり服とか布を買っておきなさいよ」とココナが言った。
その時、市場の端の方から「どけ、どけ!」と誰かが叫ぶ声が聞こえた。
ミスティたちが声がした方を見ると、市場で人が大勢いるのにその中に駆け足で走らせている馬車が近づくのが見えた。
買い物客たちはあわてて道端に避け、子どもは急に手を引かれて売り物の棚に倒れ込んで泣き叫んでいた。
ミスティたちも急いで道端に寄ると、「どけ、どけ!」と御者が叫んでいる馬車がすぐ近くを通り過ぎて行った。
「何よあれ?危ないわねえ」と文句を言うティア。
「あれは行政府か近衛兵の馬車だね」と、棚の上の売り物を並べ直しながら店番のおばさんが言った。
「あれだけ急いでいるのは珍しいね。凶悪犯でも捕まえたのかねえ?」
「・・・平和そうだけど、この国にもそういう人がいるのね」とミスティは驚いた様子で言った。
首都ミドールの中心とも言うべき行政府の建物、別名王城へジェランたちを乗せた馬車が到着した。役人が先に降りて王城の中に走る。その後、ジェランたちが兵士に剣を突きつけられながら馬車を降りてきた。
目の前の王城を見上げて驚くジェランとゲンスラン。その建物はダンデリアス王国の王城よりもはるかに高く幅広い塔のようになっていて、その偉容さに圧倒されたのだった。
王城の周囲にも通りを隔てて大きな建物が連なっている。政府の建物なのか貴族の屋敷なのかわからないが、これらの建物もダンデリアス王国では見ないほどの規模だった。
「ここの国王は相当な権力の持ち主のようですね。エーベッヘ帝国でもこれほどではなかった」とゲンスラン。
「・・・いやっ!ひるむことはない!ダンデリアス王国も東の大陸では有数の国家だ。堂々としよ・・・」
ジェランの言葉は兵士が突き出した槍を見て尻すぼみになった。何かをジェランに話す兵士。
「このお城のような建物の中に入れと言ってます」と通訳するドルドン。
「しょうがないなあ・・・」と口の中で小声でつぶやきながら、ジェランは言われるままに建物の門に向かった。
「レイモン卿、モルガン卿の亡骸の近くで不審人物を捕まえたと、調査に赴いた監理官から連絡がありました」と執務室にいたレイモン卿に部下が伝えた。
「何、ほんとうか!?女か?光の子か?」と興奮して聞き返すレイモン卿。
「いえ、3人の男です」
「なんだ、男か・・・」と残念がるレイモン卿。
「しかし東の大陸から来たと言っているようです」




