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拷問の森  作者: 凜音
7/9

反乱作戦

有能少女の反乱作戦。

私は今、森の中の小屋とおぼしき場所に監禁されている。


いすに両手両足を縛られた状態で、身動きができない。

ただ、昨日の爪への拷問の傷は丁寧に処置がしてあった。

なんでも「感染症で死んだんじゃつまらないし、傷が化膿しただけでも美しさが損なわれる」らしい。

猿ぐつわを噛まされていて大声を出すこともできない。

もっとも、お姉さんが言うには大声を出した程度ではとうてい見つからない場所らしい。ならなぜ猿ぐつわを使ったかというと「舌をかみ切られたら困るから」だそうだ。


「まあ、舌をかみ切ったくらいじゃそうそう死なないんだけどね。痛いだけだと思うし、見た目が悪くなると嫌だから」



初めての拷問が終わったあと、お姉さんは「これからの予定を説明する」と言った。


「私も仕事があるからさ。一日一回はここにくるけど拷問しているほど長くはいられないのよ。だから、拷問は私が次の日休みって時だけね。それ以外の時はあなたのお世話をして上げるから、安心して?」


そして今、私は小屋に監禁されている。

時刻は夜、一つしかない窓から入ってくる光が完全になくなり真っ暗になっている。


私は昼間見える範囲で小屋の中を見てみたが、一つ気になる物があった。

それは小屋の隅に無造作に置かれている何本かの木の杭。

ほとんど腐りかけているけど先は十分に尖っているし原形はまだまだ留めている。

もしも腕も足も解放される瞬間があったら、お姉さんの隙を突いてあの杭で反撃を企てるというのがこの状況を脱する上でもっとも有効な手段に思えた。


もしもその作戦を実行するとしたらできるだけ早いほうがよい。

時間がたつにつれて衰弱していきまともに動けなくなるのは予測できることだ。

私はただ、時機が来るのを待つことにする。


目を閉じると気絶するように意識を失った。


次に目を開くと小屋の中は明るくなっていた。

一夜を過ごしたらしい。同じ状態に固定されているせいで体中がぎしぎし軋むように痛い。しばらく少しでも楽になるように少しずつ体を動かしていると足音が聞こえた。


小屋の扉が開く。

お姉さんが入ってきた。

今の時刻はよく分からないけどお姉さんは昼間にここに来るみたいだ。

おそらくここに明かりを確保する設備はないのだろう。

あの暗闇の中ではなにもできない。

つまり、脱出の機会があるとしたら外は明るい状態。山の中を逃げていくのだから転倒することとかを考えれば逃げやすいかも知れないがそれはお姉さんにそれなりの手傷を負わせない限り追いやすいと言うことでもあった。


「調子はどう? 明美ちゃん」

「……」

「あらごめんなさい、それを外さないと喋れないわよね。今外すから」


お姉さんが猿ぐつわを外してくれる。


「改めて、どう? 調子は?」

「……のどがすごく渇きました。それと、体中が痛いです」

「ふふ、そうよね、じゃあ食事と運動、どっちを先にする?」


森が鬱蒼としていてそこまで温度が高くないとはいえ真夏に一日中放置されていたのだ。まずは水分を摂らなければ動けそうになかった。


お姉さんに助けられてペットボトル2本分の水と手作りらしいサンドイッチを食べた。


「それじゃ、運動ね。今から両手両足の拘束を外して上げるわ」


思わず隅の木の杭に目がいきそうになるがお姉さんがこちらの目をじっと見ているに気付いてそれを押しとどめた。


「ただし、変なことを企んでいたらコレよ」


そう言ってお姉さんがバックの中から取りだしたのはスタンガンだった。


「別に改造なんてしてない純粋な護身道具よ。だから当てられたからって即気絶なんてことにはならないし、後遺症が残ることもないわ。そもそもスタンガンで気絶させるなんてほとんどできないのよ。でもね」


お姉さんがスタンガンのスイッチを入れる。


バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!


青白い光とともに威圧的な音が発せられる。


「コレってこういう風に威嚇して相手の抵抗の意思をなくすことが目的なのよね」


お姉さんはスタンガンのスイッチを入れたままそれを私の目の前に持ってくる。


「……ッヒィ! や、やめてくださ……」

「ふふふ、可愛いわね。目を大きく見開いちゃって、そんなに珍しい?」


いいようのない恐怖が植え付けられる。

確かに、威嚇の効果は十分だった。

とりあえず、今日作戦を実行することは無理だと判断する。


私は拘束を外された後しばらく自由に動くことが許された。

屈伸運動などをして抵抗のそぶりは見せず従属の意思を示す。


しばらくするとお姉さんからいすに座りなさいと指示される。

素直にそれに従い、再度拘束された。


「じゃあ、またね明美ちゃん。次の拷問は2日後だから気を引き締めておいてね」

「……」


それはとても好都合だった。

おそらく拷問の日には反撃をする隙はない。

ただ、明日も今日と同じように運動が許されるのだとしたらそのときがチャンスだった。拷問をされたら身体に大きなダメージを負うことは確実だったし、足にダメージを受けたら逃げることはかなり絶望的になるはずだった。

なんとしても明日、脱出を成功させなければならない。


お姉さんがいない昼間から夜にかけて作戦をさらに詳細に考える。

おそらく明日もスタンガンが私の抑止力になるはずだった。

だとしたらまずは木の杭を手にするところからスタートしなければならない。

今日の運動の時間はおよそ15分くらいだったと思う。

最初や最後はともかく間の時間はお姉さんの監視もそこまで厳しくなく、そう広くもない小屋の中を動き回ってもお姉さんは壁により掛かったまま動くことはなかった。


木の杭を手にするのにはそう手間はかからなそうだった。

問題はその後、スタンガンと木の杭でどう戦うかと言うことだった。


幸い木の杭の方が圧倒的にリーチが長い。

まずは顔に向かって杭を突き出し、ひるんだところでスタンガンを狙って杭を振り払い、スタンガンを落とす。

いや、そんなことをしなくてもよいのだ。

お姉さんもいっていたとおりスタンガン自体に当たっても即倒されると言うことはない。それなら、刺し違える覚悟でお姉さん自身に向かって杭を突き出せば良い。

身体に深々と刺すことができればスタンガンなど全く関係ない。

お姉さんを倒せればいいのだ。

今現在、自分にとってもっとも危険なのはスタンガンではなくお姉さんなのだから。

かなり運に任せた作戦だったが、それしか方法はなさそうだった。



夜、眠り。お姉さんが小屋の扉を開ける音で目が覚めた。


そして、昨日と同じようにペットボトル2本分の水とサンドイッチを摂取する。

そして昨日と同じように運動が許された。


初めのうち、私は屈伸運動をする。

しっかりと身体をほぐして、作戦の成功率を少しでも上げようと努力する。

体感時間で10分くらいがたち、私は覚悟を決め、さりげない様子で小屋の中を回り、木の杭の前までたどり着く。


ここからはスピード勝負。

素早く木の杭を拾うとお姉さんに突進する。

お姉さんは身構えるがそれは無駄になるはずだった。

なにしろお姉さんが右手を伸ばしてスタンガンを当てようとしても、それより先に私の木の杭がお姉さんを貫く。


しかし……


「きゃあ! なにこれ!」


お姉さんが左手を出したと思ったら突然目に激痛が走る。

思わず杭を手放してしまいそうになるが意地で目を開けられない状態のままお姉さんがいた位置に向かって杭を突きだした。


だが、そんな杭が当たるはずもなく手応えはない。

すぐ横にお姉さんの気配を感じると首にスタンガンを押し当てられる。


「……っが!」


ほとんど声も出せないまま筋肉の力が抜け床に崩れ落ちる。


失敗した。

おそらく左手には痴漢撃退スプレーみたいな物があったのだろう。

それに、お姉さんが慌てていなかったところをみると木の杭が置いてあったのも、リーチの短いスタンガンで勝てる可能性があるように見せたのもすべて作為の下だったのだろう。


「ふふふ、いいわね、明美ちゃん。あなたは本当に賢いわ。こんな状況でも、常に最善の手を選んでくる。恐怖で簡単に心を折られないって、とてもすごいことよ」


「……っぐ、っあ!」


「そうそう、本当は明日お休みなの。これから、拷問を始めるわよ?」


「う、うあああああああああああ!」


すべて、お姉さんの手の内。


私の反乱作戦は、失意のうちに幕を閉じた。

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