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◇27.今から街の救援に向かうんですけど。


 イアンからの報せを耳にして、俺は「遅かったか」と思った。

 アンリエッタを帰らせるより早く、すでに事は起こっていた。しかも被害は、結界の外にまで及んでしまっている。


 そもそも魔獣の大発生は想定外の出来事というわけじゃない。グラフィアスの結界は、その魔獣から国を守るために作られたものだからだ。

 ただ、魔獣が発生するといっても、それらは無軌道に人間の領地を荒らして回るに過ぎず、それだけで結界が破られることはない。

 だからあの国の魔術師たちは聖女の役目についてさほど重く考えず、俺を追い落とそうが気に留めることはなかった。


 しかし、実際に破られるとなると話は別だ。


 魔力が足りずに弱まった結界。

 数十年に一度の魔獣の大発生。

 それらの要素が重なり、結界の一点へ大量の魔獣が突貫すれば、たとえ国家レベルの防御魔法だろうと鉄壁とはいえない。

 事実、すでにバリアは破られてしまっている。


 そして、この状況から推測するに、魔獣の流れを操ることで結界に穴を開けた奴がいる。


 昨夜の襲撃をあわせ考えて、すべてタイミングを計られていたのだと思い至る。


(これは……思った以上にまずい事態になってるな……)


 一方、結界がない商業都市国家リッケスにとっては、それらの策謀はとんだとばっちりといえた。


 近隣の国々の位置関係を説明すると、北方にグラフィアス王国、平原を挟んでその南にリッケス。リッケスのすぐ西に、俺とリリアが住むカルスの森がある。

 魔獣が発生するのは、グラフィアスから見てさらに北東にあるゲイグリングの大沼地。

 沼で生まれたモンスターが一斉に南下してグラフィアスを襲い、そこから進路を逸れた何割かがリッケスにも及んだというわけだ。

 リッケス以外にもグラフィアス周辺には距離を隔てていくつかの国があるが、今回の陰謀がどの国の企みかはわからない。

 ただ、結界による利益を唯一享受しているグラフィアスにとっては、どこが敵になってもおかしくはなかった。


「魔術師さま、お願いします! どうかグラフィアスを助けて下さい!」


 アンリエッタが切羽詰まった様子で俺へと頼んだ。


「いや、落ち着けって。そもそも俺に助けを求めたってお門違いだろうが。闇魔法しか使えないんだから。だいたい魔術師一人でどうにかなるレベルじゃないだろ」


 あまりの緊急事態にパニックになっているのか、無茶なことを口走る。

 俺が諫めるとアンリエッタはハッとなり、「す、すみません」と声を落とした。


 それに、グラフィアスを助けるより先に、俺にはやるべきことがあった。

 すなわち、結界外にあるリッケス都市部へ救援に向かうことだ。

 といっても、魔獣を殲滅するなんてことは当然できない。

 俺には俺なりのやり方がある。

 イアンもそれをわかったうえで、わざわざこの薬屋に助けを求めに来たのだ。


「リリア。今から店にある医療用具と影布をありったけ持って、すぐにリッケスに向かおうと思う。ただ、馬よりも君の背中に乗せてもらった方が何倍も速い。悪いけど頼めるかな」


「はいっ、カイトさんのご要望とあらば喜んで。でも、イアン君たちの前で変化かわってしまっても……いいんですか?」


「今はもう抜き差しならない状況にある。君には悪いが、事態は一刻を争うんだ。すまないが……」


「わかりました。私もそのくらいのこと、気にしません。遠慮なく命令して下さい」


「ありがとう」


 その会話が何を意味しているのかわからないイアンとアンリエッタをよそに、俺たちは出立の準備を始める。

 リリアはメルフィナたちダークエルフにも手伝いを頼み、結局竜化した彼女の背には、俺とイアンとエルフ三人が乗ることになった。


 そして俺は、アンリエッタに振り返って言う。


「お嬢さん、あんたも早く国に帰った方がいい。馬を一頭貸すから……いや、自分で乗れないか。それならリッケスの方が片付き次第、俺たちがグラフィアスまで送るから、ここで待っててくれないか」


 この森からグラフィアスまではかなりの距離がある。もしかしたらアンリエッタが帰国する頃にはすべて崩壊しているかもしれない。

 だとしても、彼女は祖国に戻りたいだろうと思い、俺はそんな提案を申し出た。


 だが、アンリエッタは思い詰めた表情を見せながらも、それを一部却下する。

 彼女は俺をまっすぐに見つめて言った。


「いえ、それなら私も、そちらの救助を……お手伝いさせてもらえませんか」

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