20話 村の伝承
朝になり、ユウキは目を覚ます。体を起こそうとするが、起き上がらない。見ると、ミナがユウキを抱きしめたまま眠っていた。
「…眠っている姿は文句なしなんだがな…」
ユウキはそう言って、ミナの頭をなでる。すると。
「ふへ…!」
声が聞こえる。ミナの顔を見ると、目を閉じたまま恍惚とした表情をうっすら浮かべている。
(…こいつ、起きてんだろ!)
そして、ユウキはミナの頭を回すように激しくなでる。
「あ、ちょ!回る!目、回る!起きたよ!起きたから放して!ユウキー!」
茶番を終え、二人は台所で朝食の準備をし、朝食を頂く。その後、ミナが風呂を沸かしたというので、ユウキは風呂に入る。
「…ふう。気持ちいいな。…あ、そういや」
ユウキは思い出したように言い、浴室の戸を目掛け手をかざす。
「"領域"」
魔法陣が展開され、浴室を淡い光がドーム状に包み込む。
「…これでよし」
ユウキはそう言い、風呂に癒されるような、気持ちのよさそうな表情をしていた。しばらくすると物音が聞こえてきた。そして、聞き覚えのある声も。
「あれ、開かない!?進めない!?魔法が構築されてる?これじゃ、覗けないじゃない!」
…ミナだった。
(案の定、覗きに来たか…)
ユウキは浴室には誰も入ってこれないよう、魔法を展開した。その理由はもちろん…。
「ミナ。お前が覗きに来ることは容易に予測できたからな。あらかじめ、対策を講じさせてもらった」
「そんな!それじゃ、覗けないじゃない!」
「覗かれないためにやったんだよ」
(とはいえ、ミナは俺の様な半端とは違い、魔法のスペシャリスト。俺の魔法を破るかもしれない。早めに出るか)
ユウキはそう思い湯船から上がり、腰にタオルを巻いて出口へ向かっていく。
「…ん?」
天井を見るとドーム状の光が消えようとしていた。そして、それが消えると同時にミナが戸を開けて浴室に入ってくる。
「魔導師の本気、舐めてもらったら困るよ!さあ!見せてよ!ユウキの一糸まとわぬ裸を!」
ミナは恍惚とした表情、狂気すら感じる目でよだれを垂らし、視線をユウキの下半身に移す。ユウキは腰に手を添えて立ちはだかっていた。一瞬の静寂が訪れ、直後、ミナはその場に四つん這いで倒れ込む。
「タオル…だと…?」
ミナは絶望したような顔になる。が、すぐに恍惚とした表情になる。
「でも…上半身でも…いい…!」
「…お前、もう手遅れだな…」
「いける!これでも目の保養になる!この筋肉…いい!」
「…駄目だ、こいつ。」
その後、何とかミナをなだめ、ミナの入浴が終わった後、ユウキはミナに村長のもとへと連れられる。
「こちらが村長のアルマさん」
「主がミナの伴侶かいな」
高齢の女性がユウキに向かって言う。入れ歯でも入れているのだろうか。しきりに歯を鳴らしている。
「伴侶だなんて…気が早いですよ〜。アルマさん」
ミナが満更でもなさそうに体をくねくねさせて言う。
「なるほど。アルマさんだっけ?まずは一言言いたい」
ユウキはいきなり頭を下げる。
「え!?どうしたの!?ユウキ?」
ミナが驚いた表情をする。
「…ミナを受け入れてくれてありがとう。あなたのおかげでこうしてミナの笑顔を見ることが出来た」
「ユウキ…」
「…わしは特に何もしておらんよ。この子がここでうまくやれたのは、この子の人徳じゃ」
「…それでも、俺は感謝する。あなたがミナを拒絶していれば、彼女の居場所はなかっただろう」
「…良きパートナーに出会ったな。ミナ」
アルマがほほ笑む。
「はい…!」
ミナの瞳には軽く涙が浮かんでいた。
「さて。顔を上げい。そういつまでも頭を下げられていてはかなわん」
ユウキはそう言われ、頭を上げる。
「しかし、まあ。奇妙なもんじゃ。二人も崖から落ちてきたと思えば、お互い縁のあるものとはな…」
「奇妙なのはこの環境だと思うんだが…」
「んにゃ。まあ、ここの村の者はな。遥か昔に、恐怖の魔王から逃れるためにやってきた集団でな。魔法を使うものや腕に自信がある者たちでこの崖の底にやってきて村を作り独自の楽園を築き上げたんじゃ」
「…なんか突拍子のない話だな。ずっと、ここで過ごしてたなんて」
「ここで何事もなく平穏に暮らせていたのは理由がある」
「理由?」
「そうじゃ。いくら、こんな見つからなさそうな場所に逃げたところで魔王にかかればすぐじゃろ。大勢の人間のマナが集まってるからな。すぐに感じられよう」
「マナを感じる?」
「そうじゃ。優れた者はマナの流れを感じ取れる。そこのミナのようにな」
ユウキがミナを見ると肯定するかのように微笑む。
「…じゃが、実際には見つからなかった。何故か。この崖の底にはタロスという強大なマナを有する魔物が眠っているからじゃ。あまりに強大なため、ちょっとやそっとのマナが集まったところで気づかん。そして、魔王は人間以外には全く興味がなかったからな。こんな所に現れることもなく、わしらは今まで無事だった。最も…タロスが人間を守っとるというわけではないがの…」
「……?」
「まあ、こんな辛気臭い昔話などいつまでもしてないで、若い二人で村でも散歩するがええ」
アルマがこの場の空気を切り替えるように手を叩く。
「あ…。でも、アルマさん。私この後、ゴンゾウさんの所の子に魔法を教えに行くことになってるんだけど…」
ミナが残念そうな表情を見せる。
「別にええ。ゴンゾウには代理の教師をよこすと後で連絡しとく」
「ありがと!アルマさん!」
ミナがぱあっと明るい表情を見せる。
「じゃ、行こ。ユウキ!」
ミナがユウキの腕に自らの腕を絡ませ急かす。
「お、おう」
二人はその場を後にした。
バカップル…




