特別編 みんなと豆まき
「あれ、今日って何日だっけ……」
窓際のいつもの椅子に座ってふと、ひとり呟いた。
「えーっと、ここら辺にカレンダーがあったはず……」
立ち上がって、ベッドの横の机の上をガサガサとあさり、小さなカレンダーを手に取った。
ここに来てからサティさんに日付を教えてもらい、毎日×印をつけてきたので、今日の日付もわかる。
「今日は……っと、2月3日かぁ。」
コトンとカレンダーをもとの位置に戻す。
「2月3日ぁ? なにかあったよね…… あ! 節分か! 」
ぽんっとグーを造りパーを叩く。
「節分ということは、豆まきしたい! 」
そう独り言を大きな声で言っていたとき、ドアがノックされた。
コンコンッ
「お嬢様? ルミアスです。 入ってもよろしいですか?」
「はーい、いいですよ~」
そう返事をするとルミアスさんが顔を覗かせた。
「あれ? お嬢様、誰かいらしたのでは?」
訝しげにそう問われた私は恥ずかしくなった。
「あ、いや、あれは。ちょっとした独り言です……」
「なるほど、独り言だったんですね。盗み聞きしたわけではないのですが、お嬢様、節分ってなんですか?」
私の独り言はそんなに大きかったのか……そう思いながらもルミアスさんの質問に答えた。
「私がいた国で、毎年2月3日に行われてたものなんです。生まれたときから毎年してた行事なんで詳しいことはわからないんですけど、小さいときは自分の中の弱虫鬼や病気鬼を退治するんだ、って言って豆をまいてました」
懐かしいなと感じながらルミアスさんのほうを見ると興味深そうな顔をしている。
「ほぉー…… お嬢様がいたところは面白い行事があるんですね」
笑ってそう言った。
「はい。だから、その節分が今日だから豆まきしたいなって……」
「豆まきとは豆をまくってことですか?」
「そうなんです! 鬼を退治するために鬼に向かって『鬼は外、福は内』って掛け声をしながら豆を投げるんです」
「面白そうですね、私たちもやってみましょうか」
そのルミアスさんの発言に私は嬉しくなった。
「え、いいんですか!?」
「ええ、やりましょう。もちろん、サティ様やエルティスさんにカメルさん、ユリアンたちも巻き込んで」
とルミアスさんには珍しくいたずらっ子のような顔をして言った。
「お嬢様、必要なのは豆だけでしょうか?」
「豆ももちろん必要なのですが、もうひとつ重要なものがあるんです!」
少しもったいぶって言う。
「なんでしょうか?」
「鬼です!鬼役が必要です!」
「なるほど…… 鬼役は誰にやってもらいましょうか」
「それはあとで決めるとして、まずは紙とハサミとペンと輪ゴムを用紙してもらっていいですか?」
「わかりました。今すぐ持ってきますね」
そう言ってルミアスさんは部屋を出た。
戻ってきたルミアスさんは、私が頼んだ紙とハサミとペンと輪ゴムにいろいろな豆のはいったかごを持っていた。
「ありがとうございます」
私は紙とハサミとペンを受けとると、紙にさらさらと鬼の顔を描いて目の部分を見えるようにくりぬいた。
そして、お面にした。
「できました!」
「それは鬼……ですか? 」
「そうですよ、見えませんか?」
「い、いえ、見えます! お上手です」
「無理に誉めなくていいんですよ」
頬をぷくんと膨らませて言うと、ルミアスさんは困った表情で頭を撫でてくれた。
「ゆみ子ちゃん?入るよ?」
そう声をかけてサティさんは部屋にはいってきた。
「なんだい、ルミアスはここにいたのかい」
その言葉にルミアスさんは一礼する。
「あ、サティさんいいところに!カメルさん、エルティスさんにユリアンさんを呼んできてくれませんか?」
「もちろん、いいけど…… どうかしたのかい?」
私はその問いには答えず「よろしくお願いします!」と頼んでもう1つお面作りを始めた。
「ゆみ子ちゃん、連れてきたよ?」
「あ、ありがとうございます!」
ぞろぞろとサティさんたちが部屋にはいってきた。
「なにかするのかい?」
その問いに私とルミアスさんは顔を見合わせて笑った。
「今日はみんなで豆まきをしたいと思います!」
「豆まき?」
「豆をまくのか?」
「なんで豆まき……」
「……」
反応はみんな豆をまく?というようなものばかりだった。
「はい、豆をまきます!誰かにこのお面をつけて鬼役をしてもらいたいのですが……」
と言いながら私の作ったお面をみんなに見せた。
「鬼役かぁ」
「サティ様にぴったりの役だと私は思いますけど?」
とエルティスさん。
「エルティス、お前……!」
「私はエロヤブ医者のほうがお似合いだと思いますけど」
と相変わらずの毒をはくユリアンさん。
「俺はだれでもいいや」
とカメルさん。
「私もです」
とルミアスさん。
「お面は二つあるので、サティさんとエルティスさん二人ともできますよ!」
そう言う私にはぁーと息を吐きながら、二人はお面を手に取ってくれた。
「この老体に豆をぶつけるのかい?」
「明日筋肉痛になってくれたらどうするんだよ
そんな二人の言葉を無視して、私は残りの3人に豆を渡した。
「豆を鬼に当てたり、まくときは『鬼は外、福は内』っていう掛け声をします。まずは私がやってみますね」
「いきますよ!鬼は外ぉー!福は内ぃー!」
豆をバッとサティさんとエルティスさんに向かって投げる。
「痛い痛い、痛いよゆみ子ちゃん。」
「痛いですって~。もうこんなおじさんをいじめないで」
弱々しく二人が言う。
そんな二人が面白かったのか、ルミアスさん、ユリアンさん、カメルさんたちも豆を投げ出した。
「「「鬼は外ー、福は内ー!」」」
「痛いって~」
そんなことを言いながら、二人は逃げ回る。
だが、残りの3人も容赦しない。
「「「鬼は外ー、福は内ー!」」」
「もうやめようよ~」
そう言って、二人は部屋から出ていった。
「あら、鬼が出ていきましたよ?」
とユリアンさん。
「じゃあ、これで豆まき完了です!鬼を退治したので」
「これで終わりか。楽しかったのになぁ」
とカメルさん。
「たしかに楽しかったですね」
とルミアスさんが笑っている。そして
「じゃあ、豆を持たずに二人を迎えにいきますか」と言って二人を迎えに行った。
「ごめんなさい、サティさん」
「ゆみ子ちゃんが楽しかったらいいんだ」
お面をとりながらサティさんは私の頭をぽんっと叩いた。
「また来年しようね」
「はい」




