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21話 タロス


 ユウキとミナは滝を見ようと向かっていた。道中、ミナは終始機嫌が良さそうにしていた。


「楽しそうだな」

「だって、嬉しかったんだもん。ユウキがさっき頭を下げた時のこと…私、惚れ直しちゃったなー!」


 ユウキはミナの言葉に照れくさそうに頬を染め、頭を掻く。


「そういえば、ユウキ。昨日、結局聞きそびれちゃったけど、ユウキは今まで何してたの?」

「そうだな——」


 ユウキは天界からこれまでのことを歩きながらミナに語って見せる。


「…考えてみると、何で、俺はあんなことしてたんだろうな。ルノアを励ますようなこと言ってたりキースにウィーブスと向き合うよう言ったり…。ただ、面倒なだけなのに」


 ユウキはぽつりとつぶやく。


「…それはね、ユウキが誰よりも人との想いに向き合っているからだよ」

「人との想い?」

「そう。人との想い。ユウキは今までつらい経験をいっぱいしてきた。だから、人が人へ向ける想いをユウキは大切にしたいと思っている。自分に手が届くものは救いたいと思っている」

「俺はそんなできた人間じゃねえぞ。…俺はそんな優しくない」

「ううん。ユウキは本当は優しいよ。普段は悪いところが目立ってるかもしれないけど、本当は優しい。天邪鬼なんだよ。自分じゃわかってないかもしれないけど」

「…そんなもんか」


 少し戸惑ったような表情のユウキを見てミナは微笑む。


「あ、着いたよ!ほら!」


 ミナが指さした先にはごうごうと流れる滝があった。


「…すごいもんだ」

「もう少し近づいてみようよ!」


 ミナがそう言い一歩踏み出した時だ。突如、地面が震えだす。そして地面から巨大な竜のような頭が現れる。


「な、何だ…こいつは…!」


 目の前のそれは確かに生きていた。その目がぎょろりと動き、ユウキと視線が合う。するとそれは大きな雄たけびを上げる。


「…っ!」


 ユウキは魔法陣を構築し、魔法で撃退しようとする。


「ダメ!」


 ミナが制止する。ユウキはミナの言う通り、すぐに魔法の発動を中止する。


「ユウキ。そのまま…!そのまま…じっとしてて。絶対にマナを使用したりしないで…!」


 ユウキはじっと睨み続ける。どれほどそうしていただろうか。やがて、それは地面に再び潜っていく。


「今のがもしかして…」

「うん。あれがタロス。この地に眠る魔物」


 さっきのタロスの咆哮を聞いたのだろう。大勢の村人がやって来る。


「大丈夫か!?」

「何があったんだ?」


 村人たちが口々に言う。


「大丈夫です。だけど…タロスが出てきたんです。頭だけでしたけど」


 ミナが言うと村人たちは驚いた顔をする。


「タロスが!?」

「最近、揺れが多いとは思っていたが…頭まで出すとはな…」

「今までこんなことなかったべ…」


 村人たちがざわめき出す。


「落ち着くんじゃ!」


 そう大声で言ったのは村長のアルマだ。途端にざわついていた村人たちが口を閉じる。


「タロスはマナに反応する。ならば、少しでもマナの活性化を抑えればええ。しばらくの間、魔法などのマナの活性化が生じる行為は控えるんじゃ。…モサク。ここにいない村の者にも伝えてきてもらえるかの?」


 名前を呼ばれたモサクは慌てたように村へと駆け出していく。その場の村人たちは誰一人、動こうとしなかった。


「…さあ!他の者も戻れ!必要以上に心配し、他の者たちを怯えさせるでない!」


 村長の喝に村人たちはハッとし、彼らも村へと戻っていく。その姿が見えなくなるとアルマはユウキとミナの方を向く。


「…大丈夫じゃったか?」

「はい。びっくりしましたけど、襲われることもなく…無事です」


 ミナの返事にアルマは頷く。


「タロスが時折目覚め、大地を震えさせることは度々あったが、まさかその姿を現すとはの…これ以上何もなければよいが…主も怪我などないか?」


 アルマはユウキに目を向ける。


「ああ。大丈夫だ。…あの魔物はマナに反応するのか?」

「そうじゃ。といっても、ちょっとやそっとのマナには反応しないはずだがの。とにかく…このまま何もなければええんじゃが…。主らも気を付けい」


 アルマはそう言い、その場を去っていく。


「…びっくりしたねー」


 アルマの姿が見えなくなるとミナはそうこぼす。ユウキはため息をついて応じる。


「全くだ。本当、勘弁してくれ…ウィーブスの後はタロスの目覚め。これ以上何もなければいいがな」

「ユウキ、甘いよ!このまま何事もなく、全て終わるなんて面白みに欠けるよ!駄作だよ!タロスの登場の意味とかなくなっちゃうじゃない!私の予想では、ウィーブスが登場するね!あれで終わりとかないと思うよ!そして、ウィーブスとタロスを相手に戦う流れになるね!じゃないと、盛り上がりに欠けるよ!」

「いや、メタいわ」


 ユウキが思わずツッコむ。ミナがあははと笑った後、不意に真面目な顔をする。


「…でも、実際のところ、ウィーブスって魔族は生きてると思う」

「…タロスか」


 ユウキの指摘にミナは頷く。


「タロスが頻繁に動くようになったのはここ数日。つまり、ユウキがここに来た時くらいから。かと言ってユウキが原因というわけでもない。マナの本質は魔力の強さ。その魔力が強ければ強いほど個々が有するマナは強く感じられる。ユウキはマナや魔力はそれほど高いものではない。だから違う。じゃあ、他に強いマナが感じられるかといわれれば、そうでもない。なら、ここに一つの仮説が生まれるわ。タロスがマナではない他のものに反応してるという説」


 ミナの言葉にユウキの目が鋭くなる。ミナの言わんとすることを理解したように頷き、口を開く。


「ウィーブスが宿している魔気。…崖での戦いを振り返ると…魔王が有する独自のエネルギー…魔族にもそれがあるとはいえ、魔王のように十分に有することが出来ず、コントロールできない代物。ウィーブスがそれを制御できないために絶えず莫大な魔気を放出しているなら…タロスがそれを感知している可能性もないとは言えない。何より、こっちは魔気を感知できないから敵に気づくことも難しい」

「…ただの思い過ごしならいいんだけどね」

「いや…この説は十分有りうるものだ」

「…そう。なら、このことはアルマさんに報告しといたほうがいいよね。行こうか」


 ユウキ達は一旦家に戻り、ミナはそのままアルマのところに行った。日が落ち、暗くなった頃ようやくミナが戻ってくる。その顔は少し不安げな表情を浮かべていた。


「…一応、村に見張りの人をつけるんだって」

「…そうか。このまま残り二日…何もなければいいが…どうしたもんか」


 ユウキは窓の外を睨むように見る。

 不気味なほど美しい満月が見えた。





「うう…」


 ウィーブスが目を覚ます。自身の身体が針山のようなところに突き刺さっていることに気付く。今も絶えず、再生と破壊を繰り返しているのか、絶えず血があふれ出しては止まるといったことを繰り返している。


「うおおおおおおおおおお!」


 ウィーブスは針山から体を起こし、全身に意識を集中させる。


「とまれ、とまれ、とまれぇ!」


 そう叫び続ける。いつまで、そうしていただろうか。やがて、血が止まる。


「これは…」


 ウィーブスが驚いた顔をしていたがやがてニヤリと表情を歪ませる。


「…適応…したか。魔気が…今まで感じられなかったマナを感じる…!」


 ウィーブスは底の見えない暗闇を見下ろす。


「下に…いるな…」


 ウィーブスはそうつぶやき、飛び降りた。



おまけ  ~茶番劇~


ルノア 「うー!どういうことですか!これは!」

ユウキ 「どうした、ルノア?荒れてんな」

ルノア 「どうしたもこうしたもないですよ!どういうことですか!ミナは序盤でフィードアウト。最近まで、完全に私が正ヒロインって感じだったじゃないですか!?なのに、ミナの再登場によって私の株は下がりそうじゃないですか!」

ユウキ 「…ルノア」

ルノア 「何ですか!」

ユウキ 「一体、いつから自分が正ヒロインだと勘違いしていた?」

ルノア 「キー!!」

ユウキ 「あまり、強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ」

ルノア 「はあ!?うっせえ、うっせえ、うっせえわ!」

ユウキ 「所詮、お前はヒロインとして、敗北者なんだよ」

ルノア 「取り消しなさいよ!今の言葉!」

ミナ  「茶番のパロディ頻度がやばいよ…これ…」

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