表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ログイン(仮)  作者: 江藤 乱世
34/37

エピローグ その8

 四人は元の喫茶店に戻ってきていた。そこには創が既に待っており、話しかけようとしていたが、結局話しかけてはこなかった。


 五人は全く会話もせず椅子に座り、誰も何もせず、ただそこに黙って座っていた。


 しのぶからの撤退。撤退といえば聞こえばいいが、要は敗北したのだ。なす術もなく、万里奈を救うこともできず、むざむざ逃げ帰ってきたのだ。その事実に、怜央は落ち込まずにはいられなかった。


 しかし、同時にやらなければならないことはわかっていた。


「さぁ、各自の反省の時間は終わりだよ?」


 縁寿の声に、皆顔を上げた。


「そうだな。もうそろそろいいか」


「うん。気持ちの整理は終わったよ」


「ここから反撃だな」


「は?」


 怜央たちの変わりように創は驚き、どう反応すればいいのかわからないといった顔をしている。


 創が話しかけてこなかったのは落ち込んでいると思ったからだろう。しかし、怜央たちはそんなことはしない。この程度であきらめるようならば、ログイン世界でゴッドと対峙することは出来なかっただろう。


 怜央たちは自分たちなりに整理していたのだ。しのぶとの会話で得られた情報や、対処法を。そのための時間が今の沈黙だったのだ。


「さぁ、作戦会議だ。まずはここまでに分かったことを縁寿、頼む」


 こういった解析は縁寿が適任であることは周知の事実だ。そこに周りが補完していく。創もこの場の空気にあてられたのか、作戦に耳を傾けている。


「しのぶ君はあたしたちを消せない。それは本人も認めた事実なんだよ。そしてこれは甘さなのかな? あたしたちの命をとる気はないみたいなんだよ」


「みたいだな。そもそも殺して終わりなら全人類全滅させてからゆっくり作業をすればいい」


「合理的に考えるならそうなるよな。つまり俺たちにもまだ反撃の猶予はある」


「どれくらいの余裕があるの?」


「結構あると思うんだよ。まだニュースキャスター喋ってるし、電話も電気も通じてる。これがなくなったらいよいよなんだよ」


 どうやら自分たちと関係の薄い人から徐々にいなくなっているようなので、確かに日常に使うものが動かなくなったら、終わりが近いという意見には賛成だった。


「なぁ、お前たちはどうするつもりなんだ?」


 創の質問の意味が怜央は理解できなかった。どうするも何もこれからまた万里奈を救うための作戦会議を今やっているのだ。どうするかなど決まっている。怜央はそう思っていた。


「あきらめてただ待とうとは思わないのか?」


 創は伝わっていないと思ったのか、別の言葉で言い直す。そこで初めて怜央は創が恐れていることを理解した。


「思わないな。万里奈を助けないと」


 だからと言って怜央はあきらめるという気はなかった。


「でも、死ぬかもしれないだぞ? このままでも全員無事だなんてそんな保障どこにもないけど、歯向かって殺されるよりマシだ。さっきの話だって相手の気分の問題だろ? ここはゲームの中じゃない。現実なんだ。あんな規格外の力を使う人に勝てるわけが……」


 確かに創の意見はもっともなものだった。


 しのぶには兵器を使用しても倒すことは出来なかった。その地点で自分にできることなんてない。創はもう抵抗をあきらめてしまったのだ。


「……創、お前は待機しててくれ」


 事実上の戦力外通告。怜央は無理強いして自分たちの手伝いをさせようとは思わなかった。


「なんでだ! 何でそこまでするんだよ! 世界を救う英雄にでもなりたいのか!?」


 創のこの言葉は自分のために放たれたものではない。自分のためならば、さっき待機してくれと言われたときに大人しくしたがったはずだからだ。


 創は恐れているのだ。怜央たちが消えてしまうことを。その意味を怜央はしっかりと汲み取って答える。


「別に俺は英雄になりたいわけじゃない。俺がしのぶを許せないのは――――」


 怜央は自分の動機を語る。


 世界を救うなどという傲慢な考えでもない。曖昧な反発心でもない。分相応の自分自身の抱く理由を。


「は? それだけ? それだけのために戦うのか?」


「当たり前だ。それ以外に何がある」


 創は信じられないといわんばかりに周りにいる残りの人に視線を巡らす。誰か否定してくれるのではないかという思いがあってのことだったが、誰も彼も頷くだけで否定はなかった。


 創はもう何も言えず、その場でうなだれた。


「さて、続けてもいいかな?」


 少しの間、沈黙の間が空く。その沈黙を肯定と受け取り、縁寿は続けた。


「それでだよ? あたしたちの目的はしのぶ君を止めること。倒すことでも行動不能にすることでもないんだよ?」


 怜央の目的は少し異なるが、皆の大まかな目的はただしのぶのやっていることを阻止すること。ただそれだけだ。ゴッドの時のように本人を倒すことが目的ではない。


「その意見には賛成だけど、そうしなければしのぶは止まらないんじゃないか?」


「ログイン世界をリセットするのも手ではあるよ?」


 佐奈は一応可能である方法を指摘する。それを行うかどうかは別問題だが。


「それは無理なんだよ」


「無理じゃないだろ? 回線はしのぶに押さえられてそうだけど、データを入れている本体は破壊可能だろ?」


 丈は思わず無理と断定した縁寿の揚げ足をとってしまう。


 確かに現実的には無理と言っていい。実際にそのデータがどこにあるのかもわからない上に海外などにあれば現実的にはお手上げだ。


「うーんと…… 確かに無理じゃないかもだけど、行けるのかなぁ」


 縁寿は困ったように眉を下げた。


「どこにあるんだ?」


「あそこだよ」


 縁寿は喫茶店の窓を指す。正確にはその先に見えるものを。


 そこにあるのは月。中心に黒い線の走った白い満月だった。


 怜央はその光景に言葉を失った。それは縁寿の言葉の意味を理解したからではない。そこに満月が見えてしまっていることに驚いているのだ。


 月には月齢というものが存在し、約三十日で元の形に戻る。それが常識だろう。しかし、月がどの形の時にどんな時間帯に見えるのか。それを正確に把握している人は少ないのではないだろうか。


 満月は絶対に太陽が見える時間帯には見えない。


 正確には日の出と日の入りの時には見えるが、昼間に見えることなどありえないのだ。


「世界の常識は今は気にしないほうがいいんだよ? そもそもこの世界、太陽も月も動いてなかったりするんだし」


 怜央の驚きの意味を正確に読み取り、縁寿はそう指摘する。


 確かに言われてはじめて気づく。太陽が朝確認した位置から動いていないのだ。慌てて時計を確認すれば既に午後五時を過ぎていた。


 しかし、ほかの人の驚きはそこにはない。


「もしかして、ログイン世界のデータって……」


 縁寿の指し示す意味を最初に理解したのは丈だった。


「そうだよ? ログイン世界はあの月にあるんだよ」


 その場にいた人は縁寿を除き、言葉を失った。それでも縁寿は気にせず説明を続ける。


「もともと月のソーラーパネルはエネルギー問題を解決するための第一歩だったんだけど、世界に均等に分配――――なんてうまくいくはずもなく、生産されるエネルギーも当初の予定よりもかなり少なかったんだよ。そんな理由があったりで結局第三者の手に渡ることになったんだよ」


「なるほど…… そして手に入れたのが『ログイン』を作ったところってことか」


 驚きから抜け切れてはいないが、怜央は何とか話についていこうとする。


「そういうことなんだよ。『ログイン』はもともと現実世界で出来ない実験場の意味も兼ねていたから、それも理由の一つだったりするかもだよ?」


 月で生産されるエネルギーをそのままログイン世界の稼働に利用する。太陽光という性質上それは無限に生産される。どおりでエネルギー問題があるにもかかわらず、『ログイン』がその標的にならないわけだ。


 おそらく縁寿の語った内容はネット上に転がっているようなものなのだろう。そんなところまで調べている縁寿に怜央はさらに尊敬の念を抱いた。


「……確かにあそこじゃ壊せないな」


 丈には壊す気はなかったのだろうが、まさか本当に壊せないとは思わなかったのだろう。


「それじゃあ、作戦会議と行こうか」


 怜央は気を取り直して話を元の軌道に戻す。


「創はこの拠点で待機していてくれ」


 勝手に怜央はこの喫茶店を拠点に定めたらしい。皆もそのつもりだったのか、誰からも異存はない。ここのオーナーがいたら嘆きそうな光景だ。


「それくらいならやってくれるよな?」


 創は戦えない。そう判断しての怜央の優しさだった。お前にも役割はある。そう言いたかったのだ。


「……わかってる。それくらいなら」


 創も全てを理解しているだろう。安堵したような悔しいような複雑な表情をしている。


「それで、しのぶへの対処だけど――――」


「各個撃破だろうな」


 怜央の言葉に丈が続ける。


「しのぶは『ワールド』のように二人で作業している。万里奈を救出しようとすれば、しのぶを少しの間でも無力化しないと不可能だ」


「それもほとんど時間差なく、だよな」


 おそらくしのぶ同士でお互いを監視しているはずだ。そして異常があればすぐに対処する。そういう形をしているはずだった。


「二手に分かれることになるの?」


「そうなるんだよ? 問題はどっちがログイン世界に行くかなんだよ?」


「そもそも入れないしな。縁寿、どうにかできないか?」


 こういうことに関しては縁寿以外には手出しができない。


「それはどうにかできるんだよ? でもでも、出来ても一回だけ。戻ってこれる保障はないんだよ? 単純にしのぶ君に勝てば戻れるかもだけど」


 要はしのぶがログイン世界を掌握しているから、侵入できるのは一度だけということだろうと怜央は納得した。


「僕がログイン世界のしのぶを担当する」


 誰が行くのかもめる前に丈から名乗りがあった。


「この世界じゃ僕はもう役立たずだから」


 そういって丈は拳銃を取り出す。そういえばさっきしのぶとの遭遇で全弾打ち尽くしていたことを思い出す。


「そうだな。じゃあ、俺と佐奈、丈と縁寿にいつものように別れて挑もう。タイミングはどうやって合わせる?」


「連絡手段もないから、やっぱり時間で合わせるしかないかな?」


 対処法がわかれば作戦は着々と決まっていく。


 詳細まで決まり、その日はそこで解散となった。時間的に既に夜となっていたため、決行は明朝。タイミングを合わせて行うことになった。


 


 時間的には深夜。沈まない太陽、沈まない月が輝く異様な空を見上げながら、怜央は出立の準備を始めていた。


 逃げようとしているのではない。怜央にはどうしても確かめたいことがあったのだ。ただ、それはみんなの命を懸けるには小さな可能性であるがゆえに、怜央は単身確かめに行こうとしているのだ。


 それに怜央はこの可能性がついえたとき、自分たちがしのぶに勝利することはほぼ不可能と考えていた。いくら綿密な作戦を立てようと、しのぶの神のごとき力に抗う術はない。ゆえに怜央は可能性に賭けたくなったのだ。


 準備を終え、怜央はそっと喫茶店を後にする。しかし、出てすぐに怜央の足は止まった。


「やっぱり一人で行くんだね?」


 まるで見透かしていた感のように、佐奈は準備万端にそこにいた。


「お前、なんで……」


「気になること、あるんでしょ? 私も行くよ」


「だけど、これは俺のわがままで……」


「わかってる。でも、今のままじゃしのぶ君には対抗できない。その方法を探しに行くんでしょ? だったら私も行くよ」


 佐奈の言っていることはほとんど間違っていない。怜央は怜央なりに成長しているように、佐奈も佐奈なりに成長してきていることに、怜央は今更ながらに気づかされた。


「それに、もう一人で危ないことしないって約束でしょ?」


 それで決まりだった。もう怜央には佐奈を突き放すことは出来なかった。


「わかった。行こう」


「うん」


 佐奈はまるでそこが定位置であるかのように怜央の隣に並ぶ。


 そして二人は歩き出す。全ては日常を取り戻すために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ